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大家さんの話口はやはり心地よかったわ。お前が一緒に酒を酌み交わしたのも納得できる。クソのような人間に限ってその話の内容は一致してる。「自分がいかに素晴らしいか!」それをアピールするのに必死や。アピールせなアカン時点でそうでないってことを証明しているってことにすら気づいてない。そやからクソ人間はとにかく自分が喋る。喋って、喋って、喋り倒す。クソやから、喋れば喋るほど自分の格が上がると本気で思うとる。ある意味幸せ者かも知れへんわ。そやけどクソやから『語るに落ちる』って格言も知らんのや。直接的であれ間接的であれ、そんな連中の話はもうウンザリやわ。俺らはそんな人間を心底嫌うてた。でもな!あの人はやっぱり人間を知り尽くしてはるわ。それでいて人間を慈しんではる。俺な、一回あの人に聞こうと思うてるねん。「なんでそんなに人間のことを知り尽くして迂のに、人間を受け入れて慈悲をもって接することができるんですか。」って。ともかく、あの人がお前の妹さんと姪っ子に対して向けた言葉や態度はまさに横綱相撲って表現がぴったりやった。横綱相撲!それはまさしく『受けてたつ』姿勢の異名や。
2017.07.31
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それから我々4人は大家さんのリクエストで、ある居酒屋に入った。そうや!お前がときどき大家さんと行ってったっていう居酒屋や。広くて、明るくて、注文の品もまあまあ早く出てきて…家族向きの居酒屋って感じやけど、どことなくあの居酒屋に似てたわ。あのお客を放っておいてくれる感じな!やっぱりああでないとアカンで。店に入ると、大家さんはまず姪っ子に好きなものを注文させた後、「あとは私に任しとき!」と言ってテキパキと注文をしてくれた。そのラインナップを聞いて俺はすぐに分かったわ。お前と大家さんがここにきたときによく注文した品々や。お前がようあの居酒屋で食ってたものがほとんどやったわ。でも1つだけ、あの居酒屋でお前が注文せんかった料理が入ってた。だし巻き玉子や。俺はあの居酒屋で、なにがあってもだし巻き玉子を食ってた。そのたびにお前は俺に「お前好っきゃな~、だし巻き玉子!」って言うてたっけな。そのうち注文した飲み物や料理が運ばれてきて食事が始まった。しばらくすると、だし巻き玉子も運ばれてきた。大家さんはそれを手にすると、俺の前に置いた!「あんた、これ好きなんやろ? 食べや。」と大家さん…なんで俺の好物を知っているのかと尋ねると、「あの子がよう言うてたんや。『俺にも友達がおるんですわ。そいつはいっつもだし巻き玉子を食いよるんです。』って・・・、あんたのことやろ?」と言われたわ。なんかな、思わず涙が出そうになったわ。なんとか堪えたけどな。俺らは知り合ってから会うてない時間の方が圧倒的に多かったのに、お前は俺の話をよく大家さんにしてたんやてな。それを想うとや。なんか思わず泣きそうになったわ。
2017.07.29
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俺の車で待ち合わせ場所に到着すると、まだ停車もしていないのに母娘が車内から手を振りだした。2人の目線の先にはベンチに腰を掛けた、小柄な女性が座っていた。どこにでもいそうなおばあちゃん・・・、いや、下手をすればその存在にも気づかないかもしれない静かな佇まいの人だった。私が車を止めるとすぐに姪っ子が車を降りてその人のそばに駆け寄ってその女性に抱きついた。その女性は「おお、よう来たよう来た。」と言って姪っ子の背中を何回もポンポンと叩く。するとあの陽気な姪っ子が声をあげて泣き出した。「泣かんでもええ泣かんでもええ!分かってる分かってる。」と言ってその女性は泣きつく姪っ子と少しだけ距離を取り、その顔をまじまじとみた。「泣いたらべっぴんさんが台無しや!」といってハンカチで涙を拭いはじめた。「私、おばあちゃんに会いたかったんよ。」その言葉に彼女は「わしもやで。」と言って満面の笑顔を見せた。そして車から降りて近づいた妹さんに「よう来てくれたな。元気やったか?」と声をかける。「はい、去年は本当にお世話になりました。」との妹さんの言葉に「わしゃ、な~んもしとらんよ。」と答えて、片手に姪っ子、もう片手に妹さんを抱きしめてまた「よう来てくれた、よう来てくれた。」と言葉をかけた。再会を十分にかみしめたあと、その女性は俺の方を見て、「そうか、あんたなん? ようあの子から話に聞かされてたけど、そうか、あんたなんか。」と言うてくれた。それで俺の手を取って「あんたもよう来てくれたな。」と一言。「はじめまして。」と俺が言うと、「はじめての気はせんわ。」やて。そんで「できたらあの子と3人で呑みたかったな。」って言うてくれはったわ。
