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サンプル21

これまでに書いた記事全体の約20%弱をサンプルとして掲載させていただきましたが、これがラストのサンプルです。


「さらばディープブリランテ・・・」

今年のダービー馬に輝いたディープブリランテ(牡3、父・ディープインパクト、母・ラヴアンドバブルズ、その父・ルーソヴァージ)が、先日屈腱炎を発症して菊花賞を回避したばかりであったが、残念ながらそのまま引退し、種牡馬入りすることが決定した。

ひところはずいぶん競走馬のアスリートとしての寿命が延びたものだと感心したこともあったが、近年の犯罪級の高速馬場の影響も(おそらく)あって、ここにきてまた急に競走馬のアスリートとしての寿命が短くなってしまう時代に入り、ディープブリランテもそんな1頭になってしまった。

このコラムにも書いたが、ディープブリランテという馬は、本当に競走馬の鏡というか、常に全力を出し切る必死さが伝わってくる名馬だった。
だからこそ、あの「あまりにも大きなハナ差」をディープブリランテだから勝ちとることができ、共同通信杯から皐月賞までのつらい時期もあったが、あの瞬間まさに「一生懸命走ること」が報われたのではないかと思ったものだ。

ブリランテは非常に馬格があり、お父さんのディープインパクトとは全然似ていないあの馬っぷりが私は大好きだった。

ディープインパクト産駒というのは、何かみんなお父さんが大好きで、ぼくも、私も、お父さんのようになりたいと憧れ、願っているかのような「そっくり」な産駒が多かったが、このディープブリランテという馬だけは、「オヤジは関係ない、俺は俺のやり方でやるんだ!」と、そんなふうに言っているように感じていて、そこにすごく好感を抱いており、産駒の中では1つ上のダコールとともに一番応援していた馬である。
(ちなみにダコールは「オヤジ?しらねぇ・・・」と言っているような気がする)

しかしそれでいながら、産駒の中で第1号のダービー馬に輝いたのだから本当に立派であり、優秀な産駒を輩出し続けているお父さんにとっても、まさに「自慢の息子」という特別な存在だろう。
もちろんこれからはそんな父もライバルとなり、再び厳しい戦いが始まるわけだが、まずはしっかりと脚元を癒して、後継者輩出に励んでもらいたいものである。

もちろんこれから種牡馬になるわけだから、それはそれで良かったと言うべきなのかもしれないが、しかしディープブリランテのアスリートとしての姿をもう見られなくなってしまうというのは、本当に寂しく、残念である。

菊花賞を終えたときにふと気付いた。
先日菊花賞を制したライバルのゴールドシップは、祖父・メジロマックイーンに酷似していると言われるが、人それぞれのいろいろな「思い出の世代」にたとえられるこの世代は、やはりあの芦毛ハクタイセイ(皐月賞)の、アイネスフウジン(ダービー)の、そしてメジロマックイーン(菊花賞)の世代の再来であるという気が個人的にはするのだ。

そんなことを思っていた矢先に、ダービー後、フウジンと同じようにリタイアしてしまったところまで同じになってしまうとは・・・
ともあれ、もう前を向いて、ブリランテ2世がターフに戻ってくるのを待とう。

ダービー馬・ディープブリランテ、お疲れさまでした。
そして、これからもがんばれ!


・ヒルノダムール、引退

故障や引退のニュースが非常に多くなっているためか、まだ闘病しているとばかり思っていたもう1頭の名馬の引退の話題にも触れよう。
昨年の天皇賞・春を優勝していたヒルノダムール(牡5、父・マンハッタンカフェ、母・シェアエレガンス、その父・ラムタラ)も、まだ登録抹消はされていないようだが、しかし約ひと月ほど前に事実上引退していたのだそうだ。

ヒルノダムールも、最強世代(現5歳世代)の中でも根強い人気を誇る名馬で、何か自身はできるだけ目立たないようにしているにもかかわらず、なぜか目立ってしまう「天然」のタイプだった気がする。

しかし実はこの馬もゴールドシップ同様、祖父・ラムタラが非常によく出たタイプで、ゴールドシップと同じくらい引っかからないタイプだっただけに、種牡馬として思われている以上に高い資質を備えているのではないかという気がしている。

そうか、もうラムタラは日本にいないのだから、ヒルノダムールもラムタラの血を伝えるという意味では非常に重要な責務が今後待っていることになる。

かなり重度の屈腱炎だと聞いているので、とにかくしっかりと脚元を治して、父としてもう一度活躍してくれることを願う。


・フランケル、引退

イギリスの「(自称)世界最強馬」であったフランケル(牡4、父・ガリレオ、母・カインド、その父・デインヒル)が、15戦全勝(うちG?T10勝)という、なにか「横綱」という感じの成績で、めでたく引退、種牡馬入りが決まった。

以前書いていたブログにも、2歳の最終戦を見て、「こんな化け物ありえない」という趣旨のことを書いたが、日本からも同期の怪物が2騎(怪物その1=レーヴディソール、怪物その2=オルフェーヴル)登場したから、レーヴディソールには本気でエプソムダービーに挑戦してほしかったし(といっても、肝心のフランケルはダービーには向かわなかったが)。

フランケルは本気で強い。
ダテやスイキョウで「歴史的名馬」と称されるわけではない。
コイツは本気で化け物かつ怪獣だった。
私はいつこの馬が口から火を噴くか楽しみにしていたくらいだ。

そして、フランケルは幸せだった。
ブリランテやヒルノみたいにケガによる志半ばの引退ではなく、「絶頂期の引退」という、競走馬としての理想的な「幕」であったことがひとつ。

そして、もうひとつ・・・
それは、オルフェーヴルと対戦しなくて済んだことである。
これが本当にフランケルにとっては幸せなことだった。

正直いって、これらのどちらが強かったのか、その結果は私には見えない。
もちろん日本でやったらいかにフランケルとて、オルフェーヴルにはかなわない。
もしかしたら現時点でのリヤンドファミユあたりにもかなわないかもしれない。
しかし、フランケルのホーム、イギリスで競馬をしたら・・・私には勝負の行方はどうしても見ることができないのだ。

フランケルはそのくらいの名馬であった。
凱旋門賞でのオルフェーヴルの「あり得ない豪脚」に十分太刀打ちできるくらい、フランケルは名馬だったと私は思う。

コイツの子は本気で期待しちゃうなぁ。
でも、ヨーロッパではちょっと「ガリレオ×デインヒル」が多すぎた世代ではあったけれど・・・

サンプル20

「来た!リヤンドファミユ入厩!!」

当然私もそうだが、心待ちにしていたファンもさぞかし多いだろう。
いろいろな期待がプレッシャーにならなければよいがと心配していたが、そんな心配もやはりこの「家族」には不要なのかもしれない。

入厩前に早くも「手術(去勢ではない、もちろん)」の経験があるということで、さすがは「一筋縄ではいかない血」という気がする——そう、タイトルにあるリヤンドファミユとは、「スーパーかあちゃん」こと、オリエンタルアートの四男坊である。

ということは・・・そう、あのドリームジャーニー、そしてオルフェーヴルの全弟の名前であり、そしてそのリヤンドファミユ(牡2、父・ステイゴールド、母・オリエンタルアート、母の父・メジロマックイーン)が例によって池江泰寿厩舎にいよいよ入厩したのである!

