PR
カレンダー
カテゴリ
コメント新着
キーワードサーチ

500年の歴史の中を生きていらっしゃった! わけですが、 本作 は、同じ、 慶長の役 で拉致されて、 日本 で窯を開いた 朝鮮の陶工 の 初代 の 葬式 を、 慶長の役、丁酉(ていゆう・ひのととり)倭乱 から、ほぼ、 50年後 の 江戸時代初期 という 時代 と、 黒川藩 という、多分、 有田あたり に 架空の藩 を 設定 することで、
小説的想像力を奔放にふるって描いた作品! です。
初七日を迎えると、忌中の家はいちおう普段の暮らしにもどる。龍窯で知られた辛島家にも精進落としの日がやってきた。朝の内に檀那寺の願正寺で内輪だけの法要をすませた。その後に精進落としの酒肴を弔問客に出すのだが、これは皿山の土地柄で一日の窯仕事が終わった夕方から席を設ける。 これが書きだしですが、すでに、 日本名 を名乗っている 龍窯 という窯の窯元、 辛島家の初代、当主、十兵衛 が亡くなり、 通夜、葬儀、埋葬 が滞りなく終わったかの 初七日の法要のシーン から始まりますが、ここから 250ページ 、小説が描いているのは
一人の人間の死と魂のゆくへをめぐる、夫婦、親子、一族のドラマ でした。
上の八畳間は外からの客 で、顔ぶれはこうだ。 ここまで、この 初七日の席 に座っている人の名前を真面目に読んできた人はえらいと思います。写しているボクも、ちょっとエライ。で、何で、この個所を引用したのかといいますと、一つは
皿山代官所からは、下目付の柳番太郎。 取り締まり方の市田佐内。 町役からは、赤絵付庄屋の団六。 大散使の問屋おこない屋喜平。 村役の俵山窯焼き宗八。 別当の河原山窯焼き藤次郎。 散使の窯焼き亀平。 被官の豊田常臣。
中の間は窯の働き手たち で占められていた。ざっとこうである。
喪主十蔵は四十四歳。 故十兵衛の妻の百婆、七十歳。故国朝鮮の習慣で女隠居は通り名で呼ぶ。百婆とは窯の者がつけた尊称だ。 次男、ロクロのの以蔵、三十三歳。 四男で同じく窯焚き兼良、三十三歳。 十蔵の長男でロクロの兵太、二十歳。 次男でロクロの参平、十七歳。 以蔵の長男で窯焚きの以助、十九歳。 次男で窯焚きの以作、十七歳。 雇い人でロクロの権十、七十歳。 権十の長男で同じくロクロの清助、四十歳。 次男で同じくロクロの市次、三十七歳。 故万治の長男で窯焚きの寅吉、四十七歳。 次男で同じく窯焚きの熊吉、四十五歳。 万治の女房で呉須すりのアカ、六十八歳。 釉かけの伊十、七十二歳。
下の八畳 には十蔵の嫁で型打ちのコシホ、三十八歳。 以蔵の嫁で同じく型打ちのオクウ、三十七歳。 元良の嫁でだみ手のアカイ、三十一歳。 兼良の嫁でだみ手のイヌ、二十五歳。 他に雑役の荒仕子、薪の皮はぎなど住み込みの者たちと、辛島家の子供たち十数人で、締めて五十余名。
葬式とはこういうものである! という作家の視線というかを、とりあえず紹介したかったわけです。ここではまとめて引用しましたが、作品では、一人一人、行分けして描かれています。
七日目に行う日本の精進落としじたい、伊十には納得がいかない。坊主がきて経をあげた後は飲み食いだけで忌み明けとなる。伊十の故国では死者を出した家は、三年間も忌み明けはできない。葬式後七日目といえば、喪主は故人を埋めた墓地に仮小屋を建てて寝泊まりし、仕事もなげうって朝に晩に膳を差し上げ、地へ頭をすりつけて礼拝に励んでいる頃だ。国が異なると弔い方も違うのは仕方がないが、何と想いの薄いことだろう。 それぞれ、座敷に座っている人たちが、もう一度眺め直されていることがお分かりになるだろうと思いますが、この作品の面白さは、こうして作家が描き始めた目の前の世界を朝鮮の魂が底流する二重構造とあつらえたところにあると思いますが、この後のワクワクするような展開の主人公は、 百婆こと朴貞玉(パクジョンオク) ですね。
目脂にかすむ目で伊十はもう一度、座敷中を眺めた。 すると賑や耀かな人々の背後に、白麻の喪帽に喪服をつけた影法師のような一群がぼーっと居並ぶのが見えた。異相の彼等は動かず塑像のようでもある。しかし顔を見ればそれは伊十の仲間たちばかりだ。
故辛島十兵衛こと張成徹(チャンソンチョル)。 百婆こと朴貞玉(パクジョンオク)。
長男十蔵こと張正浩(チャンジョンホ)。十蔵女房コシホこと権麗喜(クォンコヒ)。 次男以蔵こと張太浩(チャンテホ)。以蔵女房こと韓青玉(ハンチョンオク)。三男元良こと張永浩(チャンヨンホ)。四男兼良こと張秀浩(チャンスホ)。十蔵長男兵太こと張衛善(チャンウィソン)。次男参平こと張明善(チャンミョンソン)。以蔵の長男以助こと張光善(チャングワンソン)。次男以作こと張順善(チャンスンソン)。ロクロの権十こと韓大中(ハンデジュン)。長男清助こと韓植元(ハンシグオン)。次男市次こと韓植耀(ハンシギョ)。故万治こと李則一(イチギル)。女房アカこと金明順(キムミョンスン)。長男寅吉こと李延吉(イヨンギル)。次男熊吉こと李延泰(イヨンテ)。藤次郎こと権会雄(クォンフェヨン)。亀平こと張日徹(チャンイルチョル)。
故郷全羅道(チョルラド)の田舎では秋になると胡桃がいっぱい熟れた。わし達は実を厚い殻の中に閉じこめた、あの胡桃そっくりだなあ、と伊十こと韓則陽(ハンチギャン)は思った。
「あっ、百婆だ!」 でしたね。
追記2024・08・03
この小説の題名の 「龍秘御天歌」
についてですが、 「龍飛御天歌」
という、 15世紀
、朝鮮の 李王朝
の頃編集された、王朝礼賛歌集があるそうです。ボクは読んだことはありませんが、 村田喜代子さん
が、その歌集を意識において大目をお付けになったことは確かでしょうね。
追記
ところで、このブログをご覧いただいた皆様で 楽天ID
をお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)
週刊 読書案内 滝口悠生「たのしい保育… 2025.11.07 コメント(1)
週刊 読書案内 松家仁之「沈むフランシ… 2025.09.06 コメント(1)
週刊 読書案内 深沢潮「海を抱いて月に… 2025.08.16 コメント(1)