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高校受験が迫ったとき、高校で人生をやり直そうと思ったこと。そして学力が著しく足りないので進学できる学校がほぼない状態でみつけたのがこの学校であったこと。だれも自分のことを知らない学校に希望を見出したこと。しかし、、、この超低辺校で不良・ヤンキーなんて言葉では片づけられないほどのワルが集まっているこの学校でどんなイジメが待っているかを考えると震えあがるほど怖かったこと。話しながらKの声はどんどん小さくなっていった。皆は耳を澄ませて、息を殺してその声を追いかけた。やがてKの声は途絶えてしまう。そして下を向いたまましばらく顔を上げなかった。10秒ほどしたあと、Kが顔を上げた。満面の笑みだったが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。その笑顔にクラスが大きな拍手を贈る!その拍手の音に負けない大声でKが叫んだ。「でも、、、僕はこの学校にきて本当に良かった!!」「僕は、、、みんなに出会えて本当に良かった!!」「僕は、、、はじめてたくさんの友達ができた!!」さらに大きな拍手が贈られる!!!
2020.11.29
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そしてKは語り始めた。自分のことを他人に話すことのなかった彼が、おそらく初めてみんなの前で自分の事を語った。幼稚園までは楽しい生活だったが、小学校に上がると当時にはじまったイジメの話だった。一言でいうと「壮絶」であった。普通なら「嘘や!」と思うだろうが、Kが嘘をつく男でないことは誰もが分かってたので疑いの余地はなかった。その話は長かった。しかし誰も「長いぞ!」「マキでいけマキで!」なんてヤジを飛ばさなかった。
2020.11.28
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「よ!大トリ!」「よ!美空ひばり!」「よ!北島三郎!」「よ!やすし・きよし!」などと拍手の中で級友それぞれのかけ声が飛び交う。中には彼の容姿を揶揄して、「よ!ニコちゃん大王!!」なんて言葉をかける者もいたが、それは彼をバカにしたものではなくこの上ない愛情を込めたものであることはもう言うまでもなかった。しかしほんの少しでも彼が嫌な思いをしてはいけないと、その直後にクラスのひとりがすこし高い声で「大王様ぁ~~~!」と言うと、すかさず別のひとりが「お前はメガネかけた方か!!!」なんてツッコみを入れて爆笑に変えて見せる!!!本当に他に類を見ない絶妙なチームワークである。全員でゲラゲラ笑いながらも、もうこの他校では絶対に味わうことのできない苦楽を共にしてきた親友たちとも明後日でお別れであることを噛みしめる。中には「笑いすぎて涙出るっちゅうねん!!」なんて言いながら、頬に落ちる熱い涙の言い訳をする者も少なくなかった。かくいう私もそのひとりだ。大爆笑の中、教壇に立ったKはみんなに満面の笑みをみせた。今でも脳裏から離れないほどの爽やかな笑顔であった。
2020.11.27
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卒業式の三日前・・・なんだか知らないが授業も行事もない不思議な時間が2時間ほどあった。今から考えれば先生方の粋な計らいで、我々に最後の時間を過ごさせてくださったのかもしれない。我がクラスではみんなで思い話をして盛り上がっていた。そのうち誰ともなくひとり一言ずつクラスに別れの挨拶をしようということになり、順番に教壇に立って発言することになった。順番は決められずそれぞれ任意で自分のタイミングで前に出た。皆それぞれ長くならない程度で、それぞれ笑いをとりながらの心地よい話が続いた。全員に順番が回るまで1時間ほど経っただろうか、、、おそらく全員が想像していた通りに最後はKとなった。だれかを差し置いて前に出ないKをわざとトリにしようとしたクラスの意図通りになった。「もう最後か!」「最後の大トリはだれや?」「お、Kか。こら大トリにふさわしいで!」皆がそれぞれKを讃えて声をかけた。いつもならば「僕はかまへんから、、、。」なんて言って自分が前に出ることを拒むKであったが、これが最後と思ったのか、少しだけ躊躇はしたが照れながら、そして回りのクラスメイトにお辞儀をしながら教壇に向かって歩くKにだれかが「政治家か!」とツッコミを入れて笑いをとる。それに少し顔を赤らめながらKが登壇したとき、大きな拍手が彼を包んだ。
