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2019年02月24日

ba〈私的チェコ語辞典〉(二月廿二日)




 日本語訳から考えるとこのチェコ語の用例は、「nejen mladí, ale i sta?í」と同じような意味を持つようである。だからといって、「ale」つまり、日本語の「しかし」と同じような意味の言葉だとは言い切れないようである。とはいえ、この言葉に関しては、辞書上の意味はそれほど重要ではない。ここまで書いたような意味使い方で「ba」使うのは、見たこともなければ聞いたこともない。ということは必然的に、違った意味用法で自分でも使うということになる。

 では、自分ではどんな意味で使うかというと、チェコ語の「samoz?ejm?」、つまり「もちろん」「当然だよ」の意味で使うのだ。ただ「samoz?ejm?」が、文中で副詞的にも使うのに対して、この「ba」を使うのは、質問に対する返事に限定される。いや他の場面でも使えるのかもしれないけど、チェコ人ならぬ身にはそこまでは難しいのである。
 何か質問されて、「もちろん」と答えたいときに、「ba」と一語で返してやればいい。ただし、日本語で「バ」と一音節だけ発音するときより、少し長めに音を出したほうがいいかな。これでは短すぎるという人には、「ba ?e」「ba ?e jo」というバージョンも存在する。問題は、チェコ人に判ってもらえないことがあるということである。この使い方はどうもスロバキア語の影響を受けたものらしく、スロバキアに近いモラビアの方言かもしれないという話もある。

 以前、ある日系企業で通訳をしたときに、簡単でチェコ人に受けるチェコ語を教えてほしいと頼まれたことがある。そのときに、この「ba ?e」を教えて、使ってもらった。そうしたらチェコ人、笑うどころか、何の反応もせずに話を続けやがった。それで、二人して話を止めて、何で反応してくれなかったんだと問い詰めたら、二つ理由を挙げた。
 一つは日本人の「?e」の発音が微妙に、チェコ人にとっては明らかに違うこと。どうも日本人の発音するジャジジュジェジョの子音は、チェコ人の耳には「?」ではなく、前に「d」のついた「d?」に聞こえるらしいのだ。「?e」が「d?e」に聞こえたとか言われても、日本人の耳には同じにしか聞こえない。ここは、素直に「ba」だけにしておけばよかったぜ、畜生。
 もう一つの理由は、外国人の口から、しかもチェコはそれほど上手ではない人の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかったというものだった。普段からチェコでペラペラ、場合によっては方言も交えて話している人ならともかく、普段の仕事では英語を使っている人の口から出してもらうには極端すぎる言葉だったか。うーん。方言なら「chcu(chci)」「nésú(nejsem)」辺りから始めるべきだったか。でもこの辺の言葉だと普通過ぎて笑ってもらえない可能性も……。

 ということで、「samoz?ejm?」の代わりに使う受けるチェコ語としては、「javor」を推薦しておこう。とある映画で、たしかリプスキーの子供向けの映画で登場した冗談なのである。チェコ人には面白いのかもしれないけど、こっちは説明してもらっても全く笑えなかった。とりあえずどんな冗談か説明しておこう。話し言葉では質問に「もちろん」と返すときに、「jasn?」を使うことが多い。それを音の響きの似ている「jasan」で代用するというのが第一段階。その「jasan」は広まって普通に使われる言葉になってしまったので、さらに「javor」を使うというのがこの映画内での冗談の落ちめいたものである(冗談ではなかったかも)。
 冗談として成立するのは、「jasn?」と「jasan」は音の響きが似ているだけだが、「jasan」と「javor」には「ja」で始まるという以外にもう一つ共通点がある。それはどちらも気の名前だという点においてある。「jasan」は辞書によればトネリコの木、「javor」は楓の木、つまり、新しい表現の「jasan」を覚えようとして、「ja」で始まる気の名前、「javor」だ勘違いしたということになるのである。木の名前としての「javor」はよく見かけるし、耳にすることも多いけど、「jasan」は、「jasn?」の代用以外には聞いたことがないから間違いやすそうだといえば言える。

 ところで「jasn?」の代用の「jasan」も最近聞かないなあと思っていたら、ズボンを買いに行ったお店のおっちゃんが連発していたのだった。ものすごく自然に使っているので、最初は気づかなかったのだけど、よく聞いたら「jasan」だった。自分でも使ってみようかなと一瞬だけ思った。でも無理だった。
2019年2月23日18時30分。






現代チェコ語日本語辞典













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