ジム・ジャームッシュ「ストレンジャー・ザン・パラダイス」シネ・リーブル神戸
ジム・ジャームッシュという監督の特集に足を運び始めて、3作目でした。1984年のカンヌ映画祭で新人監督賞を取った作品らしくて、ジャームッシュの商業映画デビュー作だそうです。 はまりました。この特集番組のチラシやポスターもジョン・ルーリーのウィリーとリチャード・エドソンのエディの二人組とエスター・バリント扮するハンガリー娘エヴァが写っていますが、この三人の映画でした。 ニュー・ヨーク、クリーブランド、フロリダ、そしてブダペストが舞台です。クリーブランドというのはオハイオ州、五大湖の一つ、エリー湖のほとりの町で、ブダペストはハンガリーという国の首都です。 ニュー・ヨークでインチキな暮らしをしているウィリーとエディの二人組ですが、ウィリーの所にクリーブランドに住むおばさんから電話があります。自分は病気でしばらく入院するから、ブダペストからやってくるエヴァをとりあえず泊めてやってほしいというのです。 と、まあ、そういうシーンから映画は始まりました。もちろん、ウィリーとエディがインチキな博奕うちコンビだなんてことは後からわかることで、電話口で大声で、断りをがなるウィリーと、彼のアパートが映っているだけですが、もう、ここから雰囲気がありましたね。 結局、エヴァがやってきて、やがて伯母の住むクリーブランドに去っていくまでが、第1部The New Worldですが、印象に残ったのは相棒のエディがウィリーに「ハンガリー?」と聞いたシーンでのウィリーの答えのセリフでした。 「I am as American as you are.」 ウィリーは、最初の電話では「ハンガリー語をやめろ」と繰り返しますが、なんともいえないアメリカの描き方ですね。 第1部でのダメ押しシーンは、クリーブランドに去るエヴァにウィリーがハヤリ(?)の、いや、アメリ風のドレスをプレゼントします。で、彼女はそれを着てお別れをして、アパートの下まで降りてくるとゴミ箱に脱ぎ捨てるのですが、それを通りかかったエディが見ているというシーンです。 おそらく、アメリカを巡るアンビバレンツを映しているのですが、エヴァという娘の性格描写にもなっているし、ウィリーと彼女とエディとの距離も感じ取れて、笑いながらうなりました。 第2部はOne Year Later、第3部はParadiseで、エヴァが去って1年後でしょうね、インチキで小金を手にした二人組が彼女を探して雪のクリーブランドにやってきて、そこから三人で常夏のフロリダに旅するというロードムービー仕立てになります。 結局、博奕しかすることのない二人組、変わり映えのしない風景、安物のモーテル。ほとんど何も起こらないロードムービーで退屈しそうなのですが、これが不思議と大丈夫で、偶然、大金を手にしたエヴァが一人で飛行場に向かい、ブダペスト行のチケット買ったあたりで「おや、まあ!」と思ったのですが、ちゃんとひっくり返してくれましたね。 とどのつまりは、エヴァの後を追ってというか、エヴァが乗っていると思い込んでブダペスト行の飛行機で飛んでしまうウィリーと、それを見上げているエディ、そんなドタバタは露知らず、気が変わって安物のモーテル戻ってくるエヴァという結末で、映画に漂う余裕というか、大きな世界とミニマムな細部のつり合いというか、「いやーウィリー君ご苦労さま!」、拍手!でした。 しかし、というか、だからというか「Stranger Than Paradise」って、どう訳すのですかね?それは、やっぱり気にかかりました。