2020.11.26
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T達が完璧にシナリオに描けなかったのは、ことが終わった後のKの反応のようだった。声を押し殺して泣きながら立ちすくむKの姿を見たときの彼らのこれ以上ないというほどの心配そうな表情がそれを示唆していた。クラスの全員が10秒ほど沈黙したころ、U先生が行動を起こした。「おい、お前ら!ここからは静かに自習しとけ!」そう言葉を残したU先生はそのままKを連れて職員室に戻って行かれた。そして2限目の授業が始まる直前にKは何事もなかったかのように教室に戻ってきた。そして全員がそれを何事もなかったかのように受け入れた。あの後、U先生とKの間でどのような会話がなされたのかを探るような野暮な人間はいなかった。ただ何事もなかったかのような笑いに包まれた平和な学校生活が続き、Kも二度と通学路で他校の生徒にからまれることもなかった。・・・いつの間にか月日は流れて、我々は卒業の前日を迎えていた。
2020.11.23
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我が母校には喧嘩の手練れが多かった。彼らのほとんどがそれぞれ百戦錬磨の猛者であった。猛者たちはできる限り喧嘩を回避する。頭を下げて済むことであれば躊躇なく下げる。それでも引き下がることができないときだけ戦う。そのときに彼らの本領が発揮される。その本領とは・・・喧嘩を始めた時点で終わらせ方のシナリオを描いて、その通りに終わらせることだ。T達はKがあのように言い出して自分に暴力をふるった人間を守ることを計算に入れていたのだ。そこまではいつのもように見事であった。しかしその後のシナリオは完全に描けていなかったようだった。なぜなら彼らはKがどんな顔をして教室に戻ってくるのか、いや戻ってきてくれるのかどうかを心底きにしていたのだ。朝のホームルームが終わり、一限目の古文の授業がはじまってしばらくするとU先生の目線がチラチラと教室後方の出入り口に向けられるようになる。見るとKが教室に入ることなく廊下で立ちすくんで泣いていた。
2020.11.22
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「お前ら!せっかく連れてきたお客さんやのに、もっとしっかりおもてなしせんでええんか?」「まだこいつら二本足で地面に立っとるぞ!」ふたりはがたがたと震えだす。Tが口を開く。「U先生・・・もうこれで帰そうと思います。」Kがそれに続く。「僕がそうしてほしいとみんなにお願いしました。」「ほうか・・・お前らこいつ(K)に命救われたな。」このU先生の言葉にふたりは「ありがとうございます。ありがとうございます。」と先生に向かって頭を何回も下げる。「頭下げる相手間違えとるんと違うんかい!!!」とU先生は分厚い表紙の出席簿で他校のふたりの在肩を一回ずつ思いっきりシバキあげる。バン!バン! 大きな音が教室中に響き渡る。思いっきりシバかれた頭を手で押さえることもなくふたりは、今度はKに向かって「ありがとうございます。ありがとうございます。」とコメツキバッタのように何度も頭を下げる。Kはそのふたりの手を引きながら「帰ろう!な、帰ろう!」と教室から出ていく。「Kよ! そいつらが無事に校門から出ていくまで見送ったれ!」U先生がKに言う。Kは「はい、ありとうございます。」と返事をする。続いてU先生はふたりに「お前ら!分かってるやろうけど、この学校内でKに何かしたら他の生徒がお前らを許さんからな!下手なことすんなよ。」と言葉をかける。ふたりは「何もしません。何もするわけがありません。」と言いながらKと廊下を歩いていった。
2020.11.21
