10章 石工事
2023年12月24日
10章 石工事 1節 一般事項
1.一般事項
10.1.1 適用範囲
a)適用除外の工法
「標仕」では、現場打ちコンクリートの表面に、天然石またはテラゾを取り付ける工事を適用範囲としている。
次の場合は、適用しない。
?@)下地に鉄骨造(間柱及び胴縁)が用いられる場合もあるが、下地としての適否を個々に検討する必要があり、「標仕」では対象としていない。
?A)石材に近似した用い方をする大形の陶板及び結晶化ガラス等は、物性、使用板厚等が異なることから、対象としていない。
?B)薄石をセメントモルタルや接着剤を用いて壁面に張り付ける工法は対象としてない。また、帯とろ工法も、耐震性が懸念され、適用から除外されている。
b)作業の流れ
図10.1.1 石工事の作業の流れ
c)製作工場の決定
現在でも一部は国内産の石材が用いられているが、多くは外国産となっている。また、表面仕上げ方法も機械化されている。そのために、製作工場の取り扱い石種、機械能力、得手不得手等を十分に検討し、適切な工場を選定させる。一般には設計図書で指定されることが多いが、指定のない場合には次のような事項に留意する。
?@工場の経歴・実績
?A工場の規模及び機械の設備
?B受注能力(月産加工能力)
?C製品の出来ばえ
?Dその他
d)施工計画書の記載事項
施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、 ゴシック部分を考慮しながら品質計画を検討する。
?@工程表(見本決定、製品の検査・着工・完了等の時期)
?A施工業者名、作業の管理組織
?B製作工場の機械設備
?C現場における揚重・運搬計画・設備
?D石材・テラゾの種類、仕上げの種類及びその使用箇所
?E材料加工の方法、石の裏面処理方法・材料
?F置場の確保、整備(運搬しやすい場所、破損に対して安全な場所、角材等の受台準備等)
?G保管方法
?H標準的石張り工法、施工順序
?Iアンカー、下地鉄筋、引金物、だぼ、かすがい、取付け金物等の材質、形状、位置、寸法
?J伸縮調整目地
?K取付け後の養生
?L作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
e)施工図の記載内容
石工事に必要事項は特記仕様に記載されている。この記載事項について設計担当者と十分に打合わせを行い、施工図(石割り図、取り付け工作図、その他の詳細図及び原寸図等)に反映させる。施工図の内容については工事開始前に詳細な検討を行い、具体的に工事条件と照合し、相互に疑義や相違がないかを関係者と十分に協議して決定する。
施工図の内容は、おおむね次のとおりである。
?@各面の石の割付け
?A一般部、出隅、入隅等の各部の収まり詳細
?B湿式・空積工法においては、取付け金物類(引金物、だぼ、緊結金物、受金物等)の使用箇所及びその詳細、特に落下時の危険性が高い箇所の詳細
?C乾式工法においては、取付け金物類(乾式工法用ファスナー等)の使用箇所及びその詳細、特に落下時の危険性が高い箇所の詳細
?D特殊部位(窓、出入口、エレベーター等の開口部、アーチ、上げ裏、笠木、甲板、隔て板等)周辺の詳細
?E関連工事との取合い(設備機器等の取付けのために必要な穴あけ、欠き込み等の位置、寸法及び目地等)
?F水切、水返し等の詳細
?Gその他必要と思われる部分の詳細
10.1.2 基本的要求品質
a)使用する材料
石材は、設計図書に指定されたものとするが、天然材料であることから、同一の種類の石材であっても、品質のばらつきが大きい。特に、石材の色調、模様、仕上げの種類や程度については意匠上の要求が厳しく、あらかじめその限度を実物見本により確認し、同時に納まりや施工方法についても、検討しておく必要がある。
また、石材は、そのほとんどが外国産であり、使用部位による石種の選定、必要量の確保が可能かどうか、加工の難易度についてもあらかじめ確認しておく必要がある。
石材が建築物に取り付けらえているのは、金物類によってである。石工事に用いる金物類は、重量物である石材に堅固に留め付ける強度、外気や水分にさらされても性能劣化しない耐久性等要求される品質は極めて高い。実際に使用する以前に、材質、形状等を十分検討しておく。
b)仕上り状態
石工事は高級な仕上げであり、その仕上りについても他の仕上材料の場合と比べて高い精度が要求される。このため、仕上り面の形状や寸法の許容差は、他の仕上材料の場合よりも小さいものとなる。石材は工場において加工されるもので、通常は建築部材として必要な精度を持つものとなっている。しかし、石工事の仕上り面は、下地に石材を取付けた結果として得られるため、単に材料としての石材の精度が良いだけでは、適切な状態とはんらない。したがって、石工事の仕上り面の精度を上げるためには、下地面の精度を適切に管理することが重要なポイントとなる。
「標仕」10.1.3(c)では、下地面の精度の標準値を示しているが、建物の規模、石張り面の見え掛りの程度等のほか、石材施工業者の施工能力も含めて総合的に必要な目標精度を定めるようにする。また、「所要の状態」とは、仕上げの不ぞろいの程度、色合の程度等について、あらかじめ限度を定めておき、この限度内に収まるように管理を行うことと考えればよい。これらの限度を定める場合にあっては、同時に限度を外れたものの処置方法についても明確にしておく。
c)機能・性能
石材の下地への取付けは、建築物の一部として必要な性能を発揮するために重要なものであり、外壁、内壁、床、特殊部位等によって適切な工法を具体的に定めている。「下地への取付けが所要の状態」とは、想定される外力等に対して安全であることを下地を含めて要求していると考えれば良い。
「品質計画」の立案に当たっては、プロセスの管理をいかに行うかという観点で、例えば、定められて工法が手順どおりに行われたことをどのように記録していくかを提案させることが考えられる。
10.1.3 施工一般
a)石材の割付け
「標仕」には一般部よりもむしろ、事故が発生しやすく最も注意しなければならない部分の割付け方法が規定されている。
?@)動きのある目地周辺
水平打継ぎ部、伸縮調整目地部分等は、下地の乾燥収縮量や熱膨張量の違いなどで挙動差が生じる。また、地震時の変位量を正確に推定することは難しく、かつ予想以上に大きくなる可能性もある。したがって、この部分をまたいで一枚の石を取り付けないことを原則としている。やむを得ず取り付ける場合には、乾式工法を用い、ファスナーを工夫するなど挙動差を吸収する検討が必要である。
?A)開口部回り
開口部回りは、地震の際の変位が大きくなりやすく、破損や脱落の可能性が大きい部分であり、適切な割付けが必要である。開口隅角部で不整形な石をバランスよく取り付けることは難しく、かつ、欠き込み部分に応力集中が生じて割れやすいため、L型に欠き込んだ石材を用いないような割付けとすることが望ましい。また、開口部回りは通常、建具のファスナーやフラッシングが石材に当たらないように納める。
b)石材の加工
1)加工範囲
入隅等で のみ込みとなる部分は、見え隠れとなる部分でも、施工上の誤差を考慮して、あらかじめ所定の目地位置より 15mm以上、表面仕上げと同じ仕上げをしておく。ただし、自動機械で行う石材の表面仕上げの場合は、石材全面が同一の仕上げとなるのでこの限りではない。
図10.1.2 表面仕上げの範囲 [ 壁水平断面(湿式工法) ]
2)加工場所
だぼ、引金物及びかすがいを取り付ける穴は、位置・径・深さを精度良く加工するため、工場加工を原則とする。ただし、加工の容易な大理石や砂岩等の場合には、外壁への適用を除き現場加工が一般的である。
道切りは、引金物を目地部に突き出させないために、合端に設ける溝であり、小形カッター等で溝彫りする。
図10.1.3 引金物・だぼ・かすがい取付け用穴の例
c)下地面の精度
1)下地への要求精度寸法
石材の取付けには、引金物やファスナーのような金物を用いるので、下地面と石材裏面との間隔が場所によって大きく異なると準備した金物が使えなくなる。そのため、下地には、「標仕」表10.1.1に示す精度を求めることとされている。
2)ファスナーの寸法調整範囲
乾式工法では、石材を下地に取付ける金物をあらかじめ設計寸法に合わせて製作して用いる。通常、乾式工法に用いる金物はファスナー内で ± 8mm程度の面外調整機構を組み込んでいるが、下地面精度が許容範囲を超えていると、使用できない金物が出てしまう。その結果、工期の遅れを来したり、複数の調整代を持つ金物を用意しなければならないことがる。
3)下地のはつり作業回避
仕上げ代を確保するために躯体のはつり作業は行わない。取付け金物あるいは取付け工法の変更で対応する。
10.1.4 養 生
a)雨水に対する養生
雨水時のモルタル作業及び目地詰め作業は、雨水が入らないようにシート等で養生するか、作業を中止する。また、モルタルが完全に硬化するまでは、雨・雪等が掛からないようにシート等で覆いをする。
b)壁面の養生
目地詰めまで完了した仕上げ面は、ビニルシートによる汚れ防止のほか、ものが当たりやすく破損のおそれのある所や、溶接作業による火花の飛び散るおそれのあるところでは、クッション材を挟んで合板等を用いて損傷を防ぐ。また、出隅部、作業通路等で石の破損を防止するためには、樹脂製の養生カバーを取り付ける。
c)床面の養生
床の施工終了後、建築物が完成するまで歩行禁止することは困難であるが、モルタルが硬化するまで歩行を禁止するとともに、石の表面を汚さないようにポリエチレンシートを敷き、その上に合板を敷き並べるなどにより破損防止を目的とした養生を行う。
10.1.5 清 掃
石材の清掃は。石種や仕上げによって留意点が若干異なるが、原則は「標仕」に示すとおりである。
1)花崗岩・砂岩等の粗面仕上げ
原則として水、場合によっては石けん水、合成洗剤等でナイロンブラシを用いて洗い、塩酸類に使用は極力避ける。セメント等の汚れの場合は、事前に十分含水させ、希釈した塩酸で洗う。この場合、酸洗い後も十分水洗いを行う。
2)花崗岩・大理石等の磨き仕上げ
日常の軽度な汚れは清浄な布でからぶきする。付着した汚れは、水洗い又は濡れた布でふき取り、乾いた布で水分を除去して乾燥を待ち、再度からぶきする。目地回りに付着した汚れは目地材を損傷させないように、ブラシで取り除く。水洗いで除去できない汚れは中性合成洗剤等を溶かしたぬるま湯を用いて洗い。乾いた布で水分を除去して乾燥を待ち、再度からぶきする。
3)テラゾの磨き仕上げ