タイプとしては「オルフェーヴルよりもドリームジャーニーに似ている」という説もあるが、「ドリームジャーニーとオルフェーヴルを足して2で割った感じ」というのもある。
どっちがいいんだかなんだかわからないが、いずれにしてもブリーダーサイドの話では、馬体、身体能力はオルフェーヴル以上(!!!)だというから驚く。

しかも、あんまり大きい声では言えないが、「オルフェーヴル以上にヤンチャ(!!!!)」なのだそうである。
オイオイ、ホンマに大丈夫かいな・・・

現在デビューに向けて急ピッチで調整が進められているということだが、毛色は「ジャーにぃ」と同じ「鹿毛」である。
そして、ちょっと写真を見た感じの印象を言えば・・・
とても草食獣とは思えない目ツキの悪さは、確かにどこかで見た覚えがあるなぁ・・・というのが率直な感想である(汗)

ジャーにぃにしろオルにぃにしろ、どちらかというと晩成タイプ(ジャーにぃはそれで朝日杯を勝つから驚く)であり、まあデビュー時期の遅さというのもあるが、この時期の完成度はもしかしたらリヤンドファミユが一番かもしれない。
何しろオルにぃなんてダービーのころだってこどもこどもしてたもんなぁ・・・
あ、馬体の話ね、これ。精神面の話ではないですよ。
精神面は今だって・・・ねぇ・・・

ところでみなさんもきっとアレなんだと思うのだが、この「リヤンドファミユ」っていう名前、正直、なんちゅー名前だよ・・・って思ったでしょ?
ブエナビスタの下で、現在休養中の昨年の2歳女王・ジョワドヴィーヴルは、なんとあのクリストフ=スミヨンが命名したとうわさされているが、リヤンドファミユもまたスミヨンか誰かが命名したんじゃねぇの?と勘ぐってしまう。

オルにぃのときも「おるふぇえぶるって、なんじゃいこりゃぁ!」と、軽く松田優作ちっくな怒りすら覚えたもんだけど、まあそれはドリームジャーニーの命名があまりにも素晴らしすぎただけのことで、今となっては一筋縄ではいかないオルフェーヴル(フランス語。日本語で「金細工師」の意)の名が功を奏したとしか思えないくらいの「一筋縄ではいかない活躍」を見せているだけに、このリヤンドファミユ、この名前の一筋縄ではいかなさを考えると、ダートコースを逆走して芝の世界レコードを叩きだすくらいのことはしでかすかもしれんぞぉ・・・

リヤンドファミユもやはりフランス語だそうで、日本語では「家族の絆」と訳されるそうだ。
日本語の意味はいいとして、ものすごく実況泣かせの名前である。
よかった、ぼくが実況アナじゃなくて。

でもまたこれ・・・あれでしょ?
ウワサじゃぁオルフェーヴル以上だってんだから、どうせまたG?Tをいくつもかっさらって、スミヨンか誰か外人乗っけて凱旋門賞か何かに行くことになるんでしょ?

だったらいっそのことスミヨンで凱旋門賞を勝ったダラカニとかザルカヴァみたいな名前にすりゃよかったのに・・・
フランスでも響きが良くて、しかしそこには多少「日本の味」も加えて、「ダラバカニ」とか「ザルソヴァ」とか「ザリカニ」とかさぁ。
あるいはモンジューにあやかって「マンジュー」とか、そういう名前にしてほしかったなぁ・・・

とまあ、名前のことはともかくとして、これからまたいろいろな意味で目が離せそうもない、「とてつもない名馬」に育ってほしいものである。
ってか、この兄弟、本当にマックイーンの血が入ってるのかなぁ・・・
全然タイプが違うけど・・・
その分、(兄弟ではないけれど)ゴールドシップはあまりにも「似すぎ」だけどね。

これから有馬記念まで毎週毎週楽しくて仕方がない時期に差し掛かってくるが、それとはまた別に、さあ、これからますますおもしろくなりそうである。
ただでさえ"猛獣"オルフェーヴルVS"暴走トラック"ゴールドシップの「夢の対決」が間近(有馬が濃厚?)だというのに、これで「オルVSシップVSファミユ」が来年の凱旋門賞あたりで実現しようものなら・・・いったいどーなるんだ!??

まあ何にしても、リヤンドファミユの無事と(って、もうヤラカシちゃったらしいけど・・・)活躍を願って、それから、オルにぃも少しは「兄ちゃん」らしくなってくれることも願って、ついでにアタシにたくさん馬券を的中させてくれることも願って願って願い倒して、「オリエンかあさん一族」の今後ますますの活躍を祈りたいものである。

みんな元気に頑張れ!!(ジャポニズムもね!)

サンプル19

先日の天皇賞・秋にちなんだFine Horseです。


「「伝説」を生んだ「伝説」〜アグネスデジタル(第124回天皇賞・秋)」

天皇賞・秋である。

かつては「府中の2000mには魔物が棲む」などと言われ、メジロマックイーンの1位入線18着降着の大事件を皮切りに、圧倒的人気のトウカイテイオーが急流に呑まれて「なんとびっくりレッツゴーターキン!」に惨敗した天皇賞、ビワハヤヒデ、ウイニングチケットの故障発症によりレース後にクラシックホースが同時に引退という前代未聞の天皇賞、さらにはサイレンススズカの非業の死の天皇賞など、本当に1番人気の馬たちが受難にさらされまくった時期も確かにあった。

しかし近年では、あのウオッカとダイワスカーレットの激闘に代表されるような、「究極の名勝負」の宝庫となる舞台へと、そのイメージはずいぶんと明るいものになった。

そんな中で異彩を放つ天才ホースも、このレースの偉大な優勝馬の中にいる。
それが今回これからご紹介するアグネスデジタルである。

アグネスデジタル(父・クラフティプロスペクター、母の父・チーフズクラウン)というと、とにもかくにもそのバイプレイヤーぶりには本当に驚かされた。
芝ダート短距離中距離国内海外地方中央重馬場良馬場と、書き連ねればまるで中国語のようになってしまうくらい、どんな条件でもしっかりと自分の能力だけは出す、たいへんな名馬であった。

その頭角を現したのが、3歳(当時の4歳)の秋であった。
その春にはすでに地方の深いダートで重賞2勝をあげ、中央でも出世レースのユニコーンステークスを勝ち、賞金十分で臨んだマイルチャンピオンシップであった。