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担任のU先生は古文の先生であったが柔道と空手の有段者で只者ならない体格をされていた。この日は朝のホームルームの後は我がクラスの古文の授業があったので、その手には出席簿と古文の教科書が見て取れた。正座させられていたふたりはそれを見て呆然と立ちすくんだ。「これが古文の先生なんか・・・体育の先生と違うんか・・・この学校はどないなっとんねん・・・」ってなことを思っていたのであろう。そのU先生は「なんじゃお前ら!なんで他校のお前らがここにおんねん!」と言いつつ睨みつけるものだから、ふたりはさらに硬直する。そこにKが割って入る。「いや、先生これは・・・」その先をKが言えるわけがない。このふたりに暴力を振るわれた・・・なんて言ってしまうと瞬時にU先生得意の締め技か巴投げがふたりに炸裂することは十分過ぎるほど承知しているからだ。しかしそう言いながらもU先生は瞬時に状況を理解されたようで、言葉をクラスの我々に向けられた。
2020.11.19
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「喧嘩なんかとどう見ても無縁なこの男を平気でヘラヘラ笑いながら複数名で暴力を振るう格好だけの中途半端なヤンキーどもと、自分に暴力を振るった人間を助けようとするお前ら・・・どっちがホンマに根性のある人間やと思う?」腕組みをしていたひとりDが言った。正座していたふたりは「Kさんです、Kさんです。」と口を揃える。「いとも簡単に人を『さん』付けで呼べるんやのう。お前らにポリシーは無いんかい!プライドは無いんかい!」腕組みをしていたひとりYが言った。「すんません。そんなんやないんです。そんなんやないんです。」ふたりが言う。「ほな、どんなんやねん!説明せんかい!!」Yが続けたがそれを遮るようにKが「もう許したって!十分罰は受けてるやろ!」と声をあげた。数秒の沈黙の後、Tが口を開く。「お前らも知っての通り、この学校では生徒の1人や2人が姿を消しても何の問題もあらへん(もちろん事実ではない)。そやから俺らはお前らをどうにでもできる。そやけど被害者のKがこう言うんやったら、俺らはそれに従うしかないわ。」「ありがとうございます。ありがとうございます。」ふたりが何度もお辞儀をしながら言う。「もうええから早く帰り。ごめんな。ごめんな。」そう言いながらKが二人を教室の出口へと手を引きながら連れていく。手を引かれて歩きながらふたりは「失礼します。失礼します。」と左右に交互に頭をさげる。長時間の正座の影響でまだ足がしびれているらしく、足取りはたどたどしい。そしてKとそのふたりが教室の出口にたどり着いたとき・・・担任のU先生と鉢合わせた。教室に入ろうとするU先生と、出ようとするKたちが互いの進路をふせいでしまって4人が立ち往生する形となった。
2020.11.18
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そしてKは腕組みをしてふたりの他校生を取り囲んでいた級友たちに「もうこのふたりを帰してやってくれ・・・」と小さな言葉で懇願した。腕組みをしていた皆が沈黙を守った。みんなここはTの判断を優先させるべきだと思ったのだ。それほどTは今回の件に懸命に奔走した。級友のKのためにだ。何秒かしてTが口を開いた。「このまま帰してええんか?この程度で帰したらこいつらはまたお前をシバキにくるぞ。こんな卑怯な連中は今度はもっと人数増やしよるぞ。そうなったらもう今後は制服が汚れる程度では済まへんぞ。」そしてTがさらに言葉を続けようとしたとき・・・・Kがそれを遮って大声で言った。「人を傷つけるこらいやったら自分が傷つくほうがいいわ!!!」あのおとなしいKがこんな大声を出すのかと思うくらいの声量だった。同時にKらしい台詞だと思った。どんな三流の小説家や漫画家でも書かないようなクサイ台詞を平気で、そして本気で言葉にできる男!!それがKだった。それがKのKたる所以であり、我々がKを大切な仲間であり真の友人であると感じる根源であった。
2020.11.17