種石部分よりセメント部分が汚染されやすい。施工中のセメントモルタル等による汚染は、その都度速やかに清水を注ぎ、ナイロンブラシ等を用いて洗い落とす。特にテラゾは水洗いによってつやが消えやすいので、汚染しないことと乾燥した布での清掃が前提である。
4)床及び階段
石材の清掃は原則として水洗いまでであるが、維持管理のために、石工事でワックス掛けを行う場合もあるので、「標仕」ではワックス掛けの要否は特記によるとしている。ワックス掛けが特記された場合には、ワックスは仕上材を汚染しないものとし、ワックス掛けを石材の施工後すぐに行うと下地モルタルの水分により汚染が生じる場合があるので、その時期にも注意する。
10章 石工事 2節 材 料
2.材 料
10.2.1 石 材
(1)石材の品質
JIS A5003(石材)では、石材の品質は産地及び種類ごとにそれぞれ1等品、2等品及び 3等品となっているが、「標仕」では特記により等級を選択するのを原則としている。建築用の石工事では、1等品を用いるのが通常である。ただし、「標仕」では、特記がない場合に床用石材は2等品となる。
上記のJISの品質等級は、欠点の有無や色・柄のばらつきのような外観の良否を評価基準としているために、あくまで主観的な判断とならざるをえない。したがって、商取引上は、見本品を作成することにより外観上の品質を規定することが行われている。
一方、石材の品質は、外観のみならず、使用部位での要求条件に即した品質を有していることが前提となる。特に張り石では、JISで規定していない曲げ強さや金属取付部の耐力及び発錆懸念の有無等が必須の選択指標となる。いずれも、事前に検討が必要となる。10.5.1 (5) (?@) に示した留意点も参照されたい。
表10.2.1 にJISに定められた品質の基準を参考までに示す。
表10.2.1 品質の基準(JIS A5003:1995)
(2)石材の種類
?@)建築用石材は使用箇所に見合った性質、色合、感触のものが用いられており、過去の使用実績が多く、物性及び取り扱い要領がよく知られている石材の種類は、花崗岩、大理石及び砂岩である。各種石材の特徴を表10.2.2 に示す。
★建築用石材の分類
表10.2.2 主な天然石の特徴
花こう岩はいわゆる御影石とよばれ、地下深部のマグマが地殻内で冷却固結したもので、
結晶質の石材で硬く、耐摩耗性、耐久性に優れ、磨くと光沢があり、大材が得られる石材として建築物の外部・床・階段等を中心に最も多く用いられている。耐火性の点で劣るなどの欠点もある。
大理石(変成岩)
大理石は主に建物の内部で用いられる代表的な装飾石材で、石灰岩が地中の熱で変成し、再結晶した石材である。石灰質の混入鉱物によって白・ベージュ、灰、緑、紅、黒等の色がある。また、無地のほか、しま・筋・更紗・蛇紋等の模様が入り、ち密で磨くと光沢が出る。耐酸性・耐火性に乏しく、屋外に使用すると半年から一年で表面のつやを失う。
砂岩(堆積岩)
砂粒とけい酸質・酸化鉄・石灰質・粘土等が水中に堆積し、こう結したもの。一般に耐火性に優れたものが多いが、吸水性が大きく耐摩耗性・耐凍害性・耐久性に劣り、磨いてもつやは出ない。国産は少なく、インド等かだの輸入材を用いることが多い。
石灰岩(堆積岩)
石灰岩は大部分が炭酸カルシウムからなり、炭酸石灰質の殻をもつ生物の化石や海水中の成分が沈殿しあt岩石である。大理石にくらべて粗粒であるが他の石材にない独特の風合をもつ。一般には柔らかく、加工しやすい反面、取付け部耐力、曲げ強度等は他の石材に比べると小さく、耐水性に劣り、また、産出場所による品質のばらつきが大きいために、原則として内装の壁・床材として用いることがのぞましい。
安山岩(火成岩)
花崗岩とともに代表的な硬石である。石質・色等の種類が多く、強度・耐久性に優れ、特に耐火性は大きく外装用石材としても用いられる。しかし、外見は花崗岩に劣り、磨いてもつやが出ず、大材が得られない。
凝灰岩(堆積岩)
火山の噴出物、砂、岩塊片などが水中あるいは陸上に堆積して凝固した岩石で、栃木県の大谷石、静岡県の伊豆若草石が有名。
蛇紋岩(変成岩)
かんらん岩が変質したもので、黒・暗緑・黄緑・白色等が入り混じった模様があり、磨くと美しい光沢が得られる。性状は大理石とほぼ同じで、やはり屋外で使用すると光沢を失い退色する。
?A)建築に石張りを用いる箇所には意匠性、躯体保護機能等はもとより、建物の使用期間中に外観を損なったり、損傷・脱落することがなく、取付けやメンテナンスがしやすいなど、様々な性能が要求されている。現在一般的に使用されている花崗岩と大理石について、その名称・産地の例を表10.2.3および4に示すが、同一産地でも採取する山が違ったり国内の取扱い業者が違う場合には名称やカタカナ表示が異なる場合もある。石材は天然材料であり、物性値についてもあくまで参考値である。
?@花崗岩は世界各地から輸入されており、現在は韓国・インド・中国が三大供給地であり、中国産が増加している。また、例示した花崗岩には磨き仕上げを施すと風化現象が目立つ石材(例えば、シェニートモンチーク)や色調の不ぞろいが出やすい石材(例えば、マホガニーレッド)も含まれているので、過去の使用例も参照し、注意して選択しなければならない。
?A大理石はイタリア産が多く、最近は輸入品の6割以上が板石に加工され輸入されている。
なお、表中の組織は組織の粗さであり、級別は市場価格の目安である。
表10.2.3 花崗岩の石種と物性例
表10.2.4 大理石の石種と物性例
3)石材の形状・寸法
石材の形状及び寸法は特記によるが、取付け部位や工法を考慮することが求められる。一般的には、形状は矩形とし、1枚の面積は 0.8m 2 以下とする。
4)石材の表面仕上げ
仕上げの種類に対応する仕上げの程度・方法や石材の種類は、「標仕」による。また、その特徴を表10.2.5に示す。同一石材でも仕上げの種類が異なると、表面状態が変わるだけでなく、色調も大きく異なるので見本品で確認する。
なお、各種仕上げの使用状況を表10.2.6に示す。
表10.2.5仕上げの種類とその特徴
表10.2.6各種仕上げの使用状況
のみ切り
びしゃん
こたたき
b)テラゾ
1)テラゾの品質
テラゾは、JIS A5411(テラゾ)に定められており、花こう岩、大理石や石灰岩の砕石を種石とした上塗りモルタル(化粧モルタル)と一般のコンクリートに用いる川砂を骨材とした下塗りモルタル(裏打ちモルタル)を2層で振動加圧成型し、十分硬化するまで養生したのち、上塗りモルタル部を切削研磨し、大理石のような光沢に仕上げたブロックおよびタイルである。JIS規格による分類を表10.2.7に、その品質規格を表10.2.8に示す。昨今では、国産テラゾの価格が輸入石材価格を上回ることとなり、テラゾブロックはほとんど姿を消している。テラゾタイルも海外製品が輸入されている。
表10.2.7 テラゾの分類(JIS A5411:2008)
表10.2.8 テラゾの品質(JIS A5411:2008)
2)テラゾの種類
?@)種石は種類が多く、一般的には表10.2.9に示すものが使用され、寸法は 5〜12mm(3.5分下5厘止め)が標準であるが「標仕」では特記することとし、特記のない場合は、大理石で 1.5〜12mmのものとしている。
表10.2.9 テラゾ用種石の物性
?A)セメントを着色するための顔料は、耐アルカリ性・耐光性があり、コンクリートの強度や収縮等に悪影響を及ぼさない無機質系材料が使用されている。
3)テラゾの形状・寸法
テラゾブロックおよびテラゾタイルは、製作物であるため、その形状・寸法はいずれも特記される。
なお、テラゾタイルでは、規格寸法の輸入製品が流通している。
4)テラゾの表面仕上げ
テラゾブロックおよびテラゾタイルの表面仕上げは、石材の磨き仕上げに順じ、その種類・程度は特記される。
10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
?@)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2 程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm 2 程度)も使用されている。
?A)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。
?B)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。
表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)
2)受金物
受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。
表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。錆止め塗料の詳細については 18章を参照されたい。
b)乾式工法用金物
1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。
2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。
3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。
c)特殊部位用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。
2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。
3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。
4)隔て板用金物
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。
d)先付けアンカー
1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。
2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。
e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。(14.1.3(a)(?A)参照)
f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。
10.2.3 その他の材料
a)セメントモルタル
1)使用材料