2017.07.28
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いろいろと、ホンマにいろいろと話しをした俺たち3人は気分と場所を変えて昼食をともにした。そこでは湿っぽい話はなかった。もちろんお前の話題が多かったけど、明るい話が続いた。昼食後は2か所ほどの観光スポットを案内した。その場所は2人のリクエストやった。お前の日記に記されていた場所や。2人はお前が訪れた場所にいってみたかったんや。ホンマはもう一か所あったんやけどな。俺らが出会うたあの居酒屋や。もう店じまいしてたけど、跡地には案内したで。でもあの居酒屋を出たすぐにあった自販機はまだ健在やった。「酔い覚ましや」ってお前がよくこの自販機で飲み物を買った話をしたら、姪っ子がお前が何を買うたかを聞いてきたわ。教えてあげたら、彼女はお前がよう買うてたあのコーヒーを買うて飲んでたわ。ほんで空き缶を洗うて持って帰ったぞ。「私もお酒を飲めるようになったら、酔い覚ましにこれと同じコーヒーを飲みます」やって。あの子はお前と酒を飲みたかったんやと思うぞ。お前もおんなじやと思うけどな。あの子は将来、酒を飲んだ後にあのコーヒーを飲むことで、お前と一緒に酒を酌み交わした気分になりたいんやろうな。お前はやっぱり幸せ者やで!そんで、その後は、あの人に会いにいった。昨年お世話になったお礼を言いたいからと母娘がアポイントを取っていた。夕食はその人と4人でいただくことになった。そう。大家さんや!
2017.07.27
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そやのにお前は独りで生きた。それを妹さんは気に病んでたんや。結婚して、名字を変えて、離れた土地に移って、お前を独りにしてしまったって。その悲しみで、あのとき号泣したのではないかって。でもここまで話をしたら分かってくれたで!お前はご両親との約束を果たせたことで嬉しさが込み上げたんやって、そやから泣いたんやって、分かってくれたで!それとお前は孤独やったんではないことも分かってくれた。お前は孤高やったんや!そやから、妹さんが気に病む要素なんて微塵もない。それどころか!ちゃんとお前の思いを、ご両親の思いを現実のものにして、その思いの全てを受け止める理解力のある男性と出会って結婚し、同じくその思いの全てを受け継ごうとする娘に恵まれて、幸せな家庭を築いている。間違いなく胸を張って顔向けできる。お前にも、父親にも、母親にも!そう言うといたぞ。お前になり代わってな。礼はいらんって!友達やんけ。
2017.07.26
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俺が妹さんに確認したのは、写真の向きや!お前は式の間中ずっと、ご両親の写真を妹さんの姿が見える方向に向けてた。妹さんの花嫁姿をご両親に見せたかったんや。そやろ?でも、あのとき、お前が崩れ落ちて泣いたとき、ご両親の写真を自分の方に向けて抱きしめた泣いたんやろ?それが何よりの証拠とちゃうか?お前がほんの少しだけ心を緩めた瞬間にご両親のことを想ったんや。そうやねん。自分の言葉に責任を持つってことは、一瞬の気の緩みも、ましてや微塵の言い訳も許されへんことなんや。お前はそれを知ってる男やったんや。兄になると分かったあの幼い日に父親に言った「うん」。それと母親のお前への最後の言葉に対しても、お前は「わかってる。心配いらへんよ。」って言うたそうやな。妹さんが教えてくれたわ。父親への一言、そして母親への一言、その言葉を守るためにお前は人生を貫いたんや。誰に理解されることもなく貫いたんや。泣いてよかったんや。泣くべきやったんや。思いっきり泣いたったんやろ?そんでよかったんや。こんな立派な生き方があるか?ないで!お前はたいした男やった。お前は尊敬すべき男やった。そして何より・・・誰からも愛されるべき男やったはずなんや!