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すばらくするとKが教室に入ってきた。実はこの日、クラスで一番Kの自宅の近くに住んでいるYがKと共に登校してきた。後で聞くと、この日はKが遅刻しないで朝のホームルームの前に教室に入ることだできるようにTがYに懇願したとのことだった。いつもとは異なる雰囲気の教室に、少し警戒したように入ってきたKは教壇付近の円陣の真ん中に正座している2人にすぐ気づいた。すかさずTがKに「こないだお前にちょっかい出したんはこいつらやろ?」と声をかける。その声に何も反応せずにただ立ちすくむKに皆の視線が集中した。10秒ほど教室は沈黙した。するとKが急に大粒の涙を流し始めた。「どうしたんや?」と横にいたYが言うと、Kは我々に今まで聞かせたことのないような大声を出した。「なんていうことをするんや!!!」そして走り出して級友の円陣を押しのけて正座している2人に駆け寄った。床に膝をついてひとりの手を取って、「ごめん、ごめん、、、こんなことになってしまってごめん。」と言いながら立ち上がらせた。長時間の正座で足がしびれて立ち上がる途中でふらつくがKがそれを抱きとめる。ひとりを立ち上がらせたら今度はもうひとりの手を取って同じように立ち上がらせる。正座を解いてもらったふたりはそれぞれ「ありがとう。」とKにお礼を言った。そのときもなおKはふたりに「ごめん、ごめんな。」と泣きながら謝り続けた。
2020.11.15
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その翌朝、私が登校すると我がクラスの前に人だかりができていた。教室に入ると教壇前に級友たちが腕組みをして円陣を組んだような体制で立っている。その中には・・・なんと他校の生徒が2人正座して座らされていた。2人とも顔にあざがあり制服も髪型も乱れていた。ひとりは鼻血を、もう一人は口から血を流していた。そして二人ともガタガタと肩を震わせていた。腕組みをしている級友たちは、他の級友たちが教室に入ってくるたびに「こいつらがKにちょっかい出したヤツや!」と言葉少なに説明をした。私はそれを聞いて「アホな連中やな」と言葉を発したが、中には「ようも俺らの親友に手ぇ出してくれたのぉ!」とか「俺らを敵に回すとはエエ根性しとるやんけ!」とか「きっちり礼はさせてもらうで!」とか言って凄んだ。廊下にいる他クラスの生徒は「生きて帰れるとは思うてへんわな」とか「ここ4階やから窓から突き落としたったらええねん」とか「おい、どっかからペンチもってこい!とりあえず一枚ずつ爪はがしたらぁ。」とか声をかける。彼らをビビらせる目的というよりかは、それほどみんなはおとなしくまじめなKひとりに対してふたりがかりで暴力を振るった事実が許せなかった・・・その気持ちが言葉を選ばせたといった様子であった。中でも犯人探しに全力を注いだTの怒りは激しかったが、ほぼ無言で腕組みをしていた。が、最後に一言「お前らの死に方はKが決めるからな。Kが来るまでしっかり息吸うとけ!」と言った。
2020.11.14
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この日の昼休み、第2食堂の片隅に私のクラスの友人たちを中心に10名ほどの生徒が集まって真剣に話し合いをしていた。私のクラス以外の人間はKが1年生のときの級友だった。内容は聞くまでもなかった。Kに何が起こったか・・・それと今後の対策だ。Kはいつもお母さんの弁当を持参していたし、殺気立つくらい混雑することも多かったのでそれを嫌うKは食堂には来ない。だから彼らはここを相談の場所に選んだこともすぐに察しがついた。Kの通学経路を知っている私も彼らに呼ばれて話に加わった。彼らのメインの議題は情報収集の手段だった。Kの1年生のときの級友が言うには・・・1:Kのような人間をシバくようなヤツは中途半端なヤンキーである。2:中途半端なヤンキーほど自慢話をする。3:しかも自慢話は下級生にする。なので後輩のヤンキーに情報を集めさせる!とのことだった。
2020.11.13