セメントモルタルの材料は、15.2.2 による。基本的に、セメントは普通ポルトランドセメント、砂は粗目とする。石材が白色系や透明度の高い大理石の場合には、川砂中の不純物によって大理石を黄変させたり、裏込めモルタルあるいは取付け用モルタルの色が表面に透けて見えることがあるので、寒水石粒等白色系の砕砂を白色ポルトランドセメントを用いる。
2)調合
セメントモルタルは使用する部位に応じて、その要求する軟度が異なり、施工性および施工後の品質に影響を及ぼす。セメントモルタルの調合は、目安が「標仕」表10.2.5に定められているが、これ以外は15章に準ずる。
3)混和材料
石工事に用いるセメントモルタルに混合される混和材料は、モルタルの用途に応じていくつかの種類がある。
?@裏込めモルタルは、躯体と石材の間を確実に充填し、充填部分にじゃんか等の欠陥が生じず、モルタルと石材や躯体との間に隙間が生じないことなどが要求されるために、減水材・分散剤等の混和材が用いられる。
?A敷きモルタルは、いわゆるバサモルと称されるもので、混和材料が使用されることは少ない。
?B張り付け用ペーストや目地モルタルには接着性・防水性等が期待され、メチルセルロース、SBRや防水剤等が用いられる。
4)取付け用モルタル
取付け用モルタルは、特に急結性を要し、硬化の早い材料を使用する。最近は止水・充填・補修用の材料である止水用セメントが多く使われている。石裏面の各種の金物は、金物表面が結露しやすく、その際にモルタル中に塩分が存在すると腐食が促進されるため、塩化カルシウムを含む急結剤は使用してはならない。
5)目地モルタル
目地モルタルは、作業性の向上、ひび割れ防止および白華防止等を目的として既調合セメントモルタルが数種類市販されており、既調合材料を使用することが望ましい。ただし、現場調合とする場合は、「標仕」表10.2.5による。
b)石裏面処理材
1)石裏面処理材が使用される目的は、主としてぬれ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される。また、乾式工事や空積工法においても、最下段の石は水分の多い環境に取り付けられるため、ぬれ色、白華対策として石裏面処理材を使用することが望ましい。
2)石裏面処理材は、各接着剤製造所によって様々なものが開発されているが、過去の実績や不具合等の例を知っている石材施業者の指定する製品を用いるのが無難である。
3)石裏面処理材は、製作工場で施工することを原則とするが、止むを得ず現場で塗布する場合には換気に留意する。
c)裏打ち処理材
裏打ち処理材は、繊維補強タイプ(クロスヤチョップを樹脂で張り付けたもの)と、石材の荷重受けとしての力石のようなものとに分けられる。
?@)繊維補強タイプは、石材が衝撃を受けた場合の飛散・脱落防止を目的として乾式工法や空積工法の壁および上げ裏等で採用される。
?A)力石は、石材の小口に引金物を設けにくい箇所、石材荷重を納まり上見ばえよく受けるため、あるいは石材を補強するために石裏面に施すもので、乾式工法、湿式工法および空積工法で用いられる。
d)シーリング材
シーリング材の詳細は第9章6節を参照されたい。シーリング材は使用部位や目的に応じて使い分けなければならないが、石工事において留意すべき点は、目的周辺部の汚染である。
?@)成分の移行による石材そのものの汚染は、プライマーによって防止できることが多いので、プライマーを必ず使用する。その際、表面と小口との角の部分は切断状態がシャープでなく欠けていたりして、プライマーが十分塗布できず、しみが発生する要因になることがある。目地幅は、プライマー塗布の作業性等も考慮して、最低 6mm以上を確保する。
?A)ほかにもシーリング材に付着した塵あいによる汚れ等にも留意する。
?B)特に大理石の場合には、シーリング材からの揮散成分が付着した目地周辺部に、汚染が比較的多いので、事前にシーリング材製造業者および石材施工業者と協議することが望ましい。
?C)花こう岩等についても吸水率の大きい材種については同様である。
?D)汚染の観点から評価すると、表10.2.12のようになる。シーリング材は、石工事ではなくシーリング工事の範囲で取り扱われることから、硬化後の諸性能に勝る2成分形の使用がほとんどである。
表10.2.12 シーリング材による汚染の観点からの評価
e)ドレンパイプ
ドレンパイプは石裏または石目地裏に設け、浸入水の排水と通気による裏込めモルタルの乾燥促進を図り、ぬれ色や白華を防止するためのものでその仕様は特記による。石材の縦目地ごとに設けることが望ましいが、事例としては縦目地2〜3本ごとおよび出隅・入隅に配置することが多い。一般的に樹脂ネット製の25〜35φのパイプに目詰まり防止用としてクロスのメッシュを巻いたものが使用されている。
f)だぼ穴充填材
だぼ穴充填材にはセメントペースト、エポキシ樹脂、ゴムチューブ等が用いられている。それらは、次の事項に留意して選定しなければならない。
?@)だぼ穴に充填しやすい
?A)取り付け金物の形式に応じた硬さを持つ
?B)適度の接着強度をもつ
?C)石材を汚染しない
?D)適度の止水性能を持つ
?E)変質・膨張しない。
10章 石工事 2節 材料 取付け金物
2.材 料
10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
?@)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2 程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm 2 程度)も使用されている。
?A)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。
?B)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。
表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)
2)受金物
受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。
表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。
b)乾式工法用金物
1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。
2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。
3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。
c)特殊部位用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。
2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。
3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。
4)隔て板用金物
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。
d)先付けアンカー
1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。
2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。
e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。
f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。
10章 石工事 2節 材料 その他の材料
2.材 料
10.2.3 その他の材料
a)セメントモルタル
1)使用材料
セメントモルタルの材料は、15.2.2 による。基本的に、セメントは普通ポルトランドセメント、砂は粗目とする。石材が白色系や透明度の高い大理石の場合には、川砂中の不純物によって大理石を黄変させたり、裏込めモルタルあるいは取付け用モルタルの色が表面に透けて見えることがあるので、寒水石粒等白色系の砕砂を白色ポルトランドセメントを用いる。
2)調合
セメントモルタルは使用する部位に応じて、その要求する軟度が異なり、施工性および施工後の品質に影響を及ぼす。セメントモルタルの調合は、目安が「標仕」表10.2.5に定められているが、これ以外は15章に準ずる。
3)混和材料
石工事に用いるセメントモルタルに混合される混和材料は、モルタルの用途に応じていくつかの種類がある。
?@裏込めモルタルは、躯体と石材の間を確実に充填し、充填部分にじゃんか等の欠陥が生じず、モルタルと石材や躯体との間に隙間が生じないことなどが要求されるために、減水材・分散剤等の混和材が用いられる。
?A敷きモルタルは、いわゆるバサモルと称されるもので、混和材料が使用されることは少ない。
?B張り付け用ペーストや目地モルタルには接着性・防水性等が期待され、メチルセルロース、SBRや防水剤等が用いられる。
4)取付け用モルタル
取付け用モルタルは、特に急結性を要し、硬化の早い材料を使用する。最近は止水・充填・補修用の材料である止水用セメントが多く使われている。石裏面の各種の金物は、金物表面が結露しやすく、その際にモルタル中に塩分が存在すると腐食が促進されるため、塩化カルシウムを含む急結剤は使用してはならない。
5)目地モルタル
目地モルタルは、作業性の向上、ひび割れ防止および白華防止等を目的として既調合セメントモルタルが数種類市販されており、既調合材料を使用することが望ましい。ただし、現場調合とする場合は、「標仕」表10.2.5による。
b)石裏面処理材
1)石裏面処理材が使用される目的は、主としてぬれ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される。また、乾式工事や空積工法においても、最下段の石は水分の多い環境に取り付けられるため、ぬれ色、白華対策として石裏面処理材を使用することが望ましい。
2)石裏面処理材は、各接着剤製造所によって様々なものが開発されているが、過去の実績や不具合等の例を知っている石材施業者の指定する製品を用いるのが無難である。
3)石裏面処理材は、製作工場で施工することを原則とするが、止むを得ず現場で塗布する場合には換気に留意する。
c)裏打ち処理材
