このファント・ホフのフランス語版小冊子に最初に好意的に反応したのが,立体化学研究の先駆的研究者ヴィスリツェヌス( Johannes Wislicenus, 1835-1902)だった。 1875年 11月に彼は,ファント・ホフに手紙を書き,本を賞賛してそのドイツ語訳を提案した。翻訳は,当時,ヴィスリツェヌスの助手だったヘルマン(Felix Hermann)が担当した。ヘルマンは単に翻訳するだけでなく,いくつかの重要な改訂を提案した。そのためにフランス語版とはかなりの異同が生じた。まず,本のタイトルがより明確に内容を表す『空間における原子の配置( Die Lagerung der Atome im Raume)』となった。さらに 4ページにわたるヴィスリツェヌスの序文が付けられ,本文全体に文献注が付けられた。フランス語版では,巻末にまとめて付けられていた図が,本文中の然るべき位置に入れられた。まだ構造もはっきりしておらず(すでに述べたようにケクレ説とラーデンブルク説のいずれとも決着がついていなかった),異性体について十分なデータのなかった芳香族についての章は省略された。さらに巻末付録には,厚紙で分子模型を作るための説明が図とともに付けられた。このドイツ語版が出版された。「化学と工業」