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「誰かにシバかれたな・・・。」誰もが思った。また本校の者でKに手を出す人間はいないこともわかっていたので相手は他校の生徒であることは確定だし、どこの学校のヤツで誰なのかを聞いてもKが答えないことだって理解していた。そしてそれ以上にこれをこのまま放置していたら同じことがKに起こってしまう危険性も皆が感じていた。その日の夜、我が家に電話が入った。級友のTだった。Kの通学状況の情報を集めているとのことだった。私もKほどではないが遠距離通学者だったので、Kとは何回か互いの通学状況について雑談をしたことがあったので、知り得た情報をTに伝えた。Kには申し訳なかったが、今後のKのことが心配だったし、Tがその情報をKのためにつかうことも分かっていたからだった。翌朝、Kは少し遅刻した。朝のホームルームの途中で教室に入ってきた。「寝ぼけて電車に乗り間違えてん!」なんて言いながら笑ってみせた。我々も「まあそんなこともあるわ。」とか「朝から何しとんねん。頼むで!」なんて同じように笑いながらそれに答えたが、おそらくトラブルを避けるために電車を一本遅らせたか路線を変えたに違いないと誰もが思っていた。
2020.11.12
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Kは超遠距離通学であったが、遅刻をすることはなかった。それは彼の生真面目さのなせる業であったと誰もが感じていた。そんなKが朝教室にいなかった。朝のホームルームが終わっても、1限目が終わっても姿を見せなかった。そして2限目の途中でKが教室に入ってきた。授業をしていた教師に丁寧に謝罪をしている彼の背中に皆の注目が集まった。数個の靴型がはきっりと見て取れたからだ。よく見れば制服全体にもなんだか砂汚れっぽいものが付着している。授業後数名の級友たちがKに話しかけた。「前が遅刻やなんて珍しいな。」「何かあったんか?」それに対してKは「いや、なんでもないねん。寝坊しただけやねん。心配してくれてありがとう。」と笑顔を見せた。その言葉を聞いた級友のひとりが「Kよ、ほんまに悪いけど学ラン脱いでみてくれへんか?背中がえらい汚れとんねん。」と声をかかた。はっとしたような表情をしたKは制服の上着を脱いで背中に残った靴型を見た。すると慌てたようにそれを手でふき取りながら「ああ、これはなんでもないねん。遅刻で急いで走って汗かいたから脱いだ時に落としてしもてん。そのときの汚れやねん。」と言いながらまた笑ってみせた。
2020.11.11
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Kについての詳細を私は2年になってから知った。その内容通りで、目立つことはないが真面目で正直な男であった。そんなKにもスポットを当てるべく、時折級友が彼をイジる。[イジる]という行為は常に【イジる側】の『腕』と『イジられる者に対する敬意』を必要不可欠とする。それが一定の高レベルで整わないとき、それは単なる[イジメ]となってしまう。勉強に関しては確かに底辺校であった我が母校だが、場を盛り上げる『腕』と『友人に対する敬意』に関してはおそらく全国レベルで超高校級の・・・いや大人たちを相手にしても日本屈指のハイレベルな男たちが集う一流校であった。なので間違ってもKに嫌な思いをさせて笑いを取るようなことはほとんどない!あればそいつは一気に学校での居場所を失ってしまう厳しい学校でもあった。またごく稀にKが何かを発言すればそれを拾い上げて大爆笑に持ち込むスキルも持ち合わせた男たちの集団であったので、Kも本当に楽しそうに学校生活を送っていた。そんな2年生の秋のある朝・・・事件が起こった。
2020.11.10
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Kへのイジメのピークは中1の終わり頃だった。そのときKは本気で自殺を考えた。しかし生真面目すぎるKの性格から自分を産んでくれお母さんにだけは黙って命を絶つことはできないと思った。それを聞いたお母さんは、自分も一緒に死なせてほしいとKに懇願したそうだ。そしてお母さんを巻き添えにすることを良しとしなかったKは自殺を諦めた。また彼は親友でありながらKへのイジメを止めることができなかった自分を今も責めている。そんな話をしたそうだ。それを聞いた我が校の生徒たちは、この学校では心配要らないことを伝えた。それに対して彼は涙を浮かべながら「よろしくお願いします。」と丁寧に頭を下げたという話だった。私はそんなKと2年・3年の2年間同じクラスで過ごすこととなった。