2017.07.25
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その原点は俺らの最後の難関と共通する。お前言うてたよな。まだ幼い頃、お前は母親のお腹に新しい命が宿り、家族が増えることを父親から知らさせる。生まれてくるのが弟か妹かはそのときまだ分からんかったけど、お前が兄になることだけはそのとき確定した。そしてお前の父親はそのときお前に「これからは『お兄ちゃん』って呼ぶよ。」と言った。そしてさらに母親が「これからはお兄ちゃんとして、生まれてくる子を守ってあけてね。」と言った。その両親の言葉にお前は「うん!」って答えたんやったな。お前は言葉の重みを知る男やった。父亡きあと、そして母亡きあと、その「うん!」の一言を守るためにお前は必至で生きてきたんや。世間に何と言われようと、だれもお前を応援しようとすることがなくてもや。だからや、だからこそお前は、妹さんの感謝の言葉を聞いたあと、両親との約束を果たせたことにほんの少し安堵したんとちゃうか?安堵してしもうた瞬間、両親の顔が浮かんだんやろ。あるいは言葉も聞こえたんか?そんときご両親はお前に何て言うてくれたように思えたんや?「お兄ちゃん、今までほんとうにご苦労様」って言うてもろたんか?「お兄ちゃん、今までほんとうにありがとう」って言うてもろたんか?「私たちが早く逝ってしまったから、お兄ちゃん一人に苦労させてごめんね」って言うてもろたんか?とにかく!その一瞬だけ、お前は自分への酷評を忘れてしもたんや。その上この世で唯一お前の苦労を理解し、お前に愛情を注いでくれたご両親の姿を思い浮かべてしもたんや。そやから!そやから、泣いたんや。ちゃうか?違うとは言わせへんで。その証拠に俺は妹さんに1つだけ確認させてもろた。お前が泣いてたときの様子や。
2017.07.21
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だからやろ?お前は妹さんの結婚式の最中も自らに酷評を下すことで涙することなく笑顔で過ごせたんや。自分がいままでしてきたことは、だれに褒められて評価されるようなことと違うんや。ゼロや!なにもしてないのと一緒や。またはマイナスや。でもそれでええねん。もともとだれかに良く思われたり、同情してもらうために生きてきたんとちゃう!父の思いに、母の言葉に応えるために!妹のささやかな幸福を実現するために生きてきたんや!「おにいちゃん」として当然のことをしたまでや。何のすごいこともあらへん。他の人間ならもっとうまくやったわ。もっと利口にやったわ。俺やからこの程度や。おそらくそんな風に思って、自分をコントロールしたんやろ?いつものように。そやから涙することは無かった。でも、妹さんの最後の感謝の手紙の朗読や。その言葉を聞きながら・・・今までの兄妹の人生を思い返しながら・・・その原点を思い出してしもたんとちゃうか?その原点の1つを俺はお前から聞いた!あの居酒屋でな。
2017.07.19
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その人たちは・・・俺らにニヤけながら酷評を下して楽しむ連中とは異なり・・・俺らが社会人になったと喜び、俺らが学校を卒業したと喜び、俺らが学校に入学したと喜び、俺らが困ったときは本気で心配し、俺らが病気になったときは回復のため奔走し、自分の命と引き換えにでも助けようとし、俺らがひもじい思いをしないようにと身を粉にして働き、毎日毎日、来る日も来る日も食事を作り、俺らが真っすぐな人間になれるように無償の愛情を注ぎ続け、俺らがはじめて立ち上がったときは大歓喜し、俺らがはじめて言葉をしゃべったときにも大歓喜し、俺らがこの世に生まれたときには喜びの涙をもって迎えてくれた人たちや!そう!親や!親だけは唯一、俺らを理解して、ほんの少しのことでも高評価と激励を与えてくれた存在やった。間違った道に踏みこもうとしたときは、本気の愛情をもって叱ってくれもした存在やった。そして遠い遠い昔、俺らはすぐそばにそんな人たちがいることが当たり前やった。そんな幸せな子供であった短い時間の思い出や記憶が、最後の最後に俺たちの前に立ちはだかる!!!・・・・・
2017.07.18