このときアグネスデジタルは13番人気。
まったくのノーマークであった。
しかし名手・的場騎手を背にしたあのときのアグネスデジタルの脚には本当に驚いた。
西日に照らされ明るい栗毛がひときわ輝いて見えたことは言うまでもないが、しかしその馬がいったい何だったのか、最初はまったく見当もつかなかったというのが正直なところである。

多くの人がそう思っていたように、私も当然「ダートホース」であると思い込んでいたのだが、しかし芝のマイラーたちをあっという間に差し切ってしまったあの末脚は、まさに鳥肌ものだった。

これがアグネスデジタルにとって最初のGI勝利となる。
しかし、アグネスデジタルのその後のGIレースのひとコマずつをここに書き連ねるわけには、残念ながらいかない。
なぜなら、そんなことをしていたらいくらスペースがあっても足りないからである。

結果だけ言えば、次の通りである。(現行年齢表記)
3歳・・・マイルCS(レコード)
4歳・・・マイルCS南部杯(岩手)、天皇賞・秋、香港カップ(シャティン)
5歳・・・フェブラリーステークス
6歳・・・安田記念(レコード)

GI級レース勝利の内訳は、中央芝3(中距離1、マイル2)、中央ダート1、地方1、海外芝1

この中でどうしてもピックアップしたいのが、今週のメインに組まれている天皇賞・秋である。
このとき話題になっていたのが、このときすでに七冠馬となっていたテイエムオペラオーであり、もしかしたらこれを破るかもしれないとささやかれていたのが、芦毛の怪物・クロフネであった。

ところが、である。
日本中の競馬ファンが待ち望んだ「七冠馬VS怪物」の激突は、クロフネの除外により実現しなかったのである。
そして、そのクロフネのための「最後のイス」を奪っていったのが、だれあろう、このアグネスデジタルだったのである。

クロフネは悲しかった。
勝ち負けはともかく、七冠馬に対し全力でぶつかりたかった。
しかし、それは寸手のところで叶わぬ夢と化してしまったのだ。
その怒りのポテンシャルすべてを自らの走りに注いだレースこそ、あの「伝説」のG?V・武蔵野ステークスだったのである・・・

そして迎えた天皇賞・秋、ダートの舞台から久々に「重」のターフに立ったもう1頭の天才・アグネスデジタルが、皇帝・シンボリルドルフ超えの「8冠」のタイトルを目指したテイエムオペラオーの「夢」をも、完膚なきまでに打ち砕いたのである。
あれはまさに、テイエムオペラオーにとっては本当に信じられないような「惨敗」であった。

クロフネのファンとテイエムオペラオーのファンからすると、このアグネスデジタルという馬は本物の悪魔以上の存在だったに違いない。
しかし、アグネスデジタル自身はいつもどこか飄々としていて、本当に淡々とした名馬であった。

もしその話を懐かしもうとしても、きっとアグネスデジタルのことだ、自らが作ったとてつもない伝説さえ、「ああ、あれね・・・」などと鼻歌混じりの生返事をよこすに違いない。
だって、それこそがアグネスデジタルの魅力なのだから。

アグネスデジタルは現在15歳、まだまだ元気に「伝説2世」を輩出せんと「職務」に励んでいる。

サンプル18

うれしかったなっぁ、ゴールドシップの2冠制覇・・・


「ウチパク「必死」、ゴールド「余裕」の2冠達成!〜第73回菊花賞(G?T)」

タイムスリップしてしまったかのような、そんな不思議な圧勝劇であった。

もちろんゴールドシップ自身のファンや、父・ステイゴールドの異常な産駒成績に酔いしれるファンも多いだろうが、私のようにメジロマックイーンや芦毛馬のファン、さらには、ひと昔——いや、もっと昔のスターホースが現代に舞い戻ってきたかのような、そんな不思議な気分を味わうことができた、素晴らしいし菊花賞だった。

ゴールドシップの菊花賞の内容を受けて、「ミスターシービーのようだ」と形容するファンが驚くほど多かった。
ミスターシービーは偉大な三冠馬であった。
すべて追い込みで三冠を達成してしまったのだから、どれだけファンを魅了した名馬であったことか・・・

しかし翌年には、そのミスターシービーをはるかに凌駕する「完全無欠の皇帝」が三冠馬になった。
シンボリルドルフである。
ディープインパクトやオルフェーヴルの出現を目の当たりにしてもなお、「ルドルフこそ最強だ」と豪語してはばからないオールドファンも少なからず存在するという。

残念ながらミスターシービーが描いた「末脚の伝説」は、わずか1年にしてシンボリルドルフという冷酷非道なまでの強さを誇る「新しい伝説」によって過去の伝説として葬られることになる。

あまりにも不運な三冠馬となってしまったそんなミスターシービーの姿に、多くのファンがゴールドシップの姿を重ねているのだ。

今の競馬、みな同じように優等生で、ワンパターンの競馬ばかりが繰り返されている印象も正直あり、しかもそれが恒久的な病理現象(つまり、「ファンあっての競馬」ではなく、「オーナーのための競馬」が繰り返されているという印象)ともなりかねない流れが構築されつつある中、昨年のオルフェーヴルはそうした「常識」を打ち破り続け、そして今年、ゴールドシップという古き良き時代を私たちに思い出させてくれる不思議な魅力とスター性を備えた2冠馬が誕生した。

オルフェーヴルがダービーを優勝したときには、ノーザンテーストという繁殖馬がいかにすごい繁殖馬であるかを痛感させられたが、今年、このゴールドシップを見ていると、やはりどうしても父・ステイゴールドの偉大さを今さらながらに痛感する——この2年で、牡馬クラシックはステイゴールド産駒が6戦5勝である。

もちろんこれまでに、サイアーライン、あるいはファミリーラインまで視野を広げたときに、「同じ配合」による三冠馬なり2冠馬なりが誕生した歴史は数多く刻まれてきたはずである。
それは競馬が「ブラッドスポーツ」と呼ばれ、「Best to Best」の原則によって生産、淘汰が繰り返されるという性質上、至極当然のことでもある。

しかしここまで明確に「父」そして「母の父」がピタリと一致してこれだけの名馬を連続で輩出したケースがこれまでにあったのだろうか?