裏打ち処理材は、繊維補強タイプ(クロスヤチョップを樹脂で張り付けたもの)と、石材の荷重受けとしての力石のようなものとに分けられる。
?@)繊維補強タイプは、石材が衝撃を受けた場合の飛散・脱落防止を目的として乾式工法や空積工法の壁および上げ裏等で採用される。
?A)力石は、石材の小口に引金物を設けにくい箇所、石材荷重を納まり上見ばえよく受けるため、あるいは石材を補強するために石裏面に施すもので、乾式工法、湿式工法および空積工法で用いられる。
d)シーリング材
シーリング材の詳細は第9章6節を参照されたい。シーリング材は使用部位や目的に応じて使い分けなければならないが、石工事において留意すべき点は、目的周辺部の汚染である。
?@)成分の移行による石材そのものの汚染は、プライマーによって防止できることが多いので、プライマーを必ず使用する。その際、表面と小口との角の部分は切断状態がシャープでなく欠けていたりして、プライマーが十分塗布できず、しみが発生する要因になることがある。目地幅は、プライマー塗布の作業性等も考慮して、最低 6mm以上を確保する。
?A)ほかにもシーリング材に付着した塵あいによる汚れ等にも留意する。
?B)特に大理石の場合には、シーリング材からの揮散成分が付着した目地周辺部に、汚染が比較的多いので、事前にシーリング材製造業者および石材施工業者と協議することが望ましい。
?C)花こう岩等についても吸水率の大きい材種については同様である。
?D)汚染の観点から評価すると、表10.2.12のようになる。シーリング材は、石工事ではなくシーリング工事の範囲で取り扱われることから、硬化後の諸性能に勝る2成分形の使用がほとんどである。
表10.2.12 シーリング材による汚染の観点からの評価
e)ドレンパイプ
ドレンパイプは石裏または石目地裏に設け、浸入水の排水と通気による裏込めモルタルの乾燥促進を図り、ぬれ色や白華を防止するためのものでその仕様は特記による。石材の縦目地ごとに設けることが望ましいが、事例としては縦目地2〜3本ごとおよび出隅・入隅に配置することが多い。一般的に樹脂ネット製の25〜35φのパイプに目詰まり防止用としてクロスのメッシュを巻いたものが使用されている。
f)だぼ穴充填材
だぼ穴充填材にはセメントペースト、エポキシ樹脂、ゴムチューブ等が用いられている。それらは、次の事項に留意して選定しなければならない。
?@)だぼ穴に充填しやすい
?A)取り付け金物の形式に応じた硬さを持つ
?B)適度の接着強度をもつ
?C)石材を汚染しない
?D)適度の止水性能を持つ
?E)変質・膨張しない。
10章 石工事 3節 外壁湿式工法
3.外壁湿式工法
10.3.1 適用範囲
外壁湿式工法(図10.3.1参照)は、経済的な工法であり、かつては外壁石張りの主流であったが、現在では実施例も減少しており,外壁乾式工法や石先付けプレキャストコンクリート(GPC)工法に移行しつつある。
湿式工法の適用が減少している主な理由として次のことが考えられる。
(1)石裏に水が浸入し、それが原因で石材のぬれ色・白華が生じ、美観を担なうことがある。
(2)コンクリート躯体と裏込めモルタルの乾燥収縮と石材の熱による膨張・収縮で石材のはく離が生じ、引金物やだぼの取付けが不備な場合には脱落することがある。
(3)地震時等の躯体の挙動に追従しにくいため、石材にひび割れが生じたり、脱落することがある。
(4)2日に1段しか施工できないために、工期が長くかかる。
(5)石厚が乾式工法に比べて薄くできるが.裏込めモルタルを含めた全重量が大きく、構造的に負担が大きい。
一方,外壁湿式工法には衝撃に強い利点もあり,1階の腰壁等、衝撃を受けやすい部位等に採用するのは有効である。
これらのことから、(2)及び(3)に述べた事項に留意して施工すれば、外壁湿式工法も十分に採用可能な工法であり、「標仕」では、RC構造(地震時の層間変位 1/500以下程度)で.小規模の中層建物(高さ10m以下)を対象としてこの工法を規定している。
図10.3.1 外壁湿式工法の例(JASS9(一部修正)より)
10.3.2 材 料
a)石材の厚み
石材の厚さは、石材と下地がモルタルで接着されることから、厚さ25mmで耐衝撃性を満足すると考えられる。ただし、25mmは最小限の厚みである。石材が薄くなるとぬれ色、白華が発生しやすくなるため、石の裏面処理が必要となる。
b)石材の加工
1)引金物用穴あけ
石材の上端の横目地合端には、石材両端より100mm程度の位置に引金物用として2箇所の穴をあける。 引金物を目地部に突出させないため、金物の径に相当する溝を石材合端に彫る。これを道切りという。
2)だぼ用穴あけ
同じく、石材の上端の横目地合端には、石材両端より150mm程度の位置にだぼ用の2箇所の穴をあける。 石材の下端には、石材の割付けに従い、下段の石材のだぼを受ける位置に穴をあける。
3)座彫り
石材の荷重を受けるために用いられる山形鋼製の受金物を目地に納めるために、その厚さと寸法に相当する部分を石材合端に欠き込む。 これを座彫りという。
4)石材裏面の処理
石材のぬれ色や白華を防ぐために、石材裏面に止水性のある変成エポキシ樹脂やアクリル樹脂製の裏面処理材を塗布する。また、衝撃により石材の破損が懸念されるときには. ガラス繊維製のメッシュのような裏打ち処理材を石材裏面に接着して補強する。 これらはいずれも特記される。
10.3.3 施 工
a)取付け代
取付け作業を適切に行うために、石裏とコンクリート躯体との間隔は 40mmを標準としたが、これは躯体の施工誤差 ±15mmを見込んだ大きな寸法である。躯体をはつることのないよう、躯体の面精度を管理することが重要である。
b)下地ごしらえ
1)種類
石材は重量の大きい仕上げ材料であるため、施工後にはく離・はく落等が生じないよう、下地ごしらえを確実な工法により行う必要がある。コンクリート躯体の豆板については硬練りのセメントモルタル等で、ひび割れはエポキシ系樹脂の注入や Uカット後にシーリング材の充填等で事前に補修する。また、セパレーターについては、防錆処理を施す。下地の確認と補修が完了後、下地ごしらえを行うが、その適用は特記され、特記のない場合には流し筋工法とする。
?@流し筋工法
流し筋工法で埋込みアンカーの設置位置は、縦筋が配置しやすいように、鉛直方向の通りをよく配置する。その際、縦筋は石材の割付けによって、引金物の位置から縦筋が100mm程度になるように、450mm程度の間隔で配置する。
また、横筋は石材の割付けに基づき、高さを精度良く出し、水平方向の通りがでるよう配置する(図10.3.2 参照)。
図10.3.2 流し筋工法(JASS9より)
?Aあと施工アンカー工法
あと施工アンカー工法ではアンカー施工に先立ち、石材の割付けに基づき、石材の引金物とアンカーの位置が一致するよう精度良く墨出しを行う。コンクリート躯体内部の鉄筋等のため所定の位置にアンカーを配置できない場合は、部分的に流し筋との併用工法が取られることがある。
?Bあと施工アンカー・横流し筋工法
あと施工アンカー・横流し筋工法でのアンカーは、石材の割付けに基づき、あとで横筋が配置しやすいように、所定の高さを精度良く出し、水平方向の通りが出るように配置する(図10.3.3参照)。特に、あと施工アンカー工法に用いるアンカーには打込み式のものが用いられている。あと施工アンカーは、めねじ形(打込み式)よりも信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。
図10.3.3 あと施工アンカー・横流し筋工法(JASS9より)
2)受金物
石材を湿式工法で高さ方向に連続して張り上げる場合には、上方の石材の荷重を下方の石材に伝えないように、高さ 2m程度ごとに受金物を設けて荷重を受ける。また、水平の伸縮調整目地部には必ず受金物を設ける。
受金物を設ける位置は、引金物やだぼと干渉すると、これらの金物の取付けが適切にできなくなることに留意し、石材の幅寸法によって石材端部より 0〜 250mmの範囲に納める。これらの金物の配置例を図10.3.4に示す。
図10.3.4 引金物と受金物の配置例(JASS9より)
3)防錆処理
溶接箇所はすべて防錆処理を施す。ステンレス製の金物であっても溶接箇所から錆が発生するので注意を要する。また、溶接作業は火花で石材を汚損させるので、石材を張る前に完了させる。もし、溶接作業が事前に完了しない場合には、火花が石材に降り掛かる事のないように、合板や防災シート等で十分養生する。
c)石材の取付け
(1) 最下部の石材
最下部の石材の据付け精度が壁面全体の仕上りに大きく影響する。精度良く石材を取り付けるために、墨出しが重要になる。最下部の石材は、仕上げ墨に合せて水平、かつ、垂直になるよう、くさびを石材の底面及び躯体との間に差し込み、石材の上部にばね金物等を設けて位置の調整を行う。次に、底面の2箇所を取付け用セメントで固定し、石材の上部を引金物で躯体に固定する。
(2) 一般部の石材
上段の石材の取付けは、下段の石材との間にプラスチック製のスペーサーを挟み込み、目地合端に引金物、だぽを取り付ける。だぼは、図10.3.5に示す通しだぼを用いる。腰掛だぼは耐震性が低いので、使用してはならない。
(3) 出隅の石材
出隅部にはかすがいを用いて出隅を構成する石材同士を緊結する。
(4)金物の固定
石材への引金物やだぽの固定に使用する材料は石材施工業者の仕様によるが、一般的にはエポキシ樹脂接着剤を使用する。硬化不良や石材の汚染を引き起こさないように、材料の計量、かくはん、被着物の処理、可使時間、温度管理等には十分留意する
図10.3.5 一般部の石材の据付け例(あと施工アンカー工法の場合)(JASS 9より)
(d) 裏込めモルタルの充填
(1) 前作業
目地から裏込めモルタルが流出して空隙ができると、水みちとなってぬれ色・白華等の汚れや漏水の原因になる。それを防止するために、目地に目地幅+2mm 程度の径の発泡プラスチック材を裏込めモルタルの充填に先立ち挿入する。挿入深さは 8〜10mm程度で、目地モルタル又は弾性シーリング材の底面までとする。
(2) 充填作業
裏込めモルタルを充填する準備として、下地面に適度な水湿しを行う。まず下端から 200〜300mmに裏込めモルタル(最下部の場合は根とろ、それ以外は下とろと呼ぶ。)を充填し、硬化後順次裏込めモルタル(注ぎとろと呼ぶ。)を充填する。注ぎとろは モルタルの圧力で石が押し出されないようにするため、2〜3回に分けて行う。
(3) 充填高さ