2020.11.10
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Kは極端に背が低くそして太っていた。その容姿から小学校に入学直後から激しいイジメを受けはじめたらしい。その過去を断ち切るためにKは信じられないほどの遠方から通学していたので、我々がKの過去の話を知ったのは1年生の秋だった。文化祭の一般公開の初日、我が校に有名進学校の男子が1人でやってきた。場違いな来客にその姿を見た我が校の生徒たちは一瞬ざわついたが、それがkの中学時代の親友だと知るのにそんなに時間はかからなかった。数名の生徒がKとその親友と共に校内を回ったのだが、Kが席を外したときに彼が手短かにKの中学時代の話をしてくれたそうだ。
2020.11.09
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勉強ができない、、、おそらくはその一点で誰からも何も肯定されてこなかったことが多い人生を歩んできた者がほとんどの学校であった。そしてその中でさらに誰かの何か劣ったところを見つけて攻撃をするような野暮な男もまたほとんどいない学校でもあった。皆が皆を認め合った。「あいつは〇〇ができる!」「あいつは△△ができる!」と、皆がそれぞれの良いところに敬意を持って接した。ちなみに私は「あいつは音楽ができる!」「あいつは中学時代は野球に明け暮れていた!」という評価をしてもらっていて、2年以降は「あいつはモトクロスができる!」が加わった。・・・入学当初は「あいつは九九ができる!」というのがあったのも事実だが・・・このことを思い出すと、Kのことに触れないわけにはいかない。Kは小学校・中学校と悲惨なイジメに遭ってきた男であった。
2020.11.08
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生徒同士が校内で殺し合いをしている・・・なんて噂が立つのにはそれなりの理由があるにはあった。学期に数名実際に生徒が消えるということが起こっていた。共に電車通学をしている他校の生徒からすれば、知り合いではないが他校の通学馴染みの顔がある朝から突然見えなくなるのが不思議であったのだと思う。しかも我々は消えた友人のことを口にすることはなく、最初から居なかったかのように誰ともなく振る舞うのも原因のひとつであったのだろう。おそらく夜逃げであろうが突然家がもぬけのカラになってしまい音信不通になる者。交通事故等で二度と学校に来れなくなる者。仲間に顔向けできない事態を起こしてしまい自主退学する者。そして校内で問題を起こして退学させられる者。消えゆく原因は様々であった。そんな現実があったからこそ我々は仲間を大切にした。勉強もろくにできない男たちの集まりではあったが『一期一会』という言葉の意味だけは身に染みて分かっていたからだ。だからこそ、それぞれがそれぞれを認め合った。だれに言っても信じてくれないが、あの底辺校(当時)内でイジメらしいイジメはなかったのだ。
2020.11.07
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どこで息継ぎしているのかよく分からないこの曲であるが、実は普通は4本のトランペットがパートに分かれて演奏しながらひとつの旋律をキープしていて、1本のトランペットへの負担はかなり軽減されている。それを、献血直後の階段ダッシュと4階廊下の持久走を経た状態でありながら、本来であれば4本で演奏する曲を1本で完璧に吹き鳴らす!!!これこそあの頃の私の存在意義であったかのように高らかに吹き上げるのだ。私の今までの人生でもこのときほど心地の良い時間があっただろうか・・・そして何事もなかったかのように私が教室に戻ったとき、すでに教室に戻っている仲間達から盛大なる喝采を受けるのだ。・・・群を抜いた学力底辺校(当時)である我が母校であった。他校の生徒からは校内で生徒同士が殺し合いをしているなんて思われていたのも事実であり、お嬢様女子高校の校則に我が校の生徒と言葉を交わしてはならないという校則があった(当時)のも事実であったが、今思えば本当にいい仲間たちに恵まれた高校時代であったとしみじみ感じる。本当に、熱く、そして温かい男たちであった。
