陽炎の向こう側　　浅井　キラリ

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2008/09/10

その時、ドアのノックの音が聞こえた。

「お昼をお持ちしました。」

看護婦が昼食をのせたトレイを持って部屋に入ってきた。

「大丈夫ですか？」

「ええ。」

「では、また、後ほどきますね。」

森口は、部屋を出た。

『愛されていなかったと感じていたのか。何か、理由があるのかな。』

弘子は、運ばれた昼食にほとんど手を付けなかった。

弘子は、ベッドの中で横になったままだった。

「あなたの好きなシュークリーム買ってきたわ。お茶でもしましょう。」

「気分はどうだ？」

「ありがとう。心配掛けてごめんなさい。」

「おまえの気持ちを察してやっていなかった私たちが悪いんだ。おまえは、悪くない。

それだけは、心の中に留めておいてくれ。」

母親は、買ってきたシュークリームの箱を開け、持ってきた水筒の中から紅茶を紙コップに入れた。

「おいしいわ。」

弘子の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。

「弘子。苦しかったのね。ごめんね。」

母親も、涙を流した。

その傍らで、両親はずっと弘子を見守っていた。

父親がナースステーションへ行って、森口に弘子の様子を聞きに行った。

「大丈夫です。ご心配なさらないで下さい。

少し、心と体がお疲れになっているのです。

ここで静かにお休みいただいて、お薬で心と体を安定させて行きたいと思います。」

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