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帰る家がわからなくて、おなかがすいて、さまよっている チビのノラ が、ごちそうのにおいにつられて迷い込んだ家に、 大きな老猫 と アホ犬 と、たくさんの ニワトリ が住んでいました。
「わしは ちょん 、というんだ。にんげんでいえば九十八さいぐらいのとしよりだ」
「おれは のん 、というんだ。おまえのなまえはなんだ」
「わかりません。ぼくはなまえがあったかなかったかおぼえていません」
「そうかなまえがないのか。ななしのごんべえか。わんー」
「おまえはきっとすてられたねこだ。よし、ななしのごんべえなら、 ごんごん というなまえにするとよい」
というわけで、この家で暮らすようになった 「ごんごん」 の人生の、イヤ、猫生の先生は 「ちょん」 という 老猫 です。毎日の暮らしの中でいろんなことが起こります。 この下のページに描かれいるのもいろんなことの一つです。
ごんごん は いっぱい さかながいるのを みるのが すきでした。
あるひ さかなを つかまえようとして てを のばしたとたん
あしがすべって いけに おちてしまいました。
ごんごん の なきごえを ききつけて、 ちょん が すぐに たすけに きてくれました。
ずぶぬれの ごんごん をみて のん は わらいました。
ちょん は ごんごん の ぬれた からだを なめながら いいました。
「ごんごん、この さかなに てをだすんじゃない。 おばさんが
だいじにしている さかなだ。よく おぼえて おくんだぞ」
これが裏表紙です。今日も ニワトリたち
が元気です。 「ごんごん」
は縁側で昼寝でもしながらその様子を眺めているのでしょう。
でも、もう頭をなめてくれる 「ちょん」
はここにはいません。裏庭のお地蔵さんの下の土のなかです。
そうなんです。生きているものも、死んでゆくものも描く、この世界の描き方が、ぼくはとても好きです。
大道あや
は 1909
年
に 広島
で生まれた画家です。 60
歳の年から絵を描き始めました。 「ねこのごんごん」
は 1975
年
、 66
歳
のときに彼女がはじめて描いた絵本です。
「原爆の図」
や 「水俣の図」
で有名な 丸木位里
は実兄で、兄の配偶者 丸木俊
は義理の姉です。 丸木夫妻
の原爆の絵を見て彼女が言った言葉が伝えられています。
「兄さんたちは見ていないから描ける。」
芸術と現実を考える時に、心に響く批判だと思います。どちらが間違っているという問題ではありません。しかし、現実を体験するとはどういうことなのかという本質的な問題を捉えていることは間違いないと思います。
言葉通り、爆心2キロの地点で被爆し、 「実際に見た」
彼女は、 90
歳
になって、初めて 「ヒロシマに原爆がおとされたとき」
を描きます。
2002年
に出版された、この 「絵本」
の中には、彼女が描こうとしてどうしても描けない世界がぐちゃぐちゃの落書きのように残されています。
それ以後、彼女は 2010
年
に 101
歳
で亡くなるまで、二度と絵筆を持たなかったそうです。
「ねこのごんごん」
には彼女が描きたくてたまらなかったに違いない 「生きている」
ことの 「楽しさ」
や 「美しさ」
が夢のように描かれています。
それぞれ、おチビさんたちや、若いお母さん、お父さんたちに是非手に取ってほしい絵本です。
追記2020・08・07
丸木俊「ひろしまのピカ」
の感想は書名をクリックしてみてください
。
追記2022・06・07
家にある絵本をいじっていると、次々に案内したくなる作品が出てきます。今回は、 大道あや
の 「広島に原爆がおとされたとき」(ポプラ社)
を見つけて、とりあえず、以前の投稿に写真だけ追加しました。そのうち内容を 「案内」
したいと思っていますが、いつになることやらですね(笑)。
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