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俺らの心の中に現れる最後の難関!それはおそらく過去の記憶や思い出がきっかけで俺らの前に立ちはだかる。・・・・俺らの人生は常に独りであることが絶対条件。望むと望まざるに関係なくそういう人間に生まれついた!あるいは、この自分にとことん甘いチャラけた世の中に弾き飛ばされ、または自らそんな腐りきった世の中を捨てるためにそうなった。バカ共がチャラチャラと時間を浪費している間に俺らは学び・動き・考える。そうやって生きていくには独りでいなければ無理や。群れを追われたジョナサンはフレッチャー達のいる群れと出会ったが、あれは小説の中の話であり、理想論。そんな群れに俺らは出会うことなんか皆無や。その現実の中で生きていく俺らにとって孤独は友でありエネルギーとなる。しかし!まだ未熟な段階では、ときに辛い時間が訪れる。辛いことや悲しいことが起こったとき。これは慣れれば簡単に独りで対処できる。耐えればええだけ!中途半端なチャラけた何の思想も哲学も無いその場だけの自己満足の慰めなんか要るはずもない。独りの方がたやすく、最短時間で乗り切れる。ところが!どうしても対処しきれないことが起こる。それは、嬉しいことがあったときにその気持ちを分かち合う人がいないときや。この嬉しさを分かち合える人がいない現実に愕然とする。そしてその嬉しさをも押し殺そうと格闘する。自分に酷評を下し続ける俺らでも、嬉しさを感じてしまう瞬間がある。それを押し殺すのはかなり難しい。でも俺らは押し殺す。ただただ押し殺す。そんなとき、嬉しさを押し殺してるとき、ふと昔の記憶が、昔の思い出が脳裏に浮かんでしまう。浮かばんでもええのに浮かんでしまう。遠い遠い昔・・・俺らの喜びを自分の喜びのように感じてくれて・・・愚かな俺らの一挙手一投足にいつも温かい眼差しを向けてくれていた・・・こんな俺らに唯一多大な優しさをもって接してくれた人がいたことを思いだしてしまう。その挙句、愚かにも、浮かばんでええのにその人たちの顔が浮かんでしまうんや。そしてときにはその人たちの声を聞いてしまうんや。
2017.07.17
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それが嫌っていうほど分かってきたら、俺らは世間の評価なんか全く気にしなくなる。こうなってきたら人生なかなか捨てたもんちゃうと思えてくる。でもしばらくすると何か悲しい思いが胸のどっかて引っかかっているのに気づき出す。なんや?この悲しい感じは・・・。しばらく自分を冷静に分析するとその原因が見えてくる。心のどこかに、まだ自分に良い評価をつけてあげたい自分がおるんや。そいつが自分の心に文句を言う!「なんで世間は俺を受け入れないんや!?」って。そんな思いがしばらく・・・あるいは何年か続く。そしてそのうちその思いの克服方法も自然と身についてくる。それは簡単なこと!世間と同じように自分も自分自身にこれでもかという酷評を下す。ときには世間の連中よりもはるかに酷い酷評を下す。ひたすら下し続ける。そうすれば、この心のどこかに引っかかる悲しい気持ちはきれいさっぱり無くなる。それと同時に俺らは、自分に甘えず勇気を持って酷評を下す意義を見い出す。人間は何事にも「これでいい」と思うとそこから成長しなくなる。俺らには「これでいい」は無い!つまり俺らは成長し続ける。言葉を変えれば、自分自身に挑み続ける。そして、これこそ人間が他の動物を一線を画す所以であることを知り、さらに自分の内面に挑戦していく。こうなれば自分が外見だけを追い求めてチャラチャラ生きていく人間でないことに心底安堵する。この意義さえ見いだせれば、あとはもう無敵モード!・・・ってなるはずやってんけど。ここで俺らの心の中に、最後の難関が現れる!こればっかりは、どうしても克服できへん。それが唯一、俺らのような人間の弱点となるんや。そんな克服不能の難関にぶち当たる。
2017.07.16
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となればここでひとつ問題が生じてくる!ほななんでお前が涙したか・・・や。これは俺らみたいな人間を理解してもらわな分かってもらえへんわ。そやけどちゃんと話といたで。俺らのような人間は、何かをしてもそれは世間的にゼロや。良くてゼロや。そやろ?お前もそうやったやん。たとえばや!父親を亡くして高校生の身で小学生の妹のために父親であろうとしたんよな。お前やって父親を亡くして悲しかったのに。辛かったのに。お前は幼い妹に寂しい思いだけはさせとうなかったんや。でも、お前のその思い、その行為を世間はどう見た?「女性に相手にされなさ過ぎて、その挙句に妹に走った」・・・これが世間の評価やった!お前を知っている全員が全員そう思ってなかったんなら、お前は郷里を出んかったやろ?味方も理解者もおらんかったんやろ?それやのに・・・唯一の味方で理解者であった母親までも失ったんや。もうそんな土地に居とうはないわな。その土地の人間たちだけが悪いってわけやない。今の日本人はその程度の民族に成り下がったんや。男前や美人がなにかをしたら、即それは美談になる。たいしたこない、ただただ普通のことやのに美談になる。ときには何もせんでも美談になる・そうでない人間は何をしても酷評されるか、なにもなかったのように流される。ごくごく自然に、ごくごく当然かのように、「死ね」と言われる。そやからや・・・高校生の身で、妹のために粉骨砕身の努力をしたお前に対する世間の評価はゼロやなかったんや。マイナスや。マイナス何百万も何億もの酷評やったんや。これがちょっをこましな外見の男やってみぃや。こんな美談はないわ。小説になって映画になってるわ。お前やったからなんや。俺らやったからそんな酷評を喰らうねん。