裏込めモルタルは図10.3.6に示すように、石材の上端から 30〜40mm下がったところまで充填しておき、上段の石の下とろと同時に充填して上下段の石の一体化を図る。ただし、伸縮調整目地部分では上下段の石の縁を切るためモルタルを上端まで充填する。
最下部については、裏込めモルタルが硬化したのを見計らって、くさびを必ず取り外し、くさび跡にモルタルを充填し、こて押えをしておく。木製のくさびの放置は、石材を著しく汚染する原因となる。
図10.3.6 裏込めモルタルの充填(JASS9より)
(e) 目地
(1) 一般目地
?@)目地幅
外接湿式工法で採用する目地幅は、一般目地では挙動が少ないと判断されることから6mm以上としている。
?A)目地さらい
裏込めモルタルがある程度硬化するのを待って、流出防止用の発泡プラスチック材を取り除く。その際、目地深さが所定の寸法にあるかを確認し、不足の場合は目地をさらってそろえる。
?B)目地材の充填
目地部は、はけ等を用いて清掃を行ってから目地詰めをする。目地材としては、市販の既調合セメントモルタルの目地用材料を使用し、確実に目地詰めする。目地の空隙は雨水の侵入口となり、白華や漏水の原因となる。目地詰め直後に水洗いをするとセメント分が流出し、石材を汚したり化粧目地表面が傷むなどの問題があり、目地詰め前に水洗いする。
?C)シーリング材の充填
外壁面の止水性の向上を意図し、特記により一般目地シーリング材を適用することであるが、幅 6mm程度の狭い目地では確実なシーリング施工が困難である。止水性は、石材仕上げ面で確保できると考えるのは禁物であり、躯体面で確保するのが基本である。シーリング材の充填に当たっては、プライマーやシーリング材で石材表面を汚さないように注意する。
(2) 伸縮調整目地
?@)設置位置
伸縮調整目地は、裏込めモルタルの収縮と石材の熱伸縮による挙動の差異による悪影響等を防止するために設ける。
湿式工法の伸縮調整目地の位置は、鉛直方向が1スパンに1箇所程度、間隔にして 6m程度が一般的である。また、水平方向は躯体コンクリートの水平打継ぎ部に合わせて各階ごとに設ける。
?A)設置工法
伸縮調整目地は、図10.3.7に示すように、裏込めモルタルの部分にも発泡プラスチック材を挿入し、躯体面まで完全に縁を切る。更に、躯体面の打継ぎ目地や伸縮調整目地と位置を合わせるのが基本である。
?B)目地寸法
伸縮縮調目地の寸法は、目地の機能を発揮でくる寸法を確保できるよう、特記を基本とする。
図10.3.7 伸縮調整目地の状況(JASS9より)
10章 石工事 4節 内壁空積工法
4.内壁空積工法(からづみこうほう)
10.4.1 適用範囲
空積工法は 内壁石張り専用として考案されたものであり、「標仕」では 一般的な天井高さを考慮して4m以下を適用範囲としている。4mを超える内壁には原則として乾式工法等を採用するようにする。
内壁の石張り工法には 従来湿式工法や帯とろ工法が採用されてきた。 前者は、外壁工法で述べたように 裏込めモルタルに起因する石材のぬれ色や白華現象, そして施工に長時間を要することなどの理由から、内装の石張りには使用されなくなった。後者は帯とろの施工が現実には適切に行えないこと、また、一部には腰掛だぼの使用に起因するはく離事故が生じたことなどの欠陥が露呈した。これらのことを背景にして、図10.4.1に示す空積工法が登場し、内壁石張りの主流になった。
図10.4.1 内壁空積候補う壁縦断面図(JASS9より)
10.4.2 材 料
( a )石材の厚み
内装用の石材の厚みは、経済的理由によりますます薄くなる傾向にある。石厚が簿いと小さい衝撃でも破損し、はく落の危険性があるため「標仕」では20mmを最小有効厚さと規定し、薄い石材の使用への歯止めをかけている。
( b )石材の加工
石材の加工は 外壁湿式工法に準じる。内壁の石張りで石材の裏面処理が必要となる例は、風除室や浴室のように床面からら水分が取付け用モルタルを介して幅木石や根石に浸入し、 石材を破損する場合等である。
10.4.3 施 工
( a )取付け代
石材裏面から躯体面までの取付け代は、外壁湿式工法と同様に40mmとする。
よって、最低石厚さ 20mm以上を考慮すると設計上の仕上げ厚さは 60mm以上となる。
( b )下地ごしらえ
(1)工法
下地ごしらえは、外壁湿式工法に準ずる。あと施エアンカーエ法の例を図10.4.2に示す。
(2) 受金物の設置
受金物の設置は、外壁湿式工法に準ずる。しかし、石材の積上げ高さが3m以下、すなわち、一般的には天井高さが 3mに満たない室内の内壁では、下部の石材に伝達させる上部の荷重が小さいことから受金物を使用しなくてもよいこととしている。
(3)防錆処理
防錯処理については、外壁湿式工法に準ずる。
図10.4.2 あと施工アンカー工法の例(JASS9より)
( c )石材の取付け
(1)最下部の石材
最下部の石材の取付けは外壁湿式工法に準ずる。
(2)一般部の石材
一般部の石材は、下段の石材の横目地合端にだぼをセットし、目違いのないように据え付け、上端を引金物で緊結していく。内壁石張り特有のねむり目地の場合には糸面をとり、ビニルテープを下段石の上端に2箇所、両端より125mm程度の位置に張り付け、石材どうしの直接的な接触を避ける。これは、小口付近の石材表面の はま欠けを防止するための策である。
はま欠け:
エッジに強い力が加わることでエッジを基点に貝殻状に表面が欠けた状態。
深さが浅ければ強度的にさほど問題にはならない。
標準的な取付け工法の詳細を図10.4.3に示す。
図10.4.3 標準的な取付けの詳細(断面図)(JASS9より)
(3)金物の固定
( i )引金物
空積工法の場合は、下地と石材とは引金物により緊結し、その回りを取付け用モルタルによって固めるが、この取付け用モルタルは、引金物の固定及び圧縮材として重要であり、石張り後に破損、脱落してはならない。したがって、単に引金物回りの被覆とするのではなく、躯体と石材との間に所定の寸法となるよう団子状に充槙する必要がある。このため、取付け用モルタルの充填に先立ち、引金物取合い部にポリエチレンフォームのような適切なバックアップ材を挿入し、これを型枠代わりとして充填する。
(?A)かすがい
かすがいは、出隅部の隣り合う石材の相互の位置を固定するために使用する。
(?B)だぼ穴充填材
だぽ穴の充填材としては、一般にセメントペト又は樹脂を使用するが、ねむり目地の場合には、だぽ穴に樹脂を使用すると樹脂のはみ出しにより石材相互が接着され、石材の動きを拘束することになるため避ける。
(4)補強
空積工法の場合は、石材の裏面が空洞となっているため、衝撃等による割れのおそれがある。 このため、衝撃の可能性の高い床上 1.8m間の石材で、特に石材1枚当たりの寸法が大きい場合は、図10.4.4に示す引金物と取付けモルタルによる補強を行うこともある。この補強を あてとろという。
図10.4.4 あてとろの配置例
( d )裏込めモルタルの充填範囲
幅木に相当する壁面部分は、荷物台車、清掃用具及び靴先等による衝撃を受ける可能性がある。 これらの予期しない衝撃による石材の破損を防ぐために、幅木の裏面には裏込めモルタルを充填する。 幅木のない場合の最下部の石材裏面には、高さ 100mm程度まで裏込めモルタルを充填する。 その際、ぬれ色や白華の発生防止に留意する。
( e )目地
(1)一般目地
従来は、内装石張りの場合、意匠性を重視してねむり目地が採用されることが多かった。 しかし、兵庫県南部地震の被害状況調査によれば、構造体の変形により石材同士が目地部分で競い合うことによる被害が見られた。 これを避けるためには、内壁にあっても必要な目地幅を確保することが望ましい。
(2)伸縮調整目地
最下部の石材(根石)と床仕上げ材とは縁を切るため、伸縮調整目地を設ける。また、壁の出隅、入隅及び平面的に長い大壁は、通常の柱スパンごと( 6m程度 )に伸縮調整目地を設ける。 特に大理石仕上げで、ねむり目地とした場合は必須である。 窓枠等他の材料と取り合う部分にも伸縮調整目地を設ける。 地震による水平力を考慮した場合, 天井との取合い部の納まりとしては、壁面の石材を天井にのみ込ませるのではなく、図10.4.5に示すように天井をのみ込ませる方が天井材の衝突による石材の破壊を回避できる。
図10.4.5 天井との取合い部(JASS9より)
10章 石工事 5節 乾式工法
5.乾式工法
10.5.1 適用範囲
乾式工法は石材を1枚ごとにファスナーで保持する工法で、躯体と石材間での自重、地震力、風圧力等伝達はファスナーを介してなされる。
本節の適用範囲を外れる場合はもちろん、適用範囲内であっても地震力、風圧力等の外力の適切な設定と、石材物性の把握、許容耐力の設定が重要なポイントとなる。
石材の曲げ強度や仕口部耐力の設定は事前の試験により、統計的な処理に基づいて定めるのが一般的である。
(1)利点及び注意点
( ?@ )利点
?@ 躯体の変形の影響を受けにくい。
?A 白華現象、凍結による被害を受けにくい。
?B 工程、工期短縮が図れる。
( ?A )注意点
?@風圧、衝撃で損傷した場合、脱落に直結する。
?A物性値(曲げ、仕口部耐力、ばらつき)の把握が重要である。
(2)適用高さ
建物高さを31m以下としているのは、建築基準法において、構造耐力上の検討条件が異なる場合があること、また、過去の実例でも高さ31mを超える建物での使用実績があまりないことにもよっている。
(3)適用石材
石厚 70mm以下としたのも実績による。1枚の施工可能な質量(40〜60kg程度)からみて、厚い石材では施工性が悪くなる。
(4)適用下地
近年ではコンクリート壁以外の鉄骨下地等に石材を取り付ける場合もある。乾式工法は他の石張り工法に比べ対応しやすい工法ではあるが、下地の挙動等、個別の条件に対応したファスナー金物、目地形状等の検討が必要である。ここでは、地震時等の変形量が小さいRC造、SRC造のコンクリート壁を下地とする場合を想定している。
(5)品質確保の留意点
( ?@ )石材の試験
石材は天然材料であり、同じ種類の石材であっても採石場所により性質にばらつきが生じる。このため設計図書に石材名が明記されていたとしても、各種の試験を実施し、乾式工法を採用する際に構造計算上から必須となる曲げ強さ及びだぼ部耐力等を把握しなければならない。通常、設計段階で試験が実施されることはなく、慣行的に工事着工後の初期段階で実施されている。石工事では、ALCパネルや押出成形セメント板のような製品データの定まった工業材料とは設計の考えが根本的に異なり、施工の段階で設計の品質をつくり込むことが行われる。