確かに、競馬という「勝つこと」のみが許される世界において、それは「黄金配合」という評価はこれ以上ないほど妥当であり、誰がどう考えても称賛されてしかるべき配合であることは間違いないが、しかしここまでくると、正直言って「異常な配合」と言ったほうがより当てはまる気もする——どう考えたって、こんなのちょっと異常である。

そして、このゴールドシップという馬が2冠馬に輝いたことの大きな意味が、もうひとつある。
近年それが当たり前のように繰り返されてきている、大牧場の超一流血統の牝馬を母に持つ生産馬や、大オーナーの所有馬による勝利ではなく、長い歴史を刻みながらもほとんど重賞にさえ満足に出走する馬が出なかった小規模の牧場から、個人が所有するスターホースが生まれたという点である。

しかも、ゴールドシップの母・ポイントフラッグは、その血が1931年に輸入されたとされる「星旗」に由来していることはすでに知られるところであるが、日本の競馬の基礎を築き上げた名牝系の祖・星旗は、今から70年も昔に日本ダービーを優勝していたクモハタの母としても知られ、言い換えればそれは、日本の競馬の黎明期からずっと温められてきた血であり、今まさにその血が、ステイゴールドの、あるいはサンデーサイレンスの、そしてメジロマックイーンの血によって現代に蘇った瞬間でもあったのだ。

長い歴史の中で、淘汰され、改良され続けてきた数多くの血の中にあって、日本の競馬の黎明期から人々が紡いできた努力の結晶を、今まさに私たちは目撃したのである——これは「大げさなこと」ではなく、「まぎれもない事実」である。

そういう「結晶の血」にふさわしい内容の圧勝劇だった。
こちらもその生誕からして奇跡がかっていた祖父・メジロマックイーンゆずりの超ロングスパートが、「格下」と見られた相手に容赦なく炸裂した。

直線、半ば勝利を確信しながら、私はライスシャワーが外から襲いかかってくることだけを案じていた——そんな感覚に襲われるくらいだから、やっぱり、今年の菊花賞は、「不思議」なのである。
しかし幸いにも、ライスシャワーの中にずっと潜んでいた「漆黒の悪魔」は、どの馬にも再び宿ることはなかった。

内田騎手は息を弾ませ、汗を滴らせながらのインタビュー、これに対し、ゴールドシップは例によって「早く遊びすぎ」のゴール前だった。
これはゴールドシップにとって今後大きな課題であることは間違いない。
とはいえ、やはりこの馬の成長力にも相当なものがあったこともゆるぎない事実である。

昨年に比べればそこまで高速馬場とも言えない京都の馬場であり、しかしやはり全体的には「先行有利、イン有利」の馬場を、最後方から超ロングスパートでひとまくりにまくりきってしまったゴールドシップの強靭な末脚と、それでいて昨年のオルフェーヴルとコンマ1秒差の快時計は、見た目の印象よりもずっと価値があり、そしてこのゴールドシップという馬、昨年のオルフェーヴルがそうだったように、その印象自体とは比較にならないくらい「強い」。

2着スカイディグニティは、セントライト記念でも素晴らし末脚を繰り出していたが、さすがにゴールドシップと比較できるレベルではないものの、今回もやはりという感じで、最後までしっかり伸びた。

しかし期待したベールドインパクト(4着)は少しもったいなかった。
手ごたえからすれば、ゴールドシップを負かしに行きたくなる四位騎手の気持ちもよくわかるが、しかしこれはあまりにも強い相手を負かしに行った分、最後は2頭に差された4着という結果だった。

スカイディグニティは、その分だけ得をした印象。
とはいえ、メンディザバル騎手は、勝負どころで腕の脱臼を発症していたというから、これは素晴らしいファンティングスピリッツであったと思う。
その「プロの魂」が、こちらも十分ステイヤー血統であるスカイディグニティにしっかり伝わっていた。
3着ユウキソルジャー(これも血統はステイヤーの部類)も、スカイディグニティ同様恵まれた3着であった。

7頭も大挙したディープインパクト産駒は不甲斐なかった。
もちろんワールドエースやトーセンホマレボシ、そして直前でリタイアしたディープブリランテがいなかったから仕方がないと見ることもできるが、しかし、ベールドインパクトが皐月賞にもダービーにも出走していたことを考えると、秋になって新星が出てこなかったというのが現状の評価であり、これはさすがに残念だった。

ダービーを勝ったとき、勝ったブリランテを祝福すると同時に、私はディープインパクトをも祝福した記憶があるが、それは、サイアーとしては明らかに自身を上回るステイゴールドの子供を破ったからである。

近い将来、あくまでも「ファンの視点」という本質のもとに、ディープインパクトがサイアーとして日本の競馬の頂点に立つのは誰がどう考えても明らかであるが、ステイゴールドが元気なうちにディープインパクトがステイゴールドを上回らなければ、その価値は半減すると思っていたからである。

リーディングサイアー争いや収得賞金争いといった数字面で評価、あるいは満足するのは、少なくとも私たち「ファン」のスタンスからはほど遠い。
こういう厳しい競馬で「上がり馬」と言える存在が1頭も出てこなかった上、勝ち馬は別としても、4着馬以外の6頭は2着争いに加わる気配さえ見る者に与えることができなかった事実は、これからを背負って立つサイアーだけに残念である。

そして、最後にひとこと、これだけはどうしても言いたい。
生産にたずさわった日高のホースマンの方々、ほんとうにおめでとうございます!

サンプル17

Tea Roomというコーナーで、ちょっとゆるめのお話をしています。


「ありがとう、アヴェンティーノ!/ニュースいろいろ/ごあいさつ」

凱旋門賞のレースを最後に、8歳馬のアヴェンティーノが現役を引退し、今後は乗馬として第二の馬生を送ることになった。

アヴェンティーノは、オルフェーヴルの帯同馬、そしてペースメーカーとしてフォワ賞と凱旋門賞に出走して見事に大役を果たし、競走馬としてのキャリアをここで幕を閉じる。
今後は千葉で乗馬になるというから、近いうち一度会いに行ってみたいなぁ・・・

アヴェンティーノ、もちろんその名前は知っていたが、オルフェーヴルのペースメーカーとして選ばれたことを知り、本能的にその競走成績を見てしまい、「大丈夫かな、これ・・・」などと不安になってしまった。
しかし、そんな不安を一掃するくらい素晴らしい大役をこなしてくれたことにオルフェーヴルのファンとし感謝したい。
その意味を込めて、今回はコラムを書く。

いやぁ・・・実際「大丈夫か」もなにもなかった。
フォワ賞や、そして特に世界が注目する大舞台では、完全に「オルフェーヴルがアヴェンティーノの帯同馬」であるかのように、年齢でいえばオルフェーヴルの2倍先輩のアヴェンティーノが堂々とオルフェーヴルを誘導していた。

大好きな馬が凱旋門賞に挑むという緊張の舞台で、オルフェーヴルだけでなく、私までアヴェンティーノに落ち着かせてもらっていた。
そのくらい、「アヴェンティーノとオルフェーヴル」のコンビは素晴らしかった。
世界の大舞台でも、本当に堂々としていて立派だった。

それを「大丈夫か」などと疑問を抱いた私の眼は、本当に節穴以下である。
アヴェンティーノ、ごめんなさい・・・
そして、ありがとう!
いつまでも元気で、長生きしてくれよ!

