ゴーブルさんの大八車_No.4,幕末,ジョナサン・ゴーブルとサム・パッチ

カテゴリ：幕末,戊辰,箱館戦争

幕末,ジョナサン・ゴーブルとサム・パッチ

幕末_WITH_LOVE玄関＜悲しき漂流民＜ゴーブルさんの大八車SERIES_No.4,ジョン・万次郎,ジョセフ・ヒコ=浜田彦蔵,大黒屋光太夫と磯吉,小市,高田屋嘉兵衛と弟の金兵衛,ジョン・マシュー・オトソン,サンキチ=｛音吉、岩吉、久吉｝,九州肥後の力松他3名:庄蔵,寿三郎,熊太郎,力松,1853年ペリー艦隊来航とサム・パッチ＝仙太郎,【楽天市場】

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ゴーブルさんの大八車

No.1 No.3 ＜ No.4 （現在の頁）＜ No.5 ＜6・7・8・9・＜ No.10 （完）

ゴーブルさん、瀬戸内海を目指して「福田」ってどこなんだ？

自転車と、山高帽の日本の紳士

漂流民資料系は、こちら）

いつだって、無駄骨折ってばかりで、まともに商売は、ちっとも、はかどりません。
商売などではないのだけれど、聖書販売人として、雇ってもらったのだから、
やっぱり、甘えてばかりもいれません。

それに、旅費も底つく。お腹もぺこぺこ。情けない。

旅の先々で、宿に入れば、もうくたくたです。いいえ、お宿に入ることは稀でした。
この頃、日本に教会があっちこっちにあるわけもなく、寝る場所ないから、しかたなく、
物騒な時代だというのに、野宿なんてザラだったのです。

この頃、ゴーブルさんは、西へ西へと向かっていました。

確か、こう聞いていた。島が一杯あって、波穏やかな海が綺麗で・・・。
瀬戸内海。そこにある島へ、どうしても行きたい。
ゴーブルさんには、ちょっとした訳がありました。

一杯島があるそうなのです。福田ってどこなんだ？それも島の名前じゃないという。
どうして日本の地名はややっこしいんだ。でも、塩を作っている島だと聞いたから、
それがいい手掛かりかと思っていた。ところがぎっちょん、道々、人に尋ねてみりゃ、なんのこと。
そのへんの島なら、あっちもこっちもやってるそうな・・・。

気が遠くなりそうです。でも、どうしても、行かなくちゃ！！

情けなくなったら、きまって、体を動かす。汗を流す。癖でした。
ところが、近頃では、いい汗出ないで、時々、眩暈がしたりします。
そういう時には、せっせ、せっせとこの「自家製二輪タイプの妙っ！な大八車」を
磨いて、修理に専念しました。

ふいに声がしました。

「ちょいと、そこの異人さん、確か、言葉解るよな？」

振り返ると、案外立派な洋服を着た紳士です。

「ハイ、ワタシ、大丈夫。解ります。ずっと日本語、大丈夫ネ！」

たった今眩暈がしたばかり。だから、そんな時は、特別努力して、思いっきりの
笑顔を作って、そう、答えました。

紳士は、滅多やたらに、なんだか、大八車を覗き込みます。
立派な洋紳士です。興味もありそうです。
ゴーブルさんには珍しく、ストレートに聖書の話を切り出しました。

「ワタシ、聖書、みんなにイイから、売って旅してます。イイからです。」

「ん、知ってるよ。どっかで会ったことあるよ。」

思いがけない発言。ちょっと驚きました。ところが、この男性は、もっと以外な事を言い出しました。
あいかわらず、この台車をジロジロ見ます。そして、こう言いました。

「異人さん、コレ、もと、自転車だったんだろう？自分で作ったって本当かい？」

しかたなしにゴーブルさんがそうだと言うと、いきなりアタックされてしまいました。

紳士が言うには、こうでした。
自転車を作れる腕があるのなら、材料費も研究費も惜しまないから、
その人のところへ行って、作って欲しいというのです。
上手くできたら製品化して販売を試みようというのです。
給料も交渉に応じて、できる限りの約束をしようと言い出しました。

聖書を売っても、きっと苦労ばかりで、暮らしは楽ではないだろう。
先ず生活のベースラインを確定した上で、それほど大切なことなれば、
その上で、心と体の余裕で聖書の仕事をやれば良い。
やめろとは言わない。暮らしと志とは、生きるに際して、時折矛盾するのは仕方ないことだ。

それに、余裕ができたら、もっとうまく、今よりずっとうまくゆくはずだ。そう言います。
余裕とは、金だけじゃない。豊かになったら、伴ってもっと大切なことも豊かになるんだそうな。

お説教する側が、反対にしっかり聴講生にされてしまいました。
こういうタイプに会うのは初めてでした。