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2022.05.10
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テリー・ツワイゴフ「CRUMB クラム」元町映画館 2022年4月24日 は日曜日でした。その上、開映が夜の7時40分という 元町映画館 です。日頃、日曜日には家からほとんど出ない シマクマ君 が、終映時間を考えると市バスの最終が危ない時間になるというのにやってきた 元町映画館 でした。   
​​​ おめあては テリー・ツワイコフ監督 ​「CRUMB クラム」​ です。 フリッツ・ザ・キャット というキャラクターで有名な ロバート・クラム というアメリカのマンガ家を撮ったドキュメンタリーのはずです。 ジャニス・ジョップリン 「チープスリル」 というアルバムのジャケットを描いた人ですね。​​​
 映画は、すでに有名人になった ロバート・クラム が、アメリカを捨てて南フランスに移住しようと決めた、最後の日々をカメラで追いながら、漫画家になる経緯を追うように子どものころからの生活が写真やインタビューで振りかえられ、現在の家族との暮らしぶり、兄弟、老いた母、 クラム 自身の仕事ぶりに密着して丁寧に撮っている映画ですが、 ロバート がカメラに向かって話し始める最初のシーンから、やがて、住んでいた家に大きなトラックがやってきて、荷物が運び出され、空っぽになった部屋の窓のカーテンが下ろされる最後のシーンまで、映像に立ち込めていたのは、たぶん哀しさでした。​​​

​ 街を歩く人をスケッチしながら、カメラに向かって
​「ペンが勝手に描き出していくものを描いている。」
​​ とつぶやくように彼自身が、自分の描画について語る場面があります。​
​ 世界を指が認知し描き出して行くのを目が見て、確かめ直しているというか、ペンが勝手に動いて線や塗りつぶしになり、やがて世界を再現していく、意識や精神というような立派なものは、そこに介在しないということでしょうか。
 彼は笑って、カメラに話しかけていますが、自動マンガ描出機械のようにペンが描き出していく、たとえば、デフォルメされた性器が絡み合う世界に、彼が見ていたものは何だったのでしょう。ぼくには、自分が立っている荒野に原初の姿で向き合っている 孤独の塊 が笑っているように見えたのですが、うがちすぎだったのでしょうか。​

​​​ 彼をマンガの道に誘ったらしい、 兄チャールズ 弟マクソン との会話のシーンでも、彼ははにかんで笑いながら、目を合わすことなく相槌を打っていました。 チャールズ は高校卒業以来、家から出ることが出来ないまま、哲学書を読みふける中年男で、 マクソン は釘で作った棘だらけの板に座り、ヨガにふける男です。自分の中に閉じこもっている兄や弟のそばに、打ちのめされたように座り込み、それでも話しかけることをやめようとしない ロバート をカメラは映していました。​​
​彼は 6冊のスケッチブック と引き換えにフランスの住居を手に入れたそうですが、最後のシーンでおろされたカーテンの闇に浮かびあがったスーパーには 兄チャールズ の自死が報告されていました。彼がフランスに去って二年後のことだそうです。
 芸術的人間の、真の孤独に迫った 監督テリー・ツワイゴフ に​ ​拍手!​ でした。ぼくはかなり打ちのめされました。​

​ 映画館を出て、大急ぎで駅に向かい、駅のベンチでスマホを確認すると、なんと負け続けている ​だめトラ​ が、今シーズン初めて二けた得点で勝利していました。その場で、自宅に電話をすると
​​ 「オクビョウモノ!」 ​​
 ​ という高笑いの声が響いてきました。トホホ…。
​「でも、まあいいか、この映画見たし。」​
監督 テリー・ツワイゴフ
製作 リン・オドネル  テリー・ツワイゴフ
製作総指揮
ローレンス・ウィルキンソン アルバート・バーガー リアンヌ・ハルフォン
撮影 マリス・アルベルチ
編集 ビクター・リビングストン
音楽 デビッド・ボーディンゴース
キャスト
ロバート・クラム
チャールズ・クラム(兄)
マクソン・クラム(弟)
エイリーン・コミンスキー(妻)
1994年・120分・PG12・アメリカ
原題「Crumb」
日本初公開1996年11月30日
2022・04・24・no63・元町映画館no119
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最終更新日  2024.10.01 22:11:03
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