したがって、試験結果によっては目算と異なり、設計図書に記載の石材の寸法や厚さでは耐力上不適切で、寸法や厚さの設計変更が必要になる場合がある。この場合には、設計担当者と打ち合わせ、「標仕」1.1.8によって設計変更を行うなどの対応が必要である。
( ?A )耐風圧性
乾式工法は、石材を通常4箇所のファスナーで保持しており、実際には4本のだぼでファスナーに取り付けている。外壁に作用する風圧力は.負圧が高まることから建物の隅角部で最大値を示すのが通常である。この最大風圧力(引張力)に対して、乾式工法で取り付けられた石材が曲げ破壊やだぼ部の破壊を生じることのないように設計する必要がある。
通常、4箇所のファスナーが等分に風圧力を負担することは困難であり、1箇所が遊ぶと考え、対角方向の2箇所で支持するものとして計算を行う。また、石材の性質のばらつきを考慮したうえで、更に安全率を見込んでいる。
(?B)耐震性
地震の作用としてどの程度の力をみるかについては論議がある。現状では、(社)日本建築学会「非構造部材の耐設設計施工指針・同解説および耐震設計施工要領」にのっとるのが一般的である。同書によれば、水平力は1.0G、鉛直力は0.5Gが最大値となる。水平力に対して石材は十分な耐力を有すると考えられるが、鉛直力に対しては石材下辺の2箇所のファスナーで支えられることとなり、鉛直力に石材自重を加えた力が作用した場合にも有害な残留変形が生じないようにファスナーを設計することとなる。
最大強制変形角については個々の建築物によって異なるために特記によらなければならない。
(?C)水密性
外壁の水密性は、外壁に作用する最大風圧力の1/2の風圧力時にも屋内側へ漏水を起こさないようにするのが一般的である。外壁の乾式工法では石材間の目地・石材とサッシのような他材料との目地等、数多くの目地があり、いずれも防水性のある目地としなければならない。一般的には目地にシーリング材が充填されるが、シーリング材の寿命に依存することとなる。この外壁表面を一次止水面と考え 更に躯休表面を二次止水面に設定し.防水性を高めることが多い。
したがって、外壁の乾式石張工事に先立ち、躯体コンクリートの打継ぎ部やその他の防水上の弱点部を防水処理する。
10.5.2 材 料
( a )石材の厚み
「標仕」では、特記のない場合の石材の最小厚さを有効厚さで規定している。ジェットバーナー仕上げ(表10.2.5参照)等の粗面仕上げでは出来上りの厚さで 2mm以上厚くなるように設定しておく。
厚さは張り石の曲げ耐力や仕口部耐力に大きく影響する。 前記物性試験においても予定厚さのものに加え、5〜10mm厚い石材での試験も実施しておいた方がよい。
物性試験の結果によっては設計外力に対し、十分な強度が得られず、割付けの変更(張り石の見付け寸法の変更) が必要となる場合がある。 また仕口部耐力は石厚さを数mm増した程度では耐力が増加しないという試験結果もあるので慎重な検討が必要である。
なお 形状は矩形を原則とし、切欠き、穴あけ等を避ける。
( b )石材の加工
(1)穴あけ
だぼ用の穴あけは石材両端より辺長の1/ 4程度の位置に設置するのが、一般的である。 両端はね出しの梁と考えたときにも曲げ応力が有利になる。
穴あけ加工はドリルを用い、水冷しながらの工場加工とし、板厚の中央に正確にせん孔する。 振動ドリル等不要な衝撃を与える加工機器は用いない。
(2)石材裏面の処理
乾式工法の裏面処理については 内壁空積工法と同様に考える。
各種の織布・不織布と樹脂による裏打ち処理は万一の破損時に小片が脱落するのを防止すると同時に耐衝撃性の向上に効果がある。
( c )ファスナー
現場打込みのコンクリート壁の精度、あと施工アンカーの精度を考慮すると、上下左右、出入り方向とも10mm程度以上の調整機構が必要となる。一次ファスナーのみの形式では調整が非常に困難になるうえ、隣接石材との調整も繁雑となることから、「標仕」では二次ファスナー用いる形式を前提としている(図10.5.1及び2参照)
図10.5.1 スライド方式のファスナーの例(JASS9より)
図10.5.2 ロッキング方式のファスナーの例(JASS9より)
10.5.3 施 工
( a )工法の決定
乾式工法を外壁に適用する際には、建築基準法施行令第82条の4、平成12年建設省告示1458号に従って算出した風圧力に対して、張り石各部に発生する応力が部材の許容応力度を超えないよう、工法が特記される。
( b )取付け代
躯体の精度±10mmとファスナー寸法60mmから、石材裏面から躯体表面までの取付け代は70mmを標準とされた。過大に設定するとファスナーが大きくなり、経済性が損なわれる。
( c )下地ごしらえ
ファスナー金物用あと施工アンカーの施工に先立ち、躯体のセパレータ一部の止水処理、打継ぎ目地や誘発目地へのシーリング施工、場合により塗膜防水の施工を行う。コンクリートの欠陥部には適切な処置を施しておく。あと施工アンカーはそのアンカー耐力を確認する。
あと施工アンカーの穿孔が躯体鉄筋に当たることが多い。図面上の鉄筋位置と実際の位置との照合が必要であるが、鉄筋探知機等を利用するか、試験的な穿孔をする。鉄筋に当たった場合、穿孔位置を変更せざるを得ない。鉛直筋の場合には水平方向に逃げ、水平筋の場合には鉛直方向ヘ一次ファスナーの上下を反転して使用できる範囲内に逃げる。それでも納まらない場合には.ルーズホールを長くした一次ファスナーの役物の使用を検討する。
隣り合うあと施工アンカーの間隔及び躯体隅角部端部からの離れ距離は100mm以上確保する。
10.3.3 (b)(1)?Bで解説した打込み式のあと施工アンカー(めねじ形)は、許容引張耐力が小さいため.乾式工法では使用しない。
( d )幅木の取付け
壁最下部の幅木石は台車等の衝突による破損が多い。衝撃対策として10.4.3(b) (4)に示したようにモルタルを充填する。
排水処理を考慮し、石材には裏面処理等のぬれ色・白華対策が必要となる(図10.5.3参照)。
図10.5.3 幅木部分の例
( e )ファスナー及び石材の取付け
(1)一次ファスナーの取付け
一次ファスナーの出入りはライナープレートを用い、上下左右はルーズホールで調整して取付け位置を定め、一次ファスナーをあと施工アンカーに固定する。 石張りの水平精度は一次ファスナーの取付け精度で決まるため.特に上下方向は載荷によるファスナーのたわみを考慮して正確に取り付ける。現場浴接は行わない。ダブルナット又は緩止め特殊ナットを使用する。
(2)二次ファスナーと石材の取付け
一次及び二次ファスナーの緊結は、(1)と同様にボルトによる摩擦接合とし.現場浴接を行わない。
石材を二次ファスナーに連結するためのだぼを石材に固定する方法には、ファスナーの形式により二とおりがある。上の石の下部と下の石の上部を支える二次ファスナーが別個になっている場合(例えば「標仕」表10.2.4のスライド方式) には、あらかじめ上部のだぼを石材に固定しておくことができる。しかしながら、通しだぼのような場合(例えば「標仕」表10.2.4のロッキング方式)には、だぼはあと付けにならざるを得ない。
次に.スライド形式のファスナーを用いた場合の石材の代表的な取付け手順を示す。まず石材の上部のだぼを事前にだぼ穴充填材を用いて確実に取り付ける。出人り及び左右の精度を調整して二次ファスナーを一次ファスナーに取り付ける。 石材下部のだぼ穴にだぼ穴充填材を充填し、直ちに二次ファスナーに取り付いているだぼに石材を乗せ、二次ファスナーに荷重をあずける。次に.石材の上部のだぼを通して上部用の二次ファスナーを一次ファスナーに取り付ける。出入墨・割付け墨に合わせて張ったピアノ線等を指標として.石材の取付け精度を確認する。確認後、上部の二次ファスナーの固定を緩まないように確実に締め付ける。
この繰返しにより、一次ファスナーで調整しきれなかった分を調整し.壁面の下部より上部に向かって石材を積み上げていく。
最下段のファスナーの場合は、張り石を仮置きし調整する。載荷によるファスナー金物のたわみやなじみにより、ファスナーと下部石材との間のクリアランスが確保できない場合は、一次ファスナで再調整する。下部石材と上部石材の間にスペーサー(アクリル製等)を用いた調整を行うと、ファスナーに荷重がかからず、上部石材の荷重が下部石材に伝達されてしまうので、このような用い方はしない。
(3)だぼの固定
だぼ穴充填材がはみ出すと変位吸収のためのルーズホールをふさいでしまう。充填量に留意すると同時に不要な充填材は硬化前に除去する。石材上端ファスナーとだぼでスライド機構を設ける場合は、だぼの出寸法の管理が重要である。抜け防止のため、つば付きだぼピンを用いることも多い。
( f )目 地
(1)目地幅の設定
乾式工法では.目地内にファスナの金物が配置されることになり、施工精度を向上させなければ十分に通りよく、クリアランスを確保した施工は難しい。そのため、上下の石材間にスペーサーを挿入して目地幅を調整することがあるが、スぺーサーを撤去しないと上部石材の荷重がファスナーではなく下部石材に伝逹されてしまう。このようなスペーサーの用い方をしてはならない。また縦長の張り石では地震に石材の回転が生じ上部ファスナーとの接触も生じかねない。目地幅は広めに設定することが望ましい。
(2)シーリング材の充填
乾式工法の目地には、壁面の防水のためにシーリング材を充填する。目地幅・深さともに8mmを最低値と考える。
シーリング材は2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。シリコーン系や1成分形ポリサルファイド系シーリング材では、シーリング材の成分による石材の汚れが発生する。他部位との取合いで2成分形変成シリコーン系シーリング材も使用される。
10章 石工事 6節 床及び階段の石張り
6.床及び階段の石張り
10.6.1 適用範囲
建物内部及び建物周辺の外部床又は階段に、石材を仕上材としてセメントモルタル並びに張付け用ペーストで施工する工事に適用する。下地コンクリートとして土間スラブ、構造スラブ、防水層保護コンクリート等がある。
人が直接接触する部位であること、様々な外力が作用すること、外部にも使用されることから次のようなことに留意する。
(1)吸水率が少ないこと。
(2)耐酸性があること。
(3)耐摩耗性があること。
(4)汚れにくいこと。
(5)ぬれた状態でも滑りにくい表面加工とすること。
(6)部分的な凹凸がなく、平たんであること。
10.6.2 床の石張り
(a)材料