2017.07.15
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お前が涙した訳!それは間違っても「独りになる」からとちゃうねん。そやろ?理由は簡単。至って簡単。俺らのような人間は、孤独であることは普通なんや。そやから独りになる、孤独になるって理由で涙するわけがない!独りでない人、孤独でない人には分からへんみたいやけど・・・そらそやわ!俺らにとって独りでおることは、魚が水の中にいてんのと同じや。水の中に入れられて悲しむ魚がおるか?おらん!悲しむどころか嬉しいっちゅうねん。まさに「水を得た魚」なんや。あるいは、魚と生まれたからには否応なく水の中で生きていかなアカン。もうそれは努力やなんやで克服できるもんとちゃう!だからやねん。お前がこの世でたった1人の家族である妹さんがお嫁に行くからって、孤独に苛まれて泣くようなことは無いんや!その証拠にお前は妹さんに結婚すると言われても、その相手に会わされても、結婚式の最中も、笑顔でにこにこと過ごしたんや!そやから!そやから、妹さんがお前に対して申し訳ないなんて思う必要は微塵も無いねん。それをしっかり言うといたで。妹さんは泣いてたわ。
2017.07.14
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100名を超える人たちの中で泣き崩れる兄妹・・・しかしだれもその2人に寄り沿おうとする人はいない。その時、妹さんは思うたんやて。やっぱりこの世で私たち兄妹は2人っきりで、だれも助けてなんかくれないって・・・その瞬間新婦の肩を抱く人物がいた。新郎だ。新郎に支えられながらようやく立ち上がる新婦。その目の前では、まだお前が泣き崩れている。私が自分のことだけを考えて、その結果、お兄ちゃんを独りぼっちにしてしまった。こんな申し訳のないことがあるのだろうか・・・そう思うたんやて。そのことを詫びること無くお前を見送るときを迎えてしまったことを深く深く後悔してるって、妹さんは言うてたで。でも!それはちゃうねん。そやろ?絶対ちゃうねん。お前がなんで泣いたか。大勢の人たちの前で、大切な大切な妹さんの結婚式で、枯れんばかりに涙を流したんか。俺には分かるわ!そやからな。そこはちゃんと言うといたで。妹さんのために、何よりお前のためにな。
2017.07.13
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涙にまみれながら手紙を読み終えた新婦は、手紙を封筒に入れてお前に手渡そうとした。そのときだった。新婦はドンという音を聞く。手紙を封筒に入れるため手元を見ていた目線を前に向けた。そこには両膝を床についてうずくまるお前の姿があった。一瞬何が起こったか理解できなかった新婦は、お前が床に落としはじめた涙の粒を見て状況が飲み込めた。次の瞬間・・・お前は大声をあげて泣き出した。ついさっきまであれだけにこにこしていたのが嘘のようだった。場内にいた誰もがその姿に驚いた。そんときな・・・妹さんはハッとしたんやて。地にひれ伏して号泣するお前に、だれも寄り添う人がおらんかったんやろ。まあそらそやわな。でも妹さんはハッとしたんやて。私は今、あれだけ私のことを思ってきてくれたお兄ちゃんを、独りぼっちにしようとしてる。お兄ちゃんを独りぼっちにすることで、私は私だけが幸せになろうとしてる。そう思うたんやて。お兄ちゃん、ごめんなさい。 って言いたかったんやて。でも言えんかったんやて。そやから・・・ただお前のもとに駆け寄って、お前を抱きしめて一緒に泣くことしかできへんかったんやて。
2017.07.12
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その日、授業が休講となりたまたま在宅していたお前は病院からの電話を受ける。そしてそのまま自転車に飛び乗り妹さんの学校へと走る。先生に事情を説明して妹さんを早退させ自転車で病院に向かおうとする。しかしさすがに自転車の2人乗りはいけないと、学校がタクシーを手配する。兄妹が病院に着いたとき、まだ母の意識はあったが厳しい状況だった。そして、数時間後、お前たちは母親の最後の言葉を耳にする。お前には「あとのことは頼んだよ。」妹さんには「ごめんね。ありがとうね。」・・・・・それからはお前は妹さんの両親であろうとした。そのおかげで妹さんは悲しみを乗り越え、しっかりと高校生としての日々を過ごし、学年トップの成績で卒業を迎える。卒業式にはもうぶかぶかでなくなった父親のスーツを着て、小さな額にいれた両親の写真を持ったお前がいた。新婦である妹さんの手紙には、そのお前の全ての行為に対する万感の感謝の辞が綴られていた。それでもお前はにこにこ笑いながらその言葉を聞いた。会場の全員が涙していてもお前は笑っていた。