アヴェンティーノ(牡8)・・・
父・ジャングルポケット、母・アッサムヒル、その父・サンデーサイレンス
主な成績・・・凱旋門賞(G1)17着


では、ニュースを少々。

・ブリランテ、屈腱炎〜長期休養へ

さて、明日の菊花賞、こちらも大ファンであるゴールドシップが真面目に走ってくれるのかという、競馬というジャンルにおいてはかなり不思議な心配をしているところなのだが、こちらは残念なことに、ディープブリランテが屈腱炎を発症していたことがわかってしまった。

昨日の予想の段階では、まさかブリランテが屈腱炎を発症していたとは思わず、ブリランテ自身のためを思うなら、菊は出ないほうがいいかな・・・などとダービー制覇直後から考えていただけに、「やっぱりな・・・」というとらえ方を実はしていたのだが、これもまた私の大きな勘違いであった。

私は戦前からワールドエースやゴールドシップ以上にダービーでは可能性があると踏んでいたのだが、その理由はやはりあの高速馬場への適性、というか、脚質からだった。
そして、何といってもこのディープブリランテ、「ディープインパクトに似ていない」ところが好きなのだ。

この世代を盛り上げてくれたワールドエースに続いて、まさかディープブリランテまで筋をやってしまうとは・・・

ディープインパクト産駒の名誉のためにも言っておくが、これはディープ産駒の体質や足元が本質的に弱いわけではない。
ディープ産駒は、ステイゴールド産駒に比べればずっとフォームがキレイであり、足元への負担は小さいはずである。

だから、不運だとか、彼らの走りの欠陥だとか、そういう考え方は本質的にナンセンスだと思う。
もうここまでくれば疑いないだろう・・・こんなのは、完全に人為的な故障である。

オルフェーヴルやゴールドシップがコンクリート馬場で凡走したのは、「本能的に危険を察知したから」という意味合いも多分にあると思う。
まあ、ゴールドシップに関しては、「不真面目だった」というのがもっと多分だろうけれど・・・

ワールドエースともども、頑張ってカムバックしてほしいと願う。
がんばれ、ブリランテ!


・アドマイヤグルーヴ、死亡

知人に教えられるまでは全然知らなかったので、これもかなりびっくりした。
まだ12歳だったという。
お母さんのエアグルーヴがまだまだ元気だというのに、この娘は・・・ちょっと早すぎるよなぁ・・・

エリザベス女王杯連覇を含む重賞5勝の名牝・アドマイヤグルーヴが15日、「胸部出血」のために急死した。

アドマイヤグルーヴというと、どうしても「エアグルーヴの娘」というイメージが先行してしまい、アドマイヤグルーヴ自身の印象が薄いというファンが多いかもしれないが、個人的には娘のグル—ヴのほうがずっと美人で、本当にかわいらしいお馬さんだったという気がする。

お母さんのような牝馬ばなれした迫力はなかったけれど、こちらはどちらかと言えば薄手で、長い距離に適性があったかもしれないという印象だった。
同期の三冠牝馬・スティルインラヴと、そのファンの夢を砕いたあのエリザベス女王杯の走りにそれが表れていて、あれがやっぱりアドマイヤグルーヴのベストバウトだったなぁ・・・

残された産駒は数少なく残念だけれど、安らかに眠ってほしい。
ありがとうございました。

アドマイヤグルーヴ(牝・2000−2012)・・・
父・サンデーサイレンス、母・エアグルーヴ、その父・トニービン
主な勝ち鞍・成績・・・エリザベス女王杯(G?T)2回、ローズS、阪神牝馬S(以上G?U)、マーメイドS(G?V)、秋華賞(G?T)2着


・ごあいさつ

それと、このブログをお読みいただいているみなさま、本当にありがとうございます。
コメントなどもいただいたりして、ありがたい限りなのですが、残念ながら恐ろしいくらいに機械音痴(馬券に次ぐレベル)な私は、返信の方法などがわからず、また、多分に面倒くさがりなところもあり、返信できずにおります。

これかな?というのはあるのですが、どこかとんでもないところに意味不明な返信がいってしまいそうで、行動を起こしておりません。

コメントいただいた方は本当にありがとうございます。
そして、返信できずに本当に申し訳ありません。
これに懲りずに、今後ともご愛顧いただけたら幸いでございます。
お読みいただいている皆様には必ず幸運が訪れると確信しております(根拠はありません)。

この場を借りて、ごあいさつまで。

サンプル16

ちょっとだけマトモな予想でした・・・


「日曜京都〜第73回菊花賞(GI)」

火曜日には「春のチャンピオンの対決だからこそおもしろい」などと書いたが、それもあえなくダービー馬のディープブリランテがここに来て直前に脚部不安を発症して回避、まさにドタキャンという感じで、昨日は日本中の競馬ファンがズッコケまくった1日だったのではないだろうか。

ということで、大方の予想としては、もはやゴールドシップの「1強」というところで、果たしてどんな勝ち方をするのかに注目が集まってしまった感もあるが、しかしこの菊花賞、そう簡単なレースではないことはすでに周知のとおり、こういうレースこそ、大波乱になるものである。

もちろんゴールドシップは距離適性の高さや、この馬自身のシンプルな能力の高さを認めるものの、しかしやはりいつものように、何かがゴールドシップを負かせないだろうかというスタンスで予想していきたい。

中心はもうゴールドシップで仕方がないところではある。
最内枠なら大外よりはまだましである、スタートさえまともに出てくれれば・・・

実際、競馬解説者の中にもゴールシップは「早熟タイプだ」と豪語していた人もいるくらいだから、私のような素人は、ああそうなんだなぁ、ゴールドシップは早熟なのか・・・などと半ば納得しなければならなかったわけだが、しかし前走の神戸新聞杯の内容は秀逸で、春は大きな身体を持て余し気味だったゴールドシップの走りは、ひと夏を超えてその重心が低い位置に移動してきた印象が強く残り、春にくらべてもずっとストライドが大きくなっている印象を受けた。

ダービーの敗戦は、今にして思えば多少つくりが硬かったなぁ・・・などという気もするのだが、それ以上にやはりあのフットワークだと、ああいう特殊な馬場ではグリップが利いていなかった部分も多分にあったのではないかという気がする。
しかし、今のゴールドシップならばおそらく高速馬場にも十分対応できるはず。

ただし、これはあくまでもゴールドシップの「走り」の問題であり、いくら競走馬として理想的な走法を身につけたとしても、その「性格」はおそらくちっとも変わらないのだろう・・・
フィジカルな部分での距離適性は抜けているはずだが、しかしゴールドシップのメンタル面の甘さはお世辞にも長距離向きとは言えない。

その走りからは確かにオルフェーヴルのそれに勝るとも劣らない将来性を感じさせる半面、集中力を持続させるのが得意なタイプではないのが隙になり、その間隙を衝いて「何か」にやられるのではないか・・・という見解にした。

もちろん、その「何か」は、いつも一生懸命頑張る「真面目なタイプ」こそが、努力家タイプが多い印象の菊花賞馬にはふさわしい気がする。
真面目で一生懸命といえば、今回も相当数出てきているディープインパクトの子の最大の特長である——お母さんの系統がゴールドシップと通じる部分もあるステイヤータイプのベールドインパクト(2枠3番)にした。

