絶滅の民とゴールドラッシュ1,失われた民族の悲しみ,涙のネイディブアメリカン1,若松コロニーとシュネル資料編,ジョン・サッターとゴールドラッシュ

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もうひとつの史実「涙のネイディブアメリカン」

最後のヤヒ族：なぜか自分の名を、「Ishi」と名乗った男。

【注】ヤナの一部がヤヒ族

時は、1911年。日本でいえば、明治44年。もうじき明治が終わる頃。
同年11月、場所は、カリフォルニア。珍事件が、新聞紙上に。人々は驚嘆した。

なんと、オロビルの屠殺場に、目を疑わんばかり、この世の者とは思えぬ男が出現。
男は、瘠せ細り、その度合いたるや、半端でない。第一発見者は、腰を抜かした。

それは、誇り高き最後の「ヤヒ族」、その生き残りだった。

あの時、全滅したはずの「ヤヒ族」。それが、なんと生きていた！！

てんやわんやの大騒ぎ。それもそのはず。全滅事件とは、1860年。
文明社会の人間達、その「罪の歴」史が、今頃、浮き彫りになった。なんといっても、彼が生き証人。

・ゴールドラッシュと血の事件の前兆

まるでクレイジー！金塊の発見！ ゴールドラッシュ ！
・・・悪魔の囁き！病的dreamers！

一攫千金の夢。ありとあらゆる人の野望。
たちまち、この地は、典型的な荒野のならず者の巣窟に化した。当然、殺戮も発生する。
農場主サッターの敷地も、原住民達の暮らしも、命も滅茶苦茶・・・。

全米、全世界が騒然！！

紙面に踊った文字列。「サッターの使用人が、水車小屋で、金塊掘り当てたぞ！」
たちまち、わやくちゃ。悪夢のゴールドラッシュ。

＿＿

聖なる地をここまで侵されたのでは、原住の民はついに爆裂。1860年、彼らは反乱を起こした。
勇敢に挑んだはいいが、結果は、たちまち皆殺しにされて、戦士全員死亡。それだけじゃない。
村は追い討ちされて、400人ほどいたはずのヤヒ族は、全滅させられた。
まさに、大量殺戮だった。

・・・と1911年のこの瞬間まで、誰もがそう信じていた。否、そんなことは、すでに記憶の彼方。

彼らは、ヤナ族の支族。それをヤヒ族という。彼らはこよなく聖なる大地を愛し、山間部を
巡りながら、必要最小限の糧の為に、日々狩りを行って暮らす狩猟民だった。
19世紀後半に白人入植者によって壊滅させられ、1916年に最後の一人が死んで滅亡してしまった。

賞金目当ての白人ハンターの攻撃で虐殺されていき、生き残ったわずかのヤヒ族部族民は
山中に逃げ隠れ、ヤヒ族は絶滅したと思われていた。

保安官は困り果てた。ところが、カリフォルニア人類学博物館大学の人類学者の
トマス・T・ウォーターマンが名乗り出てくれた。一安心。彼が保護してくれると言う。

瘠せに瘠せ細り、生きながらにしてミイラも同然の男性は、脅えて暫し、手を焼かせた。
捉えられたら最期。殺されるに違いない。彼はひたすら脅えるばかり。
彼のタイムマシーンは、あの時以来、完全に止まっているのだから仕方ない。

やがて、どうにか、こうにか把握できたようだ。殺されることはないようだ。
ぽつり、ぽつりと喋り始めた。

彼らの生き残りは、必死で山間部に逃げ込んだ。しかし、時ならぬ捨て身のゲリラに
恐れを抱いた白人達は、根絶やしの為にハンターを雇い、草の根分けて追跡。根絶やしにされた。
ところが、この男性が語った。

「家族5人と、生き残りの仲間約20人と一緒に、さらに山深く逃げに逃げて、隠れ住んだ。
だが、みんな死んだ。ついに、生き残ったのは、自分だけ。」と語った。

彼が発見された段階で、既に体は病魔が蝕んでいる。
案の定、1916年、彼は結核で死亡してしまった。ここに、ヤヒ族は地球上から、滅亡してしまった。

ところが、ひとつ、謎が残る。生前の段階で、彼は状況を最終的に把握できたはず。
もう、けっして殺されることはない。食べ物も貰える。
条件はひとつ。なんだか知らんが研究してるらしい。だから、質問されたら、答えてやらねばならぬ。

残された謎とは、これだった。

「君の名前を教えてくれるか？」
「・・・！」

「大丈夫だ。それを、どうこうするわけじゃない。僕の名前は、トマス・T・ウォーターマンだよ。
だから、君が僕を呼ぶ時は、トマスと呼んでくれよ。
だけど、僕は君を何と呼んだらいいの？それだけだよ。だから、安心して教えてくれよ。」

やっと、しぶしぶ、教えてくれた。
「・・・私は、（Ishi）だ。」・・・以来、彼は、「Ishi」と呼ばれて暮らした。

しかし、これは、意味深な嘘。最期の儚い抵抗だったかもしれない。
「Ishi」とは、本来、ヤヒ語で「人」という意味。後に解った。

彼はついに、本名を教えてくれぬ間に天の人となった。

「Ishi」とは、本来、ヤヒ語で「人」という意味。そして、ヤヒ族を含むヤナ族全体では、
「ヤヒ」は、「人々」の意。

大地を愛したヤナ族、最期の生き残り。
アメリカのカリフォルニア州に、かつて定住していた誇り高き民族だった。

「・・・私は、（Ishi）だ！」

静かに、それ以上、なんら語らず、「私は人だ！！」
・・・黙って悲しみを飲み込んで、
きっと何かを語らず天に持ち去って、昇っていった。

それについては、誰も断言する権利はないけれど、なんとなく心につっかえる。
時には多少微笑んで、なんとなく多少融合していて・・・それでも、やっぱり・・。
きっと許しきれなかったんだろうな。きっと愛すること、できないまんまだったんだろうな。
せめて、家族が暮らしている天国で幸せだったらいいな。