2017.07.11
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司会に促され、お前は新郎・新婦の待つ壇上へ上がる。その手には小さな額に入った両親の写真が持たれていた。新婦の朗読がはじまる。話は平凡ではあるが幸せに満ちた家族四人の暮らしのことからはじまった。父親との思い出の話・・・母親との思い出の話・・・亡き両親への感謝の言葉・・・そして話はお前のことに移行する。父親亡き後は、お前は妹さんの父親であろうとした。父親参観日にはまだ高校生だったお前が父親のスーツを着て参加した。サイズの合わないぶかぶかのスーツ姿で参加した。働き出した母親の帰宅が遅い日には、妹さんが帰宅したとき暗い家ではアカンと言って、お前は学校が終わると一目散に家に帰った。そして慣れない夕食を作った。練り物がぶよぶよに膨らみ切ったおでん・・・真っ黒なハンバーグ・・・焼き過ぎて炭のようになったさんま・・・どう見ても焼きそばの色にしか見えないナポリタンスパゲティ・・・水の加減を間違えておかゆのようになったご飯・・・様々な斬新な料理が食卓に並んだ。そのうち「妹が、」「妹が、」と言うお前を揶揄する人間たちが現れる。「シスコン」はまだいい方で「あまりに女性に相手にされなさ過ぎてついには妹に走った」とまで言われ出す。そんな陰口はおそらくお前の耳にも入っていただろうに、そんなことには見向きもせんとお前は懸命に日々を過ごした。しかし・・・、残酷なことに、そんな心無い陰口は妹さんの耳に届いてしまう。小学校高学年の多感な時期にそんなことを聞かされた妹さんは、お前を遠ざけようとする。その結果、お前は自分の作った夕食を自分一人で食べることも多くなった。それでもお前は笑顔で妹さんに接し続け、夕食作りもやめなかった。高校卒業後はすぐに就職するつもりのお前だったが、母親の勧めもあって奨学金を受けながらの大学生になる。もちろん家から通える大学を選んだ。妹さんが高校受験を迎えると自らのバイト代で学習塾に通わせ、暑い日も寒い日も自転車で送迎をした。そして妹さんが高校生になって最初の夏休みが間近となったある暑い日・・・母親が職場で倒れる。
2017.07.10
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妹さんは高校を卒業して関東の大学に進学した。そのときお前は24歳。お前は20歳になった年に病気で母親までもを失った。それでもお前たち兄妹は大阪で懸命に生きた。そんなときだった。小さいときから慕っていた親戚連中がお前たちの行く末を憂うこと無く、まだ世の中の仕組みを熟知していないことをいいことにお前たち兄妹が手にした両親の遺産を卑怯にも騙し取った。それに心底嫌気をさしたお前は妹さんが高校を卒業するまではと我慢に我慢を重ねた。そやから、妹さんの大学進学を機に住居を引き払い大阪を出たんや。強欲な親戚との縁を断つために・・・。そしてお前が31歳になったとき、妹さんが25歳の花嫁となった。結婚式は関東で開催された。新婦の友人は大学時代と就職先の人たちだけ。そして家族・親族はお前ひとりだけやった。新郎とその親族たちは、お前たちの事情を知っていたのでそれでよしとしてくれた。式の当日。着慣れない正装に身を包んだお前の姿があった。笑顔で過ごし、料理を美味しそうに食べ、新郎側の親族たちの挨拶にも軽快なジョークを飛ばして対応し、新郎や新婦の友人たちの余興に上機嫌で拍手喝采をおくった。妹さんの友人たちから「いつも話を聞いています。私たちもあなたのようなお兄ちゃんがほしいっていつも思わされているんですよ。」なんて言われると、顔を真っ赤にして本気で照れもしたそうやな。でも最後の最後にお前にとって辛い時間がやってきた。新婦による『感謝の手紙』の朗読だった。
2017.07.09
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それともういっこ!お前になり代わり、ちゃんと妹さんに言うといたぞ。妹さんが一番お前に対して申し訳なく思っていることがあったんや。この話はお前にしたことなかったらしいけど・・・お前もだいたい察しはついてんのとちゃうか?お前!一回だけ妹さんの前で大泣きしたらしいな。しかも大勢の人たちの前でもあったんやてな。そうや、妹さんの結婚式や。そういや俺たちがあの居酒屋であんまり頻繁に会わんようになった頃やったな。お前もうすぐ妹が結婚するんやっていうてたな。泣いたらどうしょうって言うてたな。行かんどこうかな・・・とも言うてたな。俺はその顛末を聞くことなくお前と会わんようになった。お前、ちゃんと行ったんやな。妹さんの結婚式に!だれも言うてくれへんかったやろうから、俺が言うといたるわ。よう行ってあげたな。偉いで!それでこそお前や。それでこそ、あの妹さんのお兄ちゃんや!
