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あのひとの棲む国 ―F・Uに―茨木のり子 を、なんとなく読み返していると、今の世相を思い浮かべてしまう。大切だったはずの何かが忘れられていくのは時の流れのせいだろうか。日の丸の小旗を振って、文字通り、無我夢中で、自分の国をたたえた少女が、隣の国で暮らしている人たちと友達になることの大切さに気づくのに50年ほどの歳月が必要だったことを晩年の詩が語っている。やっぱり忘れてはいけないことが語られているのではないだろうか。
あのひとの棲む国
それは人肌を持っている握手のやわらかさであり低いトーンの声であり梨をむいてくれた手つきでありオンドル部屋のあたたかさである
詩を書くその女(ひと)の部屋には机が二つ返事を書かねばならない手紙の束が山積みでなんだかひどく身につまされたっけ壁にぶらさげられた大きな勾玉(まがたま)がひとつソウルは奨忠洞(チャンチュンドン)の坂の上の家前庭には柿の木が一本今年もたわわに実ったろうかある年の晩秋我が家を訪ねてくれたときは荒れた庭の風情がいいとガラス戸越しに眺めながらひっそりと呟いた落ち葉かさこそ掃きもせず花は立ち枯れ荒れた庭はあるじとしては恥なんだが無造作をよしとする客の好みにはかなったらしい日本語と韓国語ちゃんぽんで過ぎこしかたをさまざま語りこちらのうしろめたさを救うかのようにあなたとはいい友達になれると言ってくれる率直な物言い楚々とした風姿
あのひとの棲む国
雪崩のような報道も ありきたりの統計も鵜呑みにはしないじぶんなりの調整が可能である地球のあちこちでこういうことは起こっているだろうそれぞれの硬直した政府なんか置き去りにして一人と一人のつきあいが小さなつむじ風となって
電波は自由に飛びかっている電波はすばやく飛びかっている電波よりのろくはあるがなにかがキャッチされなにかが投げ返され外国人を見たらスパイと思えそんなふうに教えられた私の少女時代には考えられもしなかったもの
追記
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