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2019.06.12
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カテゴリ: 中国
図書館で『アジア路地裏紀行』という文庫本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると・・・
フリーランンスライターたちのアジア紀行集となっていて、興味深いのです。





下川裕治著、徳間書店、1999年刊

<「BOOK」データベース>より
インドの娼窟へ売られたネパールの少女ジーナ、バングラデシュの農場長の家で働く奉行人チョビー、サイゴンの街を走るシクロ乗りの男たち、マニラのストリート・チルドレン…。アジアの国々には貧しいながらもたくましく、力強く生きる人々がいる。元気をもらうため、今日も私たちは彼らとの出会いを求めるのだ。ツアーでは見られないアジアの貌。これを読めばアジアにハマること請け合い。

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると・・・
フリーランンスライターたちのアジア紀行集となっていて、興味深いのです。

rakuten アジア路地裏紀行



中国人を嫌うモンゴルを、見てみましょう。
p235~239
<切手売りの夏:駒村康孝>
■中国人
 窓の外の、細い木立に降りかかる陽光がいくぶん、斜めにかしいで柔らかくなっていた。午後7時、それでも真夏のモンゴル高原の太陽は力強い。乾いた草原を照らすのをまだやめようとしない。

 なにするともなく、だらり、ぼくらは長い午後の夕刻をもてあそんでいた。
 ぼくは再び帰りどきを探して、外の光を眺めだした。そんなときだった。
 奥さんの一言に場が静かに固まった。
「この人だってそうなのよ。本当は中国人なんだから」

 和やかだった空気が、室内に散乱していくのが見えるようだ。
 沈黙の奥から、吐息のような声がこぼれた。
「そう。俺は中国人だよ」
 テグシバヤルだった。
「……」
「ヒャッタド(中国)・モンゴルで生れた中国人なんだ」

 ヒャッタド・モンゴル、直訳して中国・モンゴル。モンゴル国の人間は、やや見下ろすように鋭利な語気を込めて中国領の内モンゴル自治区をこう呼んでいる。

 彼は窓の外と足元に交互に目を泳がせながら、弱々しい笑みを絶えず浮かべている。諦めとも寂しさともつかない、意味不明の笑いは、口元が硬直していただけなのかもしれない。

 そのとき、地黒の彼の横顔の目のなかに小さく、外の光りが映っているのが見えた。ぼくはなんとはなしに、その顔を写真に捕りたいと、緊迫した話とまったく関係ないことを考えていた。
 彼が純粋なモンゴル人であろうと、中国人であろうと、ぼくにはどうでもいいことだった。

 でも、彼らにはどうでもよくなかったのだ。夫妻が、あえてぼくたちに打ち明けた、その思いを計りかねた。この国で歓迎されないはずのマイノリティーだと、なぜ知って欲しかったのだろう。
 しばしの沈黙が、テグシバヤルの複雑な心情を、なお重くしてしまいそうだった。

 ぼくは少ないモンゴル語の語彙をひっくり返して、言葉を探し始めた。
 分かったような言葉を返すよりはむしろ、元来そういう性格ではないのだけれど、「へえ、そうだったの」とすっきり言えたら、どんなにか彼も救われたろうと思う。

 モンゴル人が中国人に抱く感情と、ふたつのモンゴルについて少し知っておいてほしい。
 ふたつのモンゴルとは、ゴビ砂漠を挟んで北のモンゴル国と南の中国内モンゴル自治区のことだ。
 モンゴル国は、もとのモンゴル人民共和国。1990年に、約70年間続いた社会主義路線を放棄して国名を変えている。
 そもそも、なにもないモンゴル高原に街をつくったのは、中国大陸を支配していた清朝政府である。モンゴル民族を監視、懐柔するため18世紀中盤に弁事大臣の駐在所を設けている。のちにウランバートルになる。

 街で遊牧民たちは貨幣を知る。中国商人から金を借り、茶を買った。あげく、借金のかたに家畜を取られ、乞食になって草原から流れ出した遊牧民が、街にあふれた。
 まるで魔法だった。税で厳しく民を縛り、一方で甘言を使い貨幣を巧みにあやつる中国人は、草原に降ってきた悪魔にしか見えない。圧政と中国商人のずるさは伝統的に語り継がれることになる。

 フーバートルというぼくの友達は、返事に困りながら、
「連中は悪い人間さ。どうして中国人が嫌いかって? チンギス・ハーンの時代から血も心もそうなっているからさ」 
 ずいぶん抽象的なことを言った。でも、たいていのモンゴル人は同じように答えるのだ。遡れば、遊牧民族と農耕民族のせめぎあいまでたどり着くというわけだ。

 外モンゴル地域は、いまわしき中国から逃れるため、ソ連に助けを請い1921年に念願の独立を遂げる。そのとき、中ソが決めた国境線は、モンゴル族の居住区域を大きくふたつに割った。ゴビ砂漠の南側で家畜を育てていたモンゴル人は突如、中国人になったわけだ。
(中略)

 モンゴル人が一般に「ヒャッタド・フン(中国人)」という場合、ふたつの対象があるのでややこしい。漢民族に象徴される一般的中国の民と、内モンゴルの民だ。ちなみに、人間を差別しない文化人も、前者の中国人だったら、話す以前に論外だ。人に非ず、に近い。

 中国人に対する根深い憎しみは、ぼくもウランバートルに住むうちに、身に染みて知ることになる。中国人によく間違われたからだ。
 酔った人間が路上でいきなり、「おまえ、中国人か」と、がなりながらからんでくることはざらだった。





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Last updated  2019.06.13 08:11:34
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