2017.07.08
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お前の日記と、彼女の熟読が無かったら、俺はお前の妹さんと姪っ子に会うことは無かったやろうし、お前の最後を知ることも無かったわ。ホンマに感謝や!それでな。お前の話をし終えたときに、妹さんが形見分けにって小さな箱をくれたんや。一目でわかったわ。箱を開けてみたら案の定万年筆やった。お前から話を聞いたことがあったから分かったわ。間違いなく、お前が父親の形見として大切に使っていた万年筆や!妹さんに確認したら、「その通りです。」って言われたわ。こんな大切なものをもらえないって何回も断ったんやけどな。妹さんがどうしてもって言うてくれるから、とりあえず受け取ったで。お前が高校生になったお祝いに父親にもらった万年筆やな。それをもらった2か月後にお前の父は事故で亡くなったんやな。だから、お前はその万年筆を形見やって思って大切にしてたんやな。ずっと大切にしてたんやな。この話をお前から聞いたときに、まさかこの万年筆が俺の元にくることになるとは思わへんかったわ。
2017.07.07
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ちょっと顔を斜めに向けながらも目線で真っすぐ相手を捉えて話をする感じ。ぱっちりした瞳に輝く黒目!そして相手を思いやりながらもときに正論を述べることを恐れない語調!鉄腕アトムに似てないか?まあ女の子やからウランちゃんかもしれへんな。母親が俺にお前の話をして涙で言葉がつまったとき、彼女はしっかりその話を拾ってつなげる。そのうち彼女が言葉をつまらせれば、母親が話を拾ってつなげる。母娘の見事なコンビネーションやった。おかげで俺は話を聞きっぱなしやから、涙が途切れへんかったわ。そんな彼女はお前の遺品を引き継いだらしいぞ。見事に所持品を整理したお前が捨てれらなかったもの・・・本や!本棚5つにぎっしり詰まった本や!彼女は母親から聞いて知ってたわ。お前は俺にも話してくれてたよな。お前が父親から引き継いだ本や!読んだことのある本も読んだことの無い本もありますけど、全部読みます…って言うてたぞ。読むことで、お前や彼女が会うことのなかったお前の父親とつながることができる気がします…って言うてたぞ。さすがやな。心やさし、科学の子・・・ならぬ心やさし、読書の子・・・やな。お前はあの子の中にもちゃんと生きてるやんか。お前はやっぱり幸せ者やで!
2017.07.06
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俺も不思議やってん。なんで「お前」「お前」って呼び合ってたお前が俺の名前を知ってたんかが。だって俺も今回お前の妹さんに会うまで、お前の名前なんか知らんかったもん。姪っ子が教えてくれたよ。俺らが毎日のようにあの居酒屋で呑んでたときや。確かに1度だけ俺は知り合いと遭遇したことがあったわ。ころっと忘れとった。その人物が俺をみつけて「ゴマちゃん?」って声をかけたことがあったな。お前はその日の日記に『ゴマちゃんって顔か。アザラシか。』って書いてたそうやな。それが彼女が俺を見つける手掛かりになったんやと。何でも書き残しとくもんやな。そんな些細なことまでお前は日記に書いてた。特に俺と呑んだくれてた時の記述は、その文章量が極端に多いらしいな。日記に使ってた大学ノートの何ページにも及ぶ日もあったそうやな。それもあるんや。なんかな・・・恥ずかしいやん。それもあって、お前の日記を読むのはやめといてん。でもすごいのはお前の姪っ子やな。お前がこの地にやってきて、不定期とはいえ書き残した20数年分の日記を熟読してるわ。そんでよう頭の中に入れてるわ。今となっては、俺らよりあのときの俺らのことを知ってるかもしれんぞ!それとお前の姪っ子!誰かに似てるな~って思ってたけど、最近わかったわ。
2017.07.05
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妹さんから聞いたお前の話はここでひと段落した。妹さんも姪っ子も涙でグシャグシャやったけど、悲惨なんは俺や。今年は花粉症がひどくて、鼻水にくしゃみに涙やったから大変やったわ。そして次に妹さんたちが話してくれたんは、お前の日記のことやった。お前、日記なんかつけてたんやな。今、お前の日記は姪っ子が大切に持ってくれてるぞ。このときも持参してくれていて、「見てやってください」って言ってもろうたけど・・・。やめといたわ。何かな。やっぱり気が引けてな。その日記はお前がこの地にやってきてから書き始めたそうやな。しかも毎日とちゃう。なんかあったときや、気が向いたときに書いてたんやてな。もちろんあの居酒屋での俺とのやり取りも書いてあるんやけど、俺と会わんようになってからも度々俺のことが書いてあるって姪っ子が教えてくれたわ。「最多登場回数記録です。」ってよ。それで、姪っ子はお前の日記に登場する「あいつ」「あいつ」としか記載されてない人物の手がかりとして、まず名前を突き止めようと日記を隅々まで読んだそうやわ。・・・「あいつ」の名前は? って わしゃレインボーマンか!!・・・