そうは言ってもこのベールドインパクトという馬も、それほど真面目なタイプではない。
すみれステークスではゴール前で悪さをして、かなり気性の荒いところを見せていたが、これはサンデー系の代名詞であり、スペシャルウィークなどもそうだったように、長いところを走る馬はみなそういうクセを持っている。

一方お母さんの系統は、アレッジドやシカンブル(シーバードのBMS、ちなみにシカンブル直仔の母はシーバードを産み落としてすぐに食肉にされた)に代表される重厚な血統背景があり、同じヘロドの系統でも、少なくともゴールドシップの牝系よりはずっと活力がある。
大舞台の長丁場という、「ここしかない」タイミングだと思う。
直線が平坦になるのは歓迎か——大逆転に期待する。

相手はゴールドシップで文句なし。
ただ、舞台が菊花賞だけに、この楽勝ムードがなんとも不吉ではある。
心情的にここで負けてもらいたくはないが・・・

単穴は・・・前々日売りでは意外と人気していて驚いたのだが、ユウキソルジャー(7枠15番)という馬にも少し目があるかな、という気がしている。
これもお母さんの系統がベールドインパクトや人気のフェデラルホール(1枠2番)などと同じリボーの系統だけに、こういう距離で意外な一面を見せそうな気がする。
比較的前に行く馬が多く、ここは(まともに出たときの)ゴールドシップのすぐ前後で競馬ができ、ゴールドシップが動くまではじっとしていられるのがプラス。

そして菊花賞といえばダンスインザダーク産駒だが、この馬の父・トーセンダンスはダンスインザダークの下・・・実はこれがこの馬を「単」まで考える一番大きな根拠である。

押さえは、どうしてこの連中が人気になってしまうのか・・・という不満もあるが、まずはフェデラルホール、それから当然スカイディグニティ(8枠16番)、大穴ではミルドリーム(7枠14番)、ディープ産駒のもう1頭からエタンダール(4枠7番)にした。

前走ゴールドシップとの大きな力差を感じたロードアクレイム(3枠6番)や、リアルシャダイが入ってはいるものの、いかにもフジキセキの子という印象もあるタガノビッグバン(8枠17番)は、買ってもほんの少しだけ・・・という気がしている。

いやぁ・・・買いづらい・・・

◎ ベールドインパクト
〇 ゴールドシップ
▲ ユウキソルジャー
△ フェデラルホール
△ スカイディグニティ
△ ミルドリーム
△ エタンダール

サンプル15

G?Tホースにはなれなかったけれど、ファンに愛された名馬に触れる「真説・名馬列伝」です。


「真説・名馬列伝#1〜ヤシマソブリン(第55回菊花賞)」

今週は牡馬クラシックの最終戦の菊花賞である。
菊花賞というと、やはり私の場合どうしてもメジロマックイーンの思い出が最初に浮かんでくるのだが、他にも圧倒的に強かったビワハヤヒデや、今年の主役の1頭であるゴールドシップにどこかオーバーラップするところのあるヒシミラクルらをはじめとする「強い菊花賞馬」の思い出もたくさんある。

しかし今回は敢えて「強い(強すぎる)菊花賞馬」の陰に隠れて、この馬ほど生まれた時代が悪かった馬もいない印象もあるが、しかしきっと多くのファンから愛され、そして何よりも私が愛した名馬の思い出について語ろうと思う。
記念すべき第1回目の「真説・名馬列伝」にご登場いただくその名馬の名を、ヤシマソブリンという。

ヤシマソブリンを覚えているファンは、おそらく同世代の「強すぎる菊花賞馬」のことも当然覚えていることだろう。
もちろん、その菊花賞馬とは、史上5頭目の三冠馬・ナリタブライアンである。
あの菊花賞は、ヤシマソブリンの単勝、複勝、ソブリン−(エア)ダブリン、ソブリン−ブライアンの馬連という、現在の私では考えられないようなカタイ馬券を買っていた。

ヤシマソブリンが好きになった理由は他でもない、馬券で高配当を私にプレゼントしてくれたからである。
あれはまだ、私が今以上に競馬のことをまったく理解していない当時だった。

当時はダービートライアルとして府中の2000m戦で行われていたG?Uの「NHK杯(NHKマイルカップの前身)」に、ヤシマソブリンは10番人気の人気薄で出走していたのだ。
あのレースの1番人気は、2歳チャンピオンにして皐月賞馬となったナリタブライアンの最大のライバルと目されていたナムラコクオーであった。

そして、勝ったのもそのナムラコクオーであった。
その2着、ほとんど最後方から直線一気の末脚でぶっ飛んできたのが、まったくノーマークだったヤシマソブリンであり、このレースを皮切りに、グングン成長を遂げたのであった。

そういう重要なレースで馬券を的中したのだから少しは自慢してもいいはずだが、ヤシマソブリンを買った理由は決して自慢できるようなものではない。
よくありがちな理由である。
そう——名前がやたらとかっこよく感じられたからである。

当時は本当にいろいろな意味で楽しかった。
私生活でも楽しくないはずがない学生時代だったし、競馬でも新しい「私にとっての名馬」に次々と出会えることがうれしくてしかたがない時期であった。

マックイーンに競馬の基礎を教えてもらって、そしてビワハヤヒデや、センゴクシルバーなど、芦毛の名馬や個性的な名馬に出会い、競馬がとにかく楽しく仕方がなかった。
競馬の知識を少しでも吸収しようと、おそらく人生のどの瞬間よりも貪欲だったと思う。

その意味では、メジロマックイーンが私を競馬の世界に導いてくれて、そしてビワハヤヒデとナリタブライアンの兄弟や、大好きだったステイヤーのセンゴクシルバー、そしてもちろん、ダービー2着のエアダブリンや、ダービーで本命にしていたノーザンポラリス、さらにはサクラローレルやこのヤシマソブリンらこそが、私に競馬の魅力を教えてくれた、私にとってのかけがえのない名馬たちなのである。

ダービーも同じく直線で猛前と追い込んで3着となり、そして夏の福島のラジオたんぱ賞(現在のラジオNIKKEI賞)を、あのタイキブリザードを破って快勝し、続く古馬オープン特別も快勝したヤシマソブリンは、菊花賞のトライアルである神戸新聞杯も京都新聞杯も、あるいはメジロマックイーンが出走した3000mの嵐山ステークスも使われず、菊花賞に直行していた。

私は先にも触れたように、ヤシマソブリンと並んでノーザンポラリスというとんでもない出遅れグセがある、これも強烈なキャラクターの持ち主だったノーザンテースト産駒が大好きであり、ディープインパクトと同じくダービーを5馬身ぶっちぎったナリタブライアンの三冠達成の可能性は極めて高かったものの、そのナリタブライアンが京都新聞杯で、あのスターマンによもやの逆転負けを喫する始動戦を終えたため、あの年の菊花賞は、「1強」で間違いないはずだったのに、必要以上に異様な盛り上がりだったことを思い出す。

