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2021年04月25日

最近読んだ本1(四月廿二日)




 だからといって、電子書籍をPC上で読むのもあまり気が進まない。以前はどの店で買ったものでも、形式さえ対応していれば、ソニーのリーダーで読めて便利だったのに、販売店の専用ソフトでしか読めないという読者の利便性を無視した方向に業界が進み始めた時点で、電子書籍は存在価値のない物になってしまった。例外的にRentaで漫画を読むことはあるけど、クレジットカードの実験に購入したポイントを消費するのと、日本にいたときから読んでいた自転車漫画の『アオバ』の続きを読むのが目的である。読んでいるとページめくりの遅さにいらいらしてくることも多いから、あえて対象を増やしたいとは思わない。

 ということで、読書をするとなると、読んだことのない本ということは滅多になく、同じ本を繰り返し読むということになる。たまに日本に戻る人から、こちらに持ってきた本をごっそり頂くことはあるけど、読んで大当たりだったと思うような本に巡りあうことはあまり多くない。そんな例題のひとつで、読んで衝撃を覚えたのが、篠田節子の『夏の災厄』だった。
 単行本の初版が刊行されたのは1995年のことで、版元は毎日新聞社になっているから、新聞に連載されたか、週刊誌に連載されたかしたものを単行本化したと見ていいだろう。新聞社から書き下ろしで本を出すなんてよほどのひも付きぐらいのものである。その後、1998年に文藝春秋社から文庫化されていて、今手元にあるのは、その第六刷で2001年に刷られたものである。

 日本の埼玉県の架空の市でウイルス性の感染症が発生したことを発端に始まる物語には、役所の決められた手順から逸脱できない硬直した体質のせいで対策が後手後手に回るさま、マスコミの無責任な報道に踊らされた一般市民がパニックに陥って被害が拡大するさま、最初はワクチン反対を叫んでいた市民グループが最後にはワクチンの認可を求めて騒ぎ立てるさまなどが描き出されていて、日本の現状を予見していたようにも思われる。去年の緊急事態宣言以来、誰かがこの本について発言してニュースになるんじゃないかと期待していたのだが、こちらの目に入った限りでは誰も取り上げていなかった。今こそ読まれるべき本じゃないかと思うのだけど。
 久しぶりに再読して思うのは、この本やはり凄いということである。最後がワクチンが認可されて接種が始まり流行が収束に向かうことが予想されるところで予定調和的に終わるのではなく、別な土地での新たな流行を示唆する形で終わっている。ここを読んで、現在のワクチンの接種が進めば感染症は収束するという楽観論が本当に正しいのか不安になってきた。

 刊行年を考えると、日本で存在を知っていたとしてもおかしくはないのだが、読書家を自認しておきながら、作者の篠田節子の存在も、この『夏の災厄』の存在も知らなかった。1990年代の後半と言うと、こちらの読書の中心がチェコ文学の翻訳とか、ファンタジー系の作品になっていたから、現代日本を舞台にした小説は目に入ってこなかったのかなあ。ちょっと損した気分である。
2021年4月23日24時


















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