2017.07.04
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そや。そうやったな。あの居酒屋でよう2人で話した俺たちみたいなもんがまわりに迷惑をかけずに如何に死ぬかって話。結局最後はこれといった結論にたどり着くことはあらへんかったわ。ほんで最後は「笑って逝けたら幸せやな。」って言うてたな。お前、その通りにしたんやな。その通りにできたんやな。よかったな!それと、やっぱりお前はかっこええわ。「お前はかっこええな」俺は何回かお前に言うたよな。ほなお前の返事は間違いなく「そんなことあるかい。ホンマに俺がかっこよかったらもっとモテてるわ。」やった。でもな!そうとちゃうねん。お前のかっこよさは世の女共には分からへん。俺の言うてたんは生き方やねん。女共の機嫌を取るためにシッポを振ることを「優しい」って言うたり。女共の喜ぶファッションやスタイルをしたことを「かっこいい」って言うたり。そんなどうでもええようなしょうもないこととちゃうねん。そやろ!その証拠にお前は最後の最後の瞬間に悔いがなかったんやろ。そやから微笑めたんや。そやから妹さんも安心できたんや。日頃口でどんなに立派な講釈を垂れてても、人間はいざっていうときの行動にそいつの本心があらわれるんや。生きてるときはいろいろあったんやな。辛い思いも、悲しい思いも、悔しい思いも、人一倍味わってきたんや。でもお前は逃げへんかった。無力やったかも知れへんけどあがなったんやろ。そのあがないで妹さんを守り続けたんやろ。こんなかっこええ人生があるか?生き方があるか?無いぞ!そやから、やっぱり。お前はかっこええわ。
2017.07.03
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そして妹さんが思わず目線を向けたのはご主人と娘さんのいる方向。2人とも涙にまみれながら大きく頷いていた。再び目線を戻してお前の顔を見る。そのときにはお前はほぼ無表情となり、呼吸も明らかに弱くなってきていた。次に心拍音が止まろうとしたとき自分はどうすればいいのか。このまま楽にさせてあげたい気持ちも十分過ぎるくらい理解できる。しかしお前を、お兄ちゃんを失いたくない。自分は声をかけずにいられるのだろうか。自分は声をかけずにいるべきなのだろうか。そう思いながらも、今自分に求められている残酷過ぎる決断に心が押しつぶされそうになっていた。しかし容赦なくお前の心音はまた弱くなっていく・・・妹さんはお前の手をきつく握りしめて心の中で叫んだんやて!「お兄ちゃん!私どうしたらええん?助けてお兄ちゃん!」って。その瞬間・・・・お前、にっこりほほ笑んだそうやな。妹さんはその笑顔が「大丈夫。気にせんでええよ。また会えるがな!」って言ってくれてると感じたんやって。そやから、妹さんはもうお前に呼びかけへんかった。その代わり、お前の笑顔に笑顔で返した。涙でぐしょぐしょの笑顔やったけど。、笑顔で返した。その笑顔を待っていたかのように、お前は呼吸を止めた。2016年5月5日、午前6時6分、お前はこの世を去った。
2017.07.02
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お前の右手を両手で握りしめて、涙を流しながらお前の顔を見つめている妹さんの背後から声がした。「この子はようがんばったから。もう楽にさせてあげなさい。」その口調は静かで冷静で、言葉を変えれば冷淡であった。大家さんの声だった。妹さんは一瞬怒りを感じた。「なぜ他人のあなたにそんなこという権利があるのか!」と。背後を振り返るといつの間にかすぐ後ろに歩み寄っていた大家さんの姿があった。その顔は、口調と同じで何の感情も思いもないかのような表情だった。しかし、両目からは大粒の涙がとめどなく流れていた。「もうやすませてあげよう。この子のは本当にようがんばった。がんばり過ぎた。だから、、、もうやすませてあげよう。」と言いながら大家さんは妹さんの両手を自らの両手で包み込んだ。その手が自分の手に触れたとき、妹さんははっとしたんやて。大家さんの手は、激しく震えてたそうやわ。その震えはお前にも伝わってたか?妹さんはその手から、大家さんの悲しみや悔しさを感じ取ったって言うてたわ。
2017.07.01
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