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2017年11月16日

ミハル・ホラーチェク氏をめぐるお話、逸脱するけど(十一月十三日)




 チェコがチェコスロバキア第一共和国の時代にフランスとの関係が深かったことは、歴史を勉強したときに学んだけれども、そのフランスとの関係が共産主義政権の時代にも、特に文化の面で強かったのを知ったのはチェコに来てからだ。テレビでは当時吹き替えが制作されたフランス映画がひんぱんに放映されるし、ちなみにチェコで最も有名で人気のあるフランス人の俳優は、日本でも知られているアラン・ドロンではなく、ジャン・ポール・ベルモンドである。吹き替えにも専門の俳優が用意され、最初は最近亡くなったヤン・トシースカが、トシースカの亡命後は似た声を出せるイジー・クランポールがベルモンドの声を担当している。

 話を戻そう。音楽の世界でフランスの影響を強く感じさせるのが、チェコでは結構シャンソンを歌う歌手が多いことだ。あのマルタ・クビショバーもシャンソンを歌うことがあるようだし、ボレク・ポリーフカの元奥さんのフランス人、シャンタル・ポリーフコバーも歌うときはシャンソンだったかな。そのチェコのシャンソン界で最も高く評価されている歌手の一人が、ハナ・へゲロバーだというところまでは知っていたけれども、それにミハル・ホラーチェクとペトル・ハプカがかかわっていたということは知らなかった。

 日本でも歌手の歌を聴いて、歌手の名前は覚えても、その歌の作詞者、作曲者まで覚えているなんてよほどのファンだけだろう。だから、ホラーチェク氏も、作詞家としては名前が売れていても、実際に書いた歌はとなると知らない人が多いということになるのか。そんなホラーチェク氏が圧倒的な知名度を獲得したのが、すでに十年ほど前のことになるが、民放のノバで外国の番組のフォーマットを購入して制作された、素人やセミプロを対象にしたオーディション番組「チェスコ・フレダー・スーパースター」(ただのスーパースターだったかもしれない)で審査員を務めたことである。
 この番組も何年か連続で放送されたし、同じようなオーディション番組が毎年のように、ノバ、プリマで放送されていたのだが(今もやっているかもしれない)、一番盛り上がったのがホラーチェク氏が審査員の中心となっていた第一回の「スーパースター」で、本当の意味でスーパースターになったのも、第一回の優勝者アネタ・ランゲロバーしかいないのである。この第一回の放送をチラ見していたおかげで、ホラーチェク氏が作詞家で、90年代にフォルトゥナという賭けの会社を設立し、後にその株を売却することで資産を築いたなんて話を知っているわけである。

 ホラーチェク氏は、その後も何度か審査員を務めていたようだが、最近見かけなくなったと思っていたら、一年半ほど前に大統領選挙への出馬を表明して(その前から言っていたのかもしれないけど)、驚かされたのである。この人のオーディション番組での審査の仕方を、素人の視聴者と同じレベルだとか批判する記事を読んたこともあったし、大統領になるほどのカリスマ性というか、大物感は感じられず、本気なのだろうかと疑ってしまった。やはり大統領になるぐらいなら、他の審査員や視聴者の意見をはねのけて、自分の選んだ人を強く推すぐらいのことはしてほしいものである。そんな出場者がいなかっただけなのかもしれないけどさ。
 去年の秋のダライラマ騒動で反ゼマンの集会を組織したのがホラーチェク氏だという話を聞いて、これは本気で大統領選に出るつもりなのかと認識を新たにした。その後は各地で有権者の署名を集める活動をしていて、確かオロモウツにも本人が来ていたんじゃなかったかな。ホルニー広場の署名集め用のテントで見かけたような気もするけど、確信はない。存在感があまりないんだよ、

 今回トポラーネク氏が政界への復帰と大統領選挙への出馬を表明したことで、ホラーチェク氏が選ばれる可能性はさらに下がった。意外なことに現在の下馬評では、ゼマン大統領の対抗馬は、ドラホシュ氏ではなくトポラーネク氏だというのである。それはともかく、ゼマン大統領が完全に引退する次の大統領選挙であれば、ホラーチェク氏にもチャンスが出てくるかもしれない。それは他の候補者たちにも言えることである。

 ついでなので、ペトル・ハプカについても書いておくと、ノハビツァが秘密警察の協力者名簿に載っていたことを知って、口を極めて罵倒し絶交した人物である。それに対してノハビツァは、お前にはわからんとか何とか言っただけでほとんど言い訳することもなかったのかな。ハプカが音楽家であることは知っているけれども、その歌を聞いたことがあるかとなると心もとなくなる。ニュースなどの映像で一部聞いたのは確かだけど……。
 かつてのチェコスロバキアでは、スポーツ選手が国外に遠征に出るときでさえ、秘密警察に協力するという書類に署名させられたという話だし、その署名した事実をネタに脅されてさらなる協力を強制されたなんて話もあるから、名簿に載っているから悪だとも決めつけられないし、秘密警察の書類に記載されていることが、どこまで事実を反映したものなのかよくわからないという面もある。自分のキャリアのために共産党に入党したというような人と、秘密警察に脅迫されて協力を強制されたという人と、どちらがマシなのだろうか。
 ビロード革命から四半世紀を経てなお、秘密警察などの旧共産党支配の時代の遺物はチェコの社会に暗い影を投げかけているのである。
2017年11月14日15時。









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