というのも、ヤシマソブリンは夏を順調にクリアして万全の態勢で菊花賞に臨むことができたし、ノーザンポラリスに至っては、ただでさえ注目の嵐山Sを、例によって出遅れて道中でひっかってしまい、向こう正面では早々と先頭に立ち、普通ならば目を覆うような惨敗を喫してもおかしくない荒っぽいレースながら、古馬を相手に6馬身差くらいのレコード勝ちを収めていたからである。

ところが、そのノーザンポラリスが脚部不安を発症したため、菊花賞に出走できなくなってしまい、もう私の心は完全に迷いが吹っ切れていた。
あのブライアンを破ることができるのは、ヤシマソブリンしかいないと、そう確信したのだ。

しかし、結果はご存じのとおりである。
ヤシマソブリンは、ラジオたんぱ賞で覚えた好位差しの競馬を菊花賞でも敢行し、強い2冠馬に真っ向勝負を挑んだが、しかし今度こそ完璧に仕上がっていたブライアンの唸りを上げる豪脚の前に、なんと7馬身差という記録的大差の2着に敗れるのである。

思えば、あのときの悔しさこそが、今の私の「強いものに挑む気持ち(言いかえれば、ヒネクレ根性)」を植え付けてくれたのではないかという気がする。

ヤシマソブリンは、ゴールドシップと同じく日高の小さな牧場の出身の馬であったが、引退後は種牡馬入りを許され、が中央競馬でデビューしたたった1頭の産駒がデビュー勝ちを果たしたことがけっこう大きなニュースになった。
あれには、何かヤシマソブリンの意地を見たような気持ちになったものだ。

その後種牡馬を引退して、生まれ故郷で余生を送っていたそうだが、残念ながら今年の春、その生涯を閉じたという。

大好きだったヤシマソブリン、私はこの名馬をずっと忘れない。

ヤシマソブリン(牡・1991−2012)・・・
父・ミルジョージ、母・エゾミドリ、その父・ヴィミー
主な勝ち鞍・成績・・・ラジオたんぱ賞(G?V)、菊花賞(GI)2着

サンプル14

「第73回菊花賞(GI)」

牡馬クラシックの最終戦・菊花賞である。
注目は、ダービーを優勝してキングジョージで大敗したディープブリランテがどうやら間に合いそうだということ。
この馬がいる、いないでは、秋華賞のチェリーメドゥーサが動く、動かないくらいの盛り上がりの差がある。

ダービー馬のディープブリランテは、一般的に考えれば菊花賞よりも天皇賞・秋のほうがずっとこの馬自身には向いているはず。
であるにもかかわらず、なぜ陣営は、時間的に余裕のない菊花賞を選択したか——
ここが大きなポイントである。

おそらくその答えは「天皇賞に比べてはるかに相手が弱いから」であり、とすれば、「弱いメンバーの中で一番強そうな馬であれば、十分勝てる」という判断があったからではないか。
つまり、ディープブリランテ陣営は、おそらく菊花賞で1番人気になるゴールドシップが相手であれば、適条件でなくても勝てる、という読みか。

対するゴールドシップ、ディープブリランテとの事実上の一騎打ちとなるのは、今年のクラシック戦線がにわかに動きを見せた、あの共同通信杯以来である。
あのときには、もうこの2頭の勝負付けは終わったのではないかというくらい、並ぶ間もなくゴールドシップがディープブリランテを差し切っていた。

そして、ブリランテ陣営がどんな考え方であろうと、やはりこの距離に適性があるのはゴールドシップのほうであることはほぼ間違いない。

ただ、ゴールドシップも言われるほど不安がないというわけではない。
何しろ今回は社台系の馬が非常に多く出走してくるし、エンジンの性能の高さは今さらいうまでもないが、とにかく前半の位置の取り方は、今どきこんな馬がいるのかというくらいにヘタクソ・・・というか、前半はあまり走る気がないタイプである。

ダービーの馬場入りおよびその後のやんちゃぶり(集中力を切らせていて、全然やる気がなかった)や、神戸新聞杯の追い切り時の相当いい加減な稽古を見せられてしまうと、これでもし勝ってしまったら「前代未聞の不真面目な2冠馬」が誕生することになるわけだから、少しは再検討の余地が残ると言えば残る。

それに、秋華賞を含む土日の騎乗内容からもわかると思うが、とにかく岩田騎手、「追われる立場」はからっきしダメである。
今回、実績としてはややダービー馬のブリランテが上回るものの、しかし実際のところ人気にしろ対戦成績にしろ(対戦成績はゴールドシップの2勝1敗)、完全にディープブリランテがゴールドシップを「追う立場」である。

こういうときの岩田騎手は怖い。
おそらく本人も秋華賞の不可解な(というか、不本意な)競馬のことは十分すぎるほど理解しているはず、ここは期するものがあるに違いない。

と、いろいろ考えを巡らせると、今年はいつも以上におもしろい菊花賞になる。
生真面目で常に全力をおしみなく発揮し、いつでも一生懸命走るダービー馬のディープブリランテと、基本的に不真面目でちょっとしか本気を出さず、ズルをさせれば喜んでズルをする皐月賞馬ゴールドシップ・・・こんなに好対照なチャンピオン対決もこれまでになかったと思う。

ワールドエースやトーセンホマレボシのリタイアによって盛り上がりを欠いてしまった感もある菊花賞であるが、いや、あまりにもキャラクターも脚質も色も真逆のこの2強対決、実に興味深いではないか。
何より、春のチャンピオンが無事に秋に駒を進め、しかも「クラシック」の菊花賞に出て来てくれるのが何よりありがたいことだ。

加えて、その2強が万全とはいえない(ゴールドシップに関してはほぼ恒久的に・・・)状況であれば、近年はただでさえ波乱の可能性が大きい菊花賞、当然伏兵陣の出る幕なんていくらでもある。

血統的に、あるいはタイプとしての大駆け候補は枚挙にいとまがない。
とはいえ、その伏兵を頭に据えてビッグな配当を狙うのか、それとも2強には逆らわず、着穴狙いで手堅くいくのか・・・このあたりの選択は意外に難しいのではないかという気がするし、このレースの大きなポイントともなる。

ディープブリランテの折り合いはどうか、ゴールドシップは本気で走るのか、そして伏兵の台頭はどこまで・・・と、盛り上がらないどころか、近年でも非常におもしろい菊花賞の部類に入るような気が私にはする。

私はもう心を(とっくの昔に)決めているが、あとは伏兵探しである!

