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「ゲンぺーさん、おじいさんになったネ」とクマさんは言った。 先程、最初に手に取った 「ドミートリ―ともきんす」 というマンガには、 湯川秀樹、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎 というビッグネームが登場するのですが、 「おじいさんになったね」 に登場するビッグネーム(?)は、 「老人力」 の 赤瀬川原平 、通称 「クマさん」 の 篠原勝之 です。マア、 南伸坊 も加えて三人ですね。
「え?」と赤瀬川さんはケゲンな顔だ。
そうかな、赤瀬川さんは、年齢(トシ)より若く見える方だけど・・・・・と私も思って聞いていたのだ。
クマさんの言い方は、なんだか「日本昔ばなし」みたいな、のんびりした様子なのだが、正直な感想がふと洩れたという感じだ。
この時、 赤瀬川(原平)さん は 六十二歳 。 ゲージツ家のクマ(篠原勝之)さん は 五十七歳 、 私は五十二歳 だった。
「メガネに注文がある」 この辺りで、 「案内」のまとめ にすすもうかと思っていたのですが、ここまでお読みいただいて、あとは本をお探しくださいでは、ちょっとなあ、というわけで、とりあえず最後まで引用しますね。
老眼になったので、デザインをするのに必ず、メガネが必要である。ものさじの目盛がよく見えないうえに、目印に打った点がどこにいったかわからなくなる。
まァ、しょうがないかと思っていたら今度は文庫本のルビが読めなくなった。
そうこうするうちに週刊誌のルビも読めないばかりか、そろそろ文庫本の大きい字が、落ちついて読めない。
なんだか、字がそわそわしているのだ。小便でもしたいのだろうか。
〈中略〉
仕事場で使っているメガネはつるが黒いので、こないだは、ソファ(黒)の上に置いたらどこかへ行ってしまった。
メガネがどこかへ行ったって、独自に何ができるというものでもあるまいに、一体どういうつもりかと思うけれども、しばらくすると元へ戻っているのである。
戻っているなら、私が
「あれ?メガネどこ行ったかな」
とか言ったときに、
「ここにおります」
と日本語で言えとまでは言わないが、
「ココ、ココ」くらいのことは言えるだろう。
ちかごろ、機械のたぐいが頼みもしないのにやけに何かを言いたがるのだ。
家にある電子レンジが、意味もなく「ピピ、ピピ」と言うので、ツマが、
「なに、なんなのアナタ」と叱ったりしている。
コードを抜いておいても「ピッ」というそうだ。
「やだね、付喪神にでもなったかね」と言っていたら、 こないだから、ウンともスンともピッと言わなくなっただけでなく、何にもしなくなったそうだ。
話がズレたが、メガネは「ココ」「ココ、ココ」くらい言ってもいいと私は思う。
〈引用つづき〉 2015年 に出版された、このエッセイ集は 「月刊日本橋」 という雑誌に 「日々是好日」 と題して、2021年の今も連載が続いているエッセイをまとめた本です。
ところで、ホームドラマなんかで、ハゲ頭のオヤジが、
「おーい、メガネどうしたかなあ?メガネ・・・・」
とか騒いでいて
「いやですねおとうさん、ヒタイ、ヒタイにかけてますよ」
というギャグにもなってないようなシーンがあるけれども、私はこないだ、こういうわざとらしいつまんないギャグみたいなことを、実際にしてしまって忸怩たる思いだ。
カバンというのは、さがしているものが即座に出てきたためしがないけれども、私はそのカバンの中にあるメガネをさがしていたのである。さがしてもさがしても出てこない。
駅で、ちょっと本が読みたくなったのでベンチにカバンを置いてメガネをさがしていたのだが、出てこないのだ。
夜店の万年筆屋みたいに、カバンの中のものを、すっかり出してベンチにならべてみたのにそこにメガネがない。
あきらめて、しかたがない裸眼で、無理やり読んでしまえ、と思って読むと、案に相違してスラスラ読める。
私はメガネをどうしたわけか、すでにかけていたのであった。
これは、おじいさんがぼけて、何度も朝飯を要求する、という定番の事態よりも、さらにひどくはないか?
「よしこさん、朝ごはんまだですかねえ」
「いやですねえ、おじいさん、いま食べてるじゃありませんか」
というような、状況である。
「さっき」食べたばっかりなのだったら、忘れたとかわかるけれども、むしゃむしゃ「朝めし」を食べながら「朝めしはまだですか」と言っているとというのでは、まるで不条理劇である。おそるべきことである。 (「月刊日本橋」2013・12月)
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