英雄とエゴと桃太郎,芥川龍之流「おどろ怖い桃太郎」_No.2,

カテゴリ：本＆心系の話と人物像コラム

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芥川龍之介作「おどろ怖い芥川オリジナル桃太郎！」＿No.2

桃太郎伝説と「水戸の徳川光圀：桃源遺事」＿No.8＝【付録の頁】＿芥川の「桃太郎」

内存エゴと桃太郎＿No.2
芥川龍之介作による彼流の「おどろ怖い芥川オリジナル桃太郎」
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漠然と広大な光景が、ぼわんと映り始めて、ここはどこだろう？ここは、いつの時代だろう？

ゴワゴワゴワッ！と白い煙が、たなびいて、中国のドラの音でも一発欲しいかな？状態でスタート。

ところが、それまで、ぼわんとしていた光景は、
突如、カメラがぐ～んとクローズアップ。
視点スポットは、一本の桃の木。
はっ！と、ここで息が止まる。

ここで、万事、運命は一羽の八咫鴉に始まる。
八咫鴉が一つの実を啄ばみ、谷川にポトリと落とす。
それが、どんぶらこ、どんぶらこ、川を流れ来る大桃。なんとも不吉な予兆。

芥川龍之介流の「おどろ怖い桃太郎！」

スタートが、太古の昔のごとく始まるわりには、途中経過が、どうも、戦国時代か江戸初期の
えげつない戦の矛盾が丸見え。ちゃんとマニュアルに則って、桃太郎も、犬、猿、キジも登場する
わりには、なんだか変だぞ。変だ！変だ！と思いつつ、怖いもの見たさみたいに、なぜか、
自分の体なのに、目玉だけは別ものに。心と裏腹、視線は、ひたすら本を読み進む。

ここで抽出された桃太郎とは、どうにも奇妙な自称日本一男。世紀の大天才、
皆の英雄像とは、即ち、エゴイストか？んっ？・・・状態。
何を根拠に、我が身を信じて疑わぬか？突如、従者の犬に持たせた旗には、「日本一」と書いてある。

ここに芥川がクリエイトした「彼流桃太郎」とは、なぜか七つ道具のひとつに、算盤まで持っている。
犬が「きびだんご、一つ下さいな。」と言えば、桃太郎は、算盤シャカシャカ。
弾き出した数値から、判断。結果、半分しか、くれてやらない。

不満の犬だが、そもそも犬だから、それでも忠義は本能でして、お気の毒。
体と心は、どうも、うまく連動しない。気が付きゃ、追従している。犬だから・・・。

曖昧に読んでゆくと、あたかも、現代版の「冷やかしパロディー」みたいな転回に、
ニヒルな薄笑いが浮かんでくるが、だんだん、特有の世界に、つりこまれてゆく。

背筋が、ぞっとする。戦に破れた鬼達の屍が累々と横たわる描写。
これは、童話なんぞでないぞ！ゲゲッと、読み手は、いきなり、ひきしまる。
▼
戦に滅んだ鬼達の楽園は哀れ。彼らの楽園の象徴は椰子の林。
「その椰子の林は、今は無残。至るところに、鬼の死骸を撒き散らしている。」
▼
（この情景、なんか、効果音欲しいところ。）
▼
鬼達は、鬼といえど、静かに暮らしていただけだった。
なんにもしてないのに、不意打ち食らって、責め滅ぼされて、降伏。

鬼の統領が、両手をついて、平伏して、涙ながらに詫びる。
「誠、申し訳ございません。万事、私が悪うござりました。このとおり。」

ところが、さらに言う。

「ところで、桃太郎様、おおそれながら、一つだけ、どうか、この愚かな私に教えて下さいませ。
私共が、御征伐を受けたところをみると、ここに居る誰かが、貴方様に、なんぞ、
ご迷惑をかけたからでござりましょう。されど、ここに生き残った者の誰に尋ねても、
心当たり無いと申します。しからば、どうか、誰がご無礼を貴方様に？
どうか、訳をお聞かせくださりませ。」
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いわれなき罪をおっかぶされて、御征伐を受けた「大人しい鬼達」。

鳩首して相談した鬼達の生き残りとは、なんだか知らないが、どうも、
弱小国＆敗者側の老中イメージ。
この場面を、歴史上のどの時代のシーンにイメージするかは、読み手しだい ですが、
私の場合、あれか、これか・・・はてまた、まさか戊辰か？、それとも明治初期の
えげつない潰しか？などと想像してしまいますね。

＜怖可笑しい！・・のに笑えない。怖いから。＞
▼
因みに猿は、動物といえど、人に近いから、犬のように、鬼の兵達を、たちどころに次から次へと、
噛み殺したのではなくて、余計な技もやっている。 鬼の若い娘を捕まえて陵辱を！！
まるごと、どっかの時代の、誰かさんによる陰謀の戦・・・そのまんま。

勝った桃太郎は、胸を張って帰国する。 日本一の旗靡く。
俄仕立ての偽モノ「錦の御旗」か？まさか？「我は正義の味方也！！」

鬼の宝物は、山盛り分捕って、台車に積んで、人質に取った鬼の子供に曳かせている。
この哀れな「鬼の子供」は耐えて、ビシバシ鞭打たれつつ、重い荷物を引き摺り追従。

だが、鬼の子供は、少し大きくなると、隙を見て、まずは、一番大人しい動物「雉」を
狙って噛み殺して、脱走。これを発端に、鬼達の復讐劇発生。（鎮圧されるが）
またしても、どっかの時代の、誰かさんによる陰謀の戦・・・そのまんま。

あれ、あれ、あれ、なんだこりゃ。と思うわりには、どんどん、この世界に填まってゆく。

まあ、いずれにせよ、昔を想定したお話だろうサ・・・と油断して読んでると、
ラストにぞっ！とする。
人事じゃないぞ。過去の物語じゃなかったのかいナ！
エンディングはこれだ。
▼

「その桃の木は、今日もなお、
累々と無数の実をつけている。」

いつ、なんどき、あの問題の八咫鴉が、桃の枝に飛んでくるかわからない！！現代の恐怖！

「ああ、未来の天才は、まだそれらの実の中に、
何人とも知らず眠っている。」・・・（THE END）

この桃の木は、幾つかの恐ろしい実を育んでいる。だがしかし、谷川にポトリと落ちなければ、
人はそれを知らない。ここでいう、 芥川が含み語る「天才」の定義とは、これが曲者だ！

実に、おどろ怖い！！

1927年（昭和2）7月24日、芥川龍之介は、服毒自殺を遂げる。35歳の大天才が、突如天の彼方へ。