サンプル13

ホクトスルタンは、永遠に競走馬です。


「走れ!ホクトスルタン!」

結果としては残念ながらオルフェーヴルの力をもってしても、やはり凱旋門賞の、そしてヨーロッパの競馬の歴史を塗り替えることは不可能だった。
凱旋門賞は、ヨーロッパの競馬の歴史を彩る名馬たちと、そうした名馬にかかわったホースマンたちによって、長い歴史の中で「ヨーロッパ最高峰」という地位を築き上げられ、そしていつしか人は「世界最高峰のレース」と呼ぶようになった。

競馬には歴史がある。
それは、ヨーロッパだけではなく、アメリカにも、そしてもちろん日本にも、それぞれが歩んできた長い歴史がある。

オルフェーヴルは歴史を変えることができなかったけれど、オルフェーヴルが敗れた凱旋門賞の翌日、世界の競馬の歴史の「あるワンシーン」が、静かに幕を下ろした。

凱旋門賞前にも、私はホクトスルタンを「応援する」ことを目的にコラムを書いたが、残念ながらもうそれはできなくなってしまった。
メジロマックイーンの事実上の最後の産駒であり、ヘロドから続いてきた直系血脈の末裔、その最後の1頭であったホクトスルタンが、昨日静かに短い生涯をとじた。

もちろん、メジロマックイーンをはじめとするヘロド系血脈は、これからもオルフェーヴルやドリームジャーニーによって今後広まりを見せるはずである。
今回の凱旋門賞の結果(というか、内容)から判断して、そしてオルフェーヴルとまったく同じ血が通った兄・ドリームジャーニーがまだ子を世に送り出していないことから考えると、もしかしたらオルフェーヴルにはヨーロッパから種牡馬としてのオファーがかかるかもしれないという気がする。

少なくとも、ディープインパクトの子供たちがそうであるように、オルフェーヴルや、あるいはドリームジャーニーの子供たちも、ヨーロッパのターフを走る日もきっと近いのではないかという気がする。

だから、確かにホクトスルタンの死によって、「競走馬の三大始祖」と呼ばれる大河の一本がここで断たれてしまうのは、競馬ファンとしてとても残念ではある。
でも、そんなこととは別に、私にとってはかけがえのない名馬であったホクトスルタンの死によって、私の中でも何か大きなものがひとつ消えてしまったような喪失感に今後苛まれることになる。

みなさんはホクトスルタンという馬をご存知でしたか?
もう忘れてしまったファンも多いかもしれない。
ヴィクトリーが皐月賞を勝ち、ウオッカがダービーを勝ち、そして菊花賞をアサクサキングスが勝った、あの世代である。
同期には宝塚記念と有馬記念、そして朝日杯を勝ったドリームジャーニーがいた。
あの世代の中でも、非常にファンの多かった芦毛馬である。

もちろんメジロマックイーンの子であるという理由もそうだったが、私にとってはこちらもかけがえのない名馬であったサマーサスピションとローゼンカバリーの兄弟と同じファミリーの出身であったことも手伝って、同じ産駒の中でも特にホクトスルタンを強く応援していた。

菊花賞に出走できたあの日は本当にうれしかった。
まあまだスルタンには荷が重いだろうと思いながらもホクトスルタンとドリームジャーニー2頭軸の馬券を少し買って気楽に見ていた。
最後の直線まで手ごたえは楽で、勝ってしまえ!と心の中で叫んだ。

その次のサンシャインステークスでは6馬身差のぶっちぎりで優勝を果たし、「父子四代」の偉業も現実味を帯びて、あのときにはもう天皇賞に出走してくれと毎日のように祈っていた。
そしてその天皇賞でも、菊花賞よりもはるかに力強い走りで4着という好走だった。
ゴール寸前まで、マックイーンファンに夢を見せてくれた。

続く目黒記念の優勝は本当にうれしかった。
馬券を的中させてもらったうれしさ以上に、ホクトスルタンがステークスウィナーの仲間入りを果たしたことが本当にうれしかったのだ。
ノリちゃんが、G?Uでは珍しくうれしそうなガッツポーズを見せていたのも本当にうれしかった。

ただ、結果的にマックーン産駒の男馬では、これが最初で最後の中央重賞勝利となってしまった。
お父さんに似た雄大な馬体のホクトスルタンは、お父さん孝行でもあったのだ。

しかし、ホクトスルタンの脚元の弱さ、体質の弱さが、それ以降のスルタンを最後まで苦しめたことになる。
1年以上の長期休養をはさんで、得意の長距離戦で好走するも、どうしても休みがちのスルタンが不憫でならなかった。

そして歳を重ね、騎手時代はジャンプの名ジョッキーであった田中剛厩舎に転厩したときには、当然入障の可能性が大きくなったことを悟った。
その予感は的中し、ホクトスルタンはジャンプホースとして再起を目指した。

ジャンプに入ってからも、ホクトスルタンの成績だけはチェックしていた。
映像はどうしても確認する気もちにはならなかった。
平地時代の晩年の姿から、ホクトスルタンはもう昔のホクトスルタンではなくなってしまったと思ったからだ。
それに、私が本当の意味での競馬ファンではないからだろう・・・たぶん。

本当の競馬ファンではないから、チェックしていたスルタンの成績が次第にどうでもよいものに思えてきた。
それとは裏腹に、スルタンにとって新しい戦いの舞台で、一度だけ勝利の味を知ってほしと思った。
完全に矛盾した感覚だった——私の人間性そのものだ。

しかしいつしか、スルタンの勝利を願わなくなっていた。
ただ、ホクトスルタンが無事にゴールインすることだけを願うようになった。

最後のレース、はじめてホクトスルタンのジャンプの映像を見た。
競走馬としてのホクトスルタンを見るためではなく、怪我の程度がどの程度であるかを確認するためだけに、そのときまだ症状を知らなかった私は、スルタンの最後の映像を見た。
そして私は、大きな間違いをしていたことを知った。

ホクトスルタンは最期まで競走馬であった。
ゴール寸前で上体を激しく揺らして減速しながら、縮みあがるような痛みに耐えながら、4コーナーではズルズル後退していったホクトスルタンを必死にムチ打っていた西谷騎手をなんとか落とさないように、死力を尽くしてゴールを目指し、そしてホクトスルタンは立派に最後のゴールインを果たした。

私の眼に映ったのは、美しい真っ白な姿になって傷ついた1頭の芦毛馬と、最後まで自分をムチ打った騎手を守ろうと懸命に痛みに耐え、そしてゴールを目指した競走馬としてのプライドであった。


競馬には、長い歴史がある。
世界の競馬、ヨーロッパの競馬、そして日本の競馬・・・
その長い歴史の中で、いろいろな形の「淘汰」が繰り返され、競馬は前進するのだ。

マックイーンの死に際し、先代の池江元調教師はいつもの柔和な表情と口調で言った。
——悲しみを乗り越えていかなければ、競馬は進んでいかないですからね。マックイーンもわかってくれると思います・・・

ただ1頭、ゴール前に佇んでいたホクトスルタンの映像を見ながら、不意に天皇賞の馬場キャスターの実況を私は思い出していた。
強かったころのホクトスルタンのグレーの馬体が私の中で躍動していた。

——これから京都の奥深い2コーナーに差し掛かってまいりますが、さあ先頭はホクトスルタン、果敢に逃げてリードは3馬身から4馬身!
メジロマックイーンと、マックイーンファンの夢を乗せ、ホクトスルタンが先頭だ・