2020.11.06
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この持久走は大体これまでのチャレンジより相場は見えている。本校舎の長い廊下を10往復もすれば他のライバルたちに勝利できる。しかもこれは往復数が勝負のポイントとなるので、スピードはあまり関係ない。もちろんかといって目に見えるほどのスローではその走りは却下されるので、ある程度の速度は維持する。そして一度も歩かないという付加価値も付けておく!そして・・・10往復が終わった後からが最後の勝負となる。しかしこれは私だけに課されている(というか自分で課している)ミッションである。本校舎4階の西の端にある教室は、実は吹奏楽部の部室であった。私はゴールと共に部室に入り、自分のトランペットを手にし、窓に向かって吹く!曲は『トランペット吹きの休日』!!!知らない人がこの題名を聞くと「トランペットが楽できるのでは・・・」と思うかもしれないが、ところがどっこい大作である。♪空に誓った誠の峰を~~~♪である。運動会なんかのBGMでよく使われるこの曲は終始トランペットのハイテンポな旋律でつづられているのがこの曲だ。
2020.11.04
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4階に上がると、今度は持久走に移行する。東西に延びる結構長めの校舎の廊下をひたすら走る。倒れるまで走る。正面衝突を避けるために自然発生的に左側通行で走る。西側の突き当りの壁にタッチして走り、東の端の部室の戸にタッチしてまた走る。これを息絶えるまで続ける。私のクラスは8組。献血が始まるのは1組からだ。私が4階に上がるころにはもう何人もの人間が倒れている。倒れながらも走っている者に自らの功績を口にする。「8往復した・・・」「俺は6往復半でアカンかった・・・」等々。この持久走は過酷を極めた。中には4階までは駆けあがるがそこまででギブアップする者も少なくなかった。しかし当時の私は長距離走が得意だったので、この持久走にも挑んだ。
2020.11.03
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献血車から一番近い校舎入り口の間に池がある。その池を少し迂回するのだがそのラインはアウト・イン・アウトだ。そのあたりですでに献血を済ませて私を待ち受けるライバルたちと遭遇する。ハッキリ言って私は短距離走はそれほど得意ではない。校舎に飛び込むのとき、私は大体後続グループだ。しかしいきなり最初の階段に入るときにある360度コーナーで私のATターンが出る。2階との途中にある踊り場でのターンのときにはだいたいすでにトップグループに追いついている。校舎最上階の4階の廊下の直線に出るまでターンは7回。大体4回目のターンですでに私はトップにいる。私がトップに躍り出られる理由は【ATターン】ともうひとつの要素があった。私より前に階段を駆け上がった者たちの中には、階段途中で倒れている者もいる。彼らはほぼ間違いなく階段の中央部分で朽ち果てている。私以外の者は階段を斜めに走るラインを取るので、朽ち果てた者たちに足をすくわれるのだ。さらにそんな倒れている者を「おらー、立て~、気合入れんかい!」なんて言いながら踏みつけにしている先生なんかがおられるので余計な障害物が増えていることも少なくない。それらの地の利にも救われながら4階にたどり着くと・・・そこからがまた新たな戦いがはじまるのであった。
2020.11.01
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