(1)石材の厚みと加工
床用の石材は歩行等の外力が常に作用するので、外壁よりは厚めのものが用いられる。有効厚さ30mm以上が一般的で車両通行部位では40〜50mm以上が用いられる。
薄い場合には割れ等の欠陥が出やすい。
滑りに配慮し、本磨きや水磨きは避ける。 また、使用状況から、水掛りとなる部位や、水が持ち込まれやすい部位では粗面仕上げとする。
(2)石材裏面の処理
裏面処理はぬれ色・白華防止を目的としてなされるが、
裏面処理材にはモルタルとの付着性が悪いものもあるので、目的に合った材料を使用して、小口部分も忘れずに処理を行う。また、ぬれ色は下地の適切な排水によっても防ぐことができるので、裏面処理材のみに頼るのではなく、排水計画の十分な検討が必要である。
また、エントランス、風除室等は外部からの雨水が持ち込まれやすく、また、外構から連続して防水がなされていることが多く、屋外側の水が、敷モルタル層を通じて屋内側に浸入し、ぬれ色や白華が発生している例がある。室内側にも防水を施す場合には防水立上りで内外を遮断し、排水経路を確保するなど、対応が望まれる。
また、外部から持ち込まれる雨水に対しては入口に排水溝を設けグレー チングを設置するなどの対策も有効である。 天候に応じてマットを設置したり、こまめなふき取りで対処するなど、維持管理面での対応も有効であり、維持管理 ・ 保全に関する情報として使用者に伝えておく必要がある。
(b)取付け代
下地コンクリー トの凹凸・不陸及び石厚の誤差を吸収するために、石厚に応じた取付け代が必要となる。 特に石厚 50mmを超える割石の場合には、石厚のばらつきが避けられないため、取付け代は 60mm程度とされている。
(c)下地ごしらえ
下地コンクリートにワイヤブラシをかけ水洗いするなど、十分な清掃を行ったのち、水湿しを行い、コンクリートとの付着阻害やドライアウトを防止する。 敷モルタルは所定の厚さで均等に定規で均しながらむらなく敷く。
敷モルタルはセメント1に対し、砂4程度に少量の水を加え、手で握って形が崩れない程度の硬純りモルタルとする。
敷モルタルの厚さの不均ーが仕上げ面にも影響し、割れ、はがれ等の原因となるので、下地コンクリートの大きな不陸は、あらかじめモルタルで調節しておく。
(d)石材の据付け
(1)仮据え
柱脚部や周辺壁に記されたろく(陸)墨より張った水糸に合わせて石材を仮据えし、十分なたたき締めを行う。 あと工程の本据えで隙間が生ずると、割れ、はがれの原因となるので、特に入念に行う。
(2)張付け用ペーストの散布
普通ポルトランドセメントに水を加えた張付け用ペーストを敷モルタルの上に、石材の裏面全面に行きわたるように十分に散布する。
張付け用ペーストは、石材と敷モルタルを付着させるだけでなく、荷重を分散させる目的もある。
また、張付け用ペーストの量が少ないと、石裏に空隙ができ、水に接する外構や出入口回りではぬれ色が抜けにくいことがあるので十分な量を散布する。
(3)本据え
張付け用ペースト散布後、再度石材を置き、木づちやゴムハンマー等で十分たたき締め、不陸や目違いがないように本据えを行う。
(e)目 地
目地は意匠や調整代の目的だけでなく、目地を設けることにより、石材を面として一体化させたり(目地モルタルによる一般目地)、取合い部等での挙動吸収を目的としてシーリング材を施す目地もある。目地部分から雨水や清掃水が流れ込み、ぬれ色・白華の発生等様々な障害を起こしやすい。
床石では、施工時の角欠けや、砂利等が挟まった時の角欠けも多いので、十分な幅の目地を取ることとしている。
(?@)一般目地
?@ 目地幅
目地幅は目地モルタルやシーリング材が確実に施工できるだけの幅を取る。外部は日射等による挙動の影響があるので、内部より広くする必要がある。
?A目地材の充填
石材の上に乗って作業しても差し支えない程度に敷モルタルが硬化したのちに目地材の充填を行う。
目地モルタルはゴム付きへら(ワイパーモップ)を用いて全体に行きわたるよう目地モルタルを詰め込む。
目地からはみ出した余分なモルタルは、乾いた布で速やかにふき取り、仕上げる。
?B シーリング材の充填
シーリング材は2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。まれに室内床で1成分形シリコーン系シーリング材が使用されるが、シリコーンシーリング材特有の汚染が発生したり、再施工時に新規シーリング材との接着性が阻害されるので好ましくない。
(i)伸縮調整目地
?@ 設置位箇
石材そのものあるいは躯体側コンクリート・下地コンクリートの膨張や収縮によって、部材の割れ、せり上り、目地割れ等の障害が予想される場合には、伸縮調整目地を設ける。
床面積が広い場合や、細長い通路で一方向の変動が大きい場合は床面積 30m 2 程度ごと、細長い通路の場合 6 m 程度ごとに伸縮目地を設ける。
隅の立上り部分にも部材の挙動が集中する場合があるので 伸縮調整目地の設置を考慮する。
?A 設置工法
伸縮調整目地は図10.6.1に示すように発泡プラスチック材等の弾性目地材で敷モルタルを仕切り、目地とする。
防水層保護コンクリートを下地とする場合も、防水層保護コンクリートの伸縮目地と同じ位置に伸縮目地を設け
る。 位置がずれていると、下地の挙動で石材等にひび割れが発生する場合が多い。
伸縮調整目地にはシーリング材を充填し、仕上げる。
2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。
壁際等雨水のたまりやすい部位ではシーリング材も故障を起こしやすく、雨水の浸入が白華を招くことも多い。
図10.6.1 伸縮調整目地の例
10.6.3 階段の石張り
階段の踏石は床の石張りに準じ、け上げ石は外壁湿式石張りに準じて施工する(図10.6.2 参照)。
屋外階段では、躯体や下地で十分な水勾配及び排水経路を確保し、水が滞留しないことを確認する。水勾配が不十分な場合や滞留水がある場合には、モルタルで下地を補修しておく。踏面に使用する石材は防滑性を高めた粗面仕上げとする。また、床面の張り石との納まりや、排水溝との関係に留意する。 階段石がむく石の場合はアングル材等で下地コンクリートと敷モルタルのずれ防止を講ずる場合もある。
イ.板石を用いた例
ロ.むく石を用いた例
図10.6.2 階段石の例
10章 石工事 7節 特殊部位の石張り
7.特殊部位の石張り
10.7.1 適用範囲
アーチ、上げ裏笠木、甲板等に石材を用いる場合はその条件の特殊性を十分考慮して、計画施工する必要がある。 施工面においても標準工法のほか、特殊な材料や工法等の併用が必要となる。
組積造に見られるアーチでは、石材には圧縮力しか作用しないようになっているが、現在、わが国で施工されるアーチ、上げ裏の石材は板材を吊る形式のため、石材に自重が長期荷重として作用するので、長期の曲げ及び引張り耐力が必要である。 石材の耐力も含め、いかに安全策を講ずるかが重要である。
屋外の笠木等では真夏には石材表面が 60℃以上にもなる。 石材の熱伸縮を吸収するため、伸縮調整目地を適当な間隔に設ける。花こう岩の場合、線膨張率は 6〜9 x 10 -6 /℃程度である。外壁等の部位が乾式工法であっても笠木、窓台等平場部分は湿式工法とすることが多い。白華の発生防止のため、笠木類を乾式工法で取り付ける時は金物が勾配なりに取り付けられるので、金物形状に注意する。
10.7.2 アーチ、上げ裏等の石張り
(a) 材料
(1)石材の厚み
石材の厚さは長期の耐力を見込み、十分な寸法を確保する。 溝加工や切欠きは避ける。
乾式工法同様石材の耐力が重要であるので、密度や吸水率等の一般物性のほか、曲げ、仕口部強炭を十分に把握しておく。
(2)石材の加工
(?@)見上げ面
見上げ面は原則として、目地合端にだぼ・引金物用の穴を設ける。石材の幅又は長さが、350mmを超える場合は、吊りボルト用の穴を石材 1 枚当たり2 箇所設ける。
(ii) 下がり壁 ・カ石
下がり墜部分等は原則 として、縦目地合端にだぽ ・引金物用の穴を設け、引金物で保持する。
受金物用の力石は、斜めだぼ 2 本と接着剤併用で石材裏面に1枚当たり2箇所設ける。
なお、力石に代えて、アングル材をストー ンアンカーで固定する方式も用いられる。
(3)石材裏面の処理
アーチ、上げ裏の石材が万が一にも破損すると、すぐさま落下の危険が生じるため、ガラス繊維メッシュ等による裏打ち処理は有効である。
また、躯体コンクリートを伝わる雨水によるぬれ色や白華を防ぐために石裏面処理が有効である。
いずれの適用も特記されなければならない。
(b)取付け代
(1)湿式工法・空積工法
湿式工法及び空積工法の場合の取付け代(下地と石裏面の間隔)は,40mmを標準とする。
(2)乾式工法
乾式工法及び吊りボルトを用いる場合の取付け代は,70mmを標準とされている。
(c)下地ごしらえ
(1)見上げ面
湿式工法の場合は、流し筋工法を採用するが、上向きの溶接作業となるので防錆処理も含めて施工管理が重要となる。
乾式工法の場合は、壁面の場合とは異なり、先付けアンカーの適用を原則としている。
やむを得ずあと施工アンカーを採用する場合には、上向きに削孔して取り付けなければならいため、品質のばらつきや常時の下向き荷重に対して十分な安全率を見込んで計画する。 吊りボルトの取付けも同様に考える。
(2)下がり壁部分
荷重受金物を石材 1 枚当たり 2 箇所設骰する。
役物で L型にする場合は工場で一体化してくる。 当て石を接着し、合端にはかすがいを取り付ける。
(d)石材の取付け
(1)見上げ面
見上げ部分の石材の固定は、湿式工法では堅固な仮支持枠等で仮支えし、あいだぼ入れとし、引金物、受金物、吊金物を用いて,堅固に取り付ける。
吊りボルトは化粧ボルトを用いるが、意匠上吊りボルトを見せたくない場合は、厚めの石材とし、象眼する方法もある(図10.7.1 参照)。
乾式工法では石材自重による長期荷重が曲げや引張りとして作用するので、十分な安全率を見込む必要がある。
石材寸法を必要以上に大きくしないとか、金物個数を増やすなどである。
金物、治具の工夫により、仮支持枠類を省略できる。
図 10.7.1 上げ裏の施工
( 2) 下がり壁部分
湿式工法では荷重受けとなる力石又は金物を下地に取り付けた受金物に乗せ掛け、引金物、あいだぼにより下地に緊結する。
乾式工法では石材側面のだぼを介しファスナーで面外と鉛直方向の支持を兼用する例もあるが、施工性を考慮して自重受けとなる力石や金物を用いる場合が多い。
