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2026.01.27
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佐々木幹郎「旅に溺れる」(岩波書店)  ここの所、読み継いでいる 佐々木幹郎 エッセイ集 「旅に溺れる」(岩波書店) です。 2010年 岩波書店 から出た本です。 佐々木さん 「アジア海道紀行」(みすず書房) 読売文学賞 をおとりになっていらっしゃいますが、 紀行エッセイ でした。
 で、今日ご案内する 「旅に溺れる」 も、題名通り 旅の話 がメインです。下に目次を貼りましたので、ご覧になってください。 Ⅰ章 列島の旅は各地の祭り に始まって、 Ⅱ章 ネパール、チベット、中国 への Ⅲ章 「家族」 について語られている、いわば、 こころの旅 です。 双子の弟さん の話、高等学校で美術の教員だった お父様 の話。
 こんな話です。​
オトンとオヤジと
 父親に対して「オトン」と呼ぶ、そんな言い方がいつ頃からか、日本中に流行するようになった。辞書によれば、「オトン」は福岡や豊後の方言であるという。わたしは大阪で少年時代を過ごした。周囲に「オトン」と呼ぶ子どもはいなかった。「オトン」は英語の「Dad」のニュアンスに似ていて、親しみを込めて言う場合、可愛らしく響く。家長としての威厳がなく、家にいても邪魔にならない、好ましい存在としての父親というイメージがある。「オトン」という呼び方は、呼ぶほうも呼ばれるほうも、年齢に関係がないようだ。六十歳の息子が九十歳の父親を「オトン」と呼んでもいいだろう。
 しかし「お父ちゃん」には、年齢制限がある。中年の息子が父親をそう呼んでいるのを聞いたら、幼児性が抜け切れていないようで、情けない。
 幼少期に「お父ちゃん」と呼び、中学一年生の夏休みを期して、「オヤジ」と呼ぶようになってしまったわたしは、今年九十歳になる父親をいまも「オヤジ」と呼ぶ。中学一年生の夏休み。林間学校に参加したとき、同級生たちが背伸びするように、父親のことを「オヤジ」といっていたのに感化されたのだ。「お父ちゃん」と呼ぶのが恥ずかしくなった。林間学校が終わったとき、これからは家でも「オヤジ」と呼ぼうと心に決めた。玄関に着いたとたん、迎えに出た母親に「オヤジはいる?」と聞いた。父親に何の用事もなかったのにそう言ったのだ。母親は目を丸くして、何も言わずに「いるわよ」と答えた。これで、以後、私の父親は「オヤジ」と呼ばれることになった。たぶん、母親も父親も息子のこの突然の変貌を秘かに笑っていたに違いない。ところが、母親については「お母ちゃん」のままだったのだから、なんともはや、おかしな変貌と成長であった。
 ある時、家族全員で墓参りをした。その日は暑かった。わたしの父は墓地に着くなり、暑いなあ、と言いながら背広を脱いで畳み、祖父の墓石の上に置いた。これからお祈りをする対象なのに、そんなところに置いたらダメじゃないか、と言うと、「いいんだ。俺には何もしてくれなかったオヤジだから、背広うらい持ってくれたらええ」と彼は言った。ふーん、そういう考え方があるのか。
 祖父はわたしの父親が生まれて六ケ月後に亡くなっていた。父は、父親というのがどんな存在なのか、よくわからずに育ったらしい。だから大人になってからのわたしに、「おまえに父親としてどうふるまったらいいのか、ようわからんかったな」と言ったことがある。そんなことなかったのに。オヤジではなく、もっと親しみを込めて「オトン」。オトンはオトンらしかったよ。(P173~174)

​  「日本一短い父への手紙・父からの手紙」(サンマーク出版) という本に載せられた 「手紙」 のようですが、いいでしょ。 
 ボク自身、もう、 「オトン」 とか、 「オヤジ」 と呼ぶ存在はこの世にいません。 ゆかいな仲間たち は、両方を使い分けていますが、最近では 「ジージ」 という呼び名も混じり始めて複雑な気分です。

 ただ、この引用で読んでほしいのは、文章のうまさもさることながら、​
響いてくる、素直なトーンですね。
​ それが、ここの所、気に入って読み続けている 佐々木幹郎の響き なんです。少しづつ読んでいるのですが、やめられませんね(笑)。
 下に目次を貼っておきます。
目次
祝う詞について
雪の夜に、うち噺して—山形県鶴岡市「黒川能・王祇祭」
ある日、一日、狐になって—新潟県阿賀町「狐の嫁入り行列」
飛沫論
女性がしきる赤岡、絵金の町—高知県赤岡町「絵金祭りと絵金歌舞伎」
伝統と創作と情熱と活力と—沖縄県「琉球國祭り太鼓」
旅に溺れる
町の人みんなが芸術家—富山県福岡町「つくりもん祭」
雪球を当てる楽しみ、当てられる悔しさ—北海道壮瞥町「昭和新山国際雪合戦」
ツリーハウスという迷路
葛城の神々の幻―「葛城のみち」を歩く
黄から緑までの変化―わつぃと薩摩焼

東シナ海カステラ異聞
破れかぶれと憂愁と―竹久夢二「青山河」
観音菩薩偏愛
大嵐の日、カトマンズで―山本真弓「牡牛と信号―物語としてのネパール」について
生者と死者をめぐる対話―墓を作る文化と無墓文化と
地の果ての都ローマンタンの手触り
死が降りてくるとき―チベットの「死者の書」をめぐって
風の国、砂の国、川の国
わたしの好きな世界の美術館
上海と悟空
震災という文化―いかにやわらかく、壊れるか
不滅あるいは囲むということ―モンゴルの草原で
詩の国への旅

うどんの作り方から学ぶ文章の「引き算」
17㏄の血
この世の夢
お寺にもっとも近い人々
オトンとオヤジと
夕まけて耳にどよめく
一本の桜の木―あとがきにかえて
2025-no142-1215

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最終更新日  2026.02.11 21:41:57
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Re:週刊 読書案内 佐々木幹郎「旅に溺れる」(岩波書店)(01/27)  
ミリオン さん

本を読むのが楽しいですね。大好きです。頑張って下さい。 (2026.01.29 14:32:40)

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