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2021.06.24
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​​仲正昌樹「《戦後思想入門》講義 丸山眞男と吉本隆明」(作品社) ​​

 敗戦後の日本という国にとって 1960年 という歴史的な年があります。その後のこの国の 「かたち」 を決定づけた、一般に 「日米安全保障条約」 と呼ばれている日本とアメリカの間に取り交わされた条約が発効した年です。
 最近 「集団的自衛権」 とかいう言葉がはやりましたが、その言葉にしろ 「安保条約」 にしろ、本質的には 「軍事同盟」 のことをいっているという認識は希薄ですが、実際は、 「戦争放棄」 という、この国の憲法の柱をないがしろにしているのではないかというふうに、ぼくは考えています。
 マア、それはともかくも、 1960年代 に小学生だった世代というのが、ぼく自身の世代で、まじめに勉強したことは金輪際なかったに違いないとあきれさせながら、二度も最高権力者の椅子に座った人物は同い年なわけで、 「いったいどうなっているんだろう?」 というのが、ぼくが、最近、「戦後思想」に対して興味を持ち始めた理由の一つです。
​​​ 今回の 「《戦後思想入門》講義 丸山眞男と吉本隆明」(作品社) という本は、先だって紹介した​ 仲正昌樹先生 「《日本の思想》講義」(作品社) ​という講義録の、まあ続編です。​​​
​​ 本書では、 丸山眞男 については 「忠誠と反逆」(ちくま学芸文庫) 、今では文庫化されていますが、単行本が発表されたのは1990年代の始め頃でした、が取り上げられ、 吉本隆明 については 「共同幻想論」(角川文庫) です。​​
丸山眞男 「忠誠と反逆」 は、戦争中に、彼が書いた論文を集めた 「日本政治思想史研究」(東京大学出版会) という、名著中の名著のような本がありますが、その本の戦後的継続がこの本といっていいと思います。
吉本隆明 「共同幻想論」 は、 「言語にとって美とは何か」(角川文庫) 「心的現象論序説」(角川文庫) と並んで、かつて 「吉本三部作」 と呼ばれた評論の一つですが、今では 角川文庫 に収められていますが、 1968年 河出書房 から出版された単行本は、当時のロングセラーだったと思います。
 ぼくは学生時代に読みましたが、論の中に、 「個的幻想」 「共同幻想」 の関係は 「逆立」する というような叙述があって、首をかしげていると、ある先輩に 「逆立ちのことだよ」 と教えられて、 「なんだそうか」 と思った記憶が、40年以上も前のことなのですが、なぜか鮮明に残っています。
 本書の講義中で、仲正先生が同じ個所で、同じ解説をされているの読んで、なんだかとてもうれしい気分になったのでした。

 で、本書の内容ですが、今から、 丸山眞男 なり、 吉本隆明 なりの論文や評論を 「戦後思想」 の研究の目的でお読みになる、特に若い方には丁寧な教科書というおもむきでおすすめです。
 ぼく自身は、この年になって、一人ではこの二人を読み直す気力がわいてきそうもないので、当該の 「本」 ではない参考書を読む、まあ、そう考えて読むとスルスル読めてしまうわけで、 「ああ、そういうことか。」 という納得も結構あって、読んだ気にもなれるし、思い出にもひたれるという、 「アホか!」 といわれてしまえばそれまでなのですが、かなり有意義な参考本だったのですが、一番記憶に残ったのは前書きで書かれたこんな文章でした。

​ 現在では、注目を浴びる売れっ子であるほど、どんな読者、視聴者にも理解できる優しい言葉で語ることが要求される。現政権や財界、サヨク・ウヨクに対する「鋭い批判」だと、何の前提も知識もない、「庶民」にも瞬間的に理解できるような文章を書くことが前提になっている。そうでないと、「本当に賢い人は、そんな訳の分からないことは言わない。地頭が悪い証拠だ!」などといわれる。丸山が漢文読み下し文を頻繁に引用する固い文体で新書を書いたり、庶民の感性を重視すると称する吉本が、精神分析や文化人類学、ソシュール言語学などの基礎知識を前提にして、「庶民の心に届く」とは到底思えない評論を書き綴っていたのは、今から思うと、信じられないくらい幸運な状況にである。吉本は丸山の教養主義的スタンスを厳しく批判しているが、かつての左派系の政治文化、ジャーナリズムに教養主義的な前提があったからこそ、両者のそれような、極めて抽象化された水準での議論が可能だったのだろう。(「前書き」)​
​​ 引用文の最初あたりの文脈が少々混乱している(校正ミスかな?)とは思うのですが、おおむね、言いたいことはわかってもらえると思います。1970年代に学生だったぼく自身は、 仲正先生 がいうところの 「地頭が悪い」 文章の 「むずかしさ」 にあこがれて、今、考えれば 「わかったつもり」 になるために、もっと 「地頭が悪い」 文章にとりつくという、悪循環の泥沼の中にいて、結局 「よくわからなかった」 現在を迎えているというわけです。​​
​ 今のハヤリであるらしい 「わかりやすい世界」 に暮らすの人たちから見れば、愚かそのものですが、ぼくから見れば 「よくわからない泥沼」 に薄く張った氷があって、その上でスケートを愉しんでいるかのような現在社会の様相は不気味以外の何物でありません。​
​ 少なくとも、 仲正先生 が、そういう時流に掉さす位置にいらっしゃるらしいことを頼りに、 「むずかしさ」 にこだわり続けたいと思っています。
「むずかしい」、「よくわからない」 ということは、本当はすべての本質なのではないでしょうか。
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最終更新日  2021.06.24 01:17:11
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