湿式工法、乾式工法とも上げ裏部の石材を工場で一体化したL型部材を用いる場合、上げ裏部の石材合端にもだぼを設け、引金物、ファスナーを設置する。
壁目地にシーリング材が施工されても裏面への雨水の浸入は長期的には防ぎようがなく、その雨水が下がり壁下部より滴下したり、上げ裏石内部に水がたまる故障例があるので、雨水排出機構を確保する必要がある(図 10.7. 2 参照)。
図10.7.2 上げ裏部 フラッシングの例
(e)裏込めモルタルの充填
湿式工法を採用した場合には裏込めモルタルを充填するが、その方法は外壁湿式工法に準じる。
( f )目 地
特殊部位では形状納まりが複雑となり、また、施工性も決して良くはない。加工や施工の誤差を吸収するためにも十分な目地幅を確保する。 したがって、他部位との取合い部は誤差の吸収に加え、石張り面の挙動を考慮した十分な幅の伸縮調整目地とする。
10.7.3 笠木、甲板等の石張り
(a) 材料
(1)石材の厚み
笠木、甲板の石材は使用状況に応じた厚さとし、特に屋外に使用する場合は十分な厚さのものを使用する。
笠木では石厚 4Omm以上を採用することが 望 ましい。
(2)石材の加工
(i)湿式工法
湿式工法では、石材の幅が、300mmを超える場合は、目地合端の片側、両端部より50mrn程度の位置に引金物用の穴あけ、目地合端両側、両端部より85mm程度の位置にだぼ用穴あけを行う。 石材の幅が、300mm以下の場合は、目地合端の片側、中央1箇所に引金物用の穴あけ、目地合端両側の両端部2箇所にだぼ用穴あけを行う。
幅の小さい石材ではだぽに引金物を取り付け、引金物用の穴あけをなくし、加工に伴う欠陥を少なくする工夫もある。
(ii) 乾式工法
乾式工法では目地合端両側に,2箇所だぼ用穴あけを行う(図 10.7.3 参照)。
図10.7.3 乾式工法による笠木の取付け例(JASS 9(一部修正)より)
(3)石材裏面の処理
モルタルが比較的多く使用される部位であること、また、笠木は雨水を直接受けるので、白華防止のための石裏面処理は積極的に行うべきである。
外整にゴンドラを降ろすときの養生不備による損傷や、無理な加力もあり、笠木には不具合が発生しやすいが、
人目に付かず軽微なうちの故障が発見されにくいので、破損時に備えた裏打ち処理も検討する。
(b)取付け代
「標仕」では、湿式工法の場合は 40mmを標準とし、乾式工法の場合は特記によるとしている。笠木下地となるパラペット天端は躯体に屋上側への水勾配を設け、雨水の滞留、流出による白華の発生等の不具合防止を固る。
(c)下地ごしらえ
(1)湿式工法
石材の幅が、300mmを超える場合は、径 9mmのアンカーを下地天端で2 列に、間隔 400mm程度に設けておき、これに引金物緊結用鉄筋を添え溶接する。
石材の幅が 300mm以下の場合は、下地天端中央に引金物を設けて石材を取り付ける。
(2) 乾式工法
所定の位置にアンカーを設け、笠木、窓台の天端で水勾配を設ける。
(d)石材の取付け
(1)湿式工法
笠木の長さは、900mm程度とし、下地清掃と十分な水湿しののち、目地合端の片側にだぼを取り付けておき、
他端は、引金物を下地鉄筋に留め付け、通りよく目違い等のないように, 裏込めモルタルを隙間なく充填して固定する。
(2)乾式工法
(?@)石材の輻が 300mm以下の場合は、両端部及び目地合端中央に1箇所ずつファスナーを設ける。
(?A)石材の幅が 300mmを超える場合は、両端部及び目地合端に2箇所ずつファスナーを設ける。
いずれもファスナーは外れ止めで、鉛直荷重の支持は裏込めモルタルによる。全充填を基本とするが団子状に設置する場合もある。
(e)目 地
外部の目地は 8〜10mmを標準とし、シーリング材を充填する。これは、止水及び変位吸収を目的としたもので、2成分形ポリサルファイド系シーリング材の使用が多い。 内部目地ではモルタル目地としてもよい。ただし、他部材との取合い部や、変位の予想される部分では伸縮調整目地とし、シーリング材を充填する。
(f ) 面台、棚板の据付け
笠木と同じく水平部材である屋内の面台や棚板の取付けは、床の石張りと同様に行う 。
10.7.4 隔て板
(a)材料
(1)石材の厚み
隔て板は一般的に自立壁となるので.薄い石材では思わぬ衝撃が加わった際に破損につながるため、厚さが特記される。 特記のない場合には40mmを標準とされている。
便所、浴室等に用いられるり隔て板の石質はテラゾが一般的であったが、近年は意匠上花こう岩や大理石の使用例が多い。
ただし、水回りでの大理石の使用には光沢の低下等の不具合が生じやすいので、その特質を踏まえて使用すべきである。
特に床にのみ込ませた石材の下部は、清掃時に汚れた水を吸い上げ、内部に染み込んだ汚れとなるので注意する。
(2) 石材の加工
石材の加工は、目地の合端にだぼ用の穴あけ、上端の端部にはかすがい用の穴あけを行う。
(b)工 法
隔て板と前板の固定方法は、一般的には石板上端を径 6mmのステンレス製かすがいを用い、併せて、縦方向に 2〜3 箇所程度径5mmのだぼを用いて固定する。
自立する隔て板は、床仕上げ内に 20mm以上のみ込ませ、モルタルにより固定する。適宜補強金物を用いる。
隔て板と前板の固定は縦方向に 2 箇所以上のだぼを用いて固定する(図 10.7.4参照)。
図 10.7.4 隔て板の例
10.8.1 石先付けプレキャストコンクリート工法
「標仕」に示された湿式工法、空積工法、乾式工法以外に、よく用いられるエ法として「石先付けプレキャストコンクリートエ法」がある。 石先付けプレキャストコンクリート工法は、石材をあらかじめ工場でプレキャストコンクリートに先付けすることによって仕上げとし、カーテンウォールのような部材として取り扱う工法である。
したがって、仕上げ工程の高所での危険な作業が減り、資材運搬の効率化や労働カ・輸送の削減、工期短縮、地震力や風荷重に対する安全性向上等の長所があり、湿式工法や乾式工法では対応できない高層の建物や柔構造の建物等に多く採用されている。また、特殊な部位や特別な性能(電波吸収等)をもたせる外壁で張り石仕上げとする場合は、ほとんどがこの工法である。
石先付けプレキャストコンクリート工法では,石材裏面の処理が十分に行えるので、ぬれ色や白華の発生を防ぐことができる。また、プレキャ ストコンクリートに先付けされている石材は、建物の動きによる変形が直接影響しないため、割れ等を生じることがほとんどない。
詳しくは 17章 3節 日本建築学会 「JASS 9 張り石工事」、同「JASS14 カーテンウォール工事」等を参照
2020年07月30日
石工事 材料 建築用石材の分類
2.材 料
10.2.1 石 材
JIS A5003:1995
表 建築用石材の分類
花こう岩
花こう岩は石材の中でもっとも建築石材として適している。その主成分は雲母、長石、石英の3種である。その中の長石の大きさ、色、配列によって荒目、中目、小目、細目、また色も白、桜(ピンク)、赤等に区分される。石質は硬く優美であり、光沢も優れている。耐久性、耐摩耗性、風化に強いが、耐火性に弱く、時にサビが出ることがある。また、硬いため加工性がよくないのが欠点である。
閃緑(せんりょく)岩
閃緑岩は一般に「黒御影」と言われる火成岩で、主成分は中性斜長石、角閃石である。組織は細粒で石質は硬い。したがって加工性が悪く、特につや出しが難しい。また傷が多く目利き出ないと良材や大材を切り出すのが難しい。耐久性や耐摩耗性などに優れている。
班れい岩
黒色結晶質の石で、主成分は中性斜長石、異剥石で磨くと美しい黒色の絹光沢を発する。石質は硬く石目が目立たない。その他については閃緑岩と同じである。
石英班岩
石質はおおよそ花崗岩と同じであるが、成因が違うため花崗岩より硬いが美しさでは劣る。
石英粗面岩
成分は花崗岩、石英斑岩と同じであるが、第三紀以降の噴出でできたという時代の相違があり、流状石理を呈するか、板状に剥離のあるのが普通である。色は灰色、濃灰色であるが、青、緑、褐、赤、黄を帯びているものもある。軽石状の石材も石英粗面岩に属する。
安山岩
一般に輝石安山岩、角閃安山岩のことをいう。一般的に耐久性、耐火性は花崗岩より優れているが他は劣る。採掘が比較的容易で、建築、土木用石材としては花崗岩と双璧をなす。
玄武岩
だいたい黒褐色で、硬く緻密な基性岩である。磁鉄鉱等を成分としていて多孔質で柱状節理のものが多く、自然の形のまま使用する場合が多い。
結晶片岩
変成岩の総称。はっきりと層状に剥離する。石英または長石に緑泥岩、雲母、石墨を成分とする。趣があるので自然のまま使う場合が多い。
粘板岩
別名「スレート」とも称する。硬く固まった粘土に炭素物質や酸化鉄分が加わって、完全な板状組織をもつ岩石である。スレートとして要求される石質は、
?@剥離して平坦な薄板ができる
?A破面に凹凸が少なく大板がとれる
?B石英脈などがない
?C緻密で、あまり湿気を吸収しない
?D薄板にしてももろくならず堅牢である
等
砂 岩
いろいろな砂が、ある物質で膠着されたものである。その膠着物質は、珪酸、炭酸石英、酸化鉄、粘土質等である。膠着物質が何であるかによって、色、硬さが決まる。耐久性はあるが一般に衝撃には弱い。砂粒が大きいときは礫岩、角粒であれば角礫岩と呼ぶ。
凝灰岩
噴出した灰、砂、岩塊片等に他から加わった物質が水中または陸上で堆積し凝固したもので、産出地によって石質や色はかなり異なる。質は軟らかく加工性に富む。一般に風化しやすい(一部には強いものもある)が加熱には強い。砂質凝灰岩と角礫凝灰岩に大別されるが建築用材としては前者が適している。
石灰岩および大理石
炭酸石灰を主成分としているが常に多くの不純物、主として粘土物質、硅酸物質、酸化鉄、軟体動物の残屍等が入っている。正確には非結晶質のものを単に石灰石と呼び、結晶質石灰岩を大理石とよんでいるが、わが国では両方ひっくるめて大理石とよんでいる。磨くと美しい色と紋様と光沢を発する。耐圧、耐屈、耐伸に優れ、吸水性も小さいが、外部に使うと光沢がなくなり風化や劣化が早い。また、不純物が斑紋をなしており、傷となることも多い。
橄欖岩および蛇紋岩
橄欖岩はカンラン石、クローム鉄鉱からなっている。カンラン石には縦横に不規則な割条があるが、この割目
に蛇紋石が生じ増加する。蛇紋石は、カンラン石を分解して、その周囲や割目に沿ってできる、いわゆる変成岩である。蛇紋岩の名称は、色や斑紋が蛇の皮に似ているところから名付けられたのである。また、閃緑岩や班れい岩が変成作用を受けたものを蛇灰石とよぶが、これも蛇紋岩に含まれる。濃緑色で斑紋もたいへん美しいが、耐候性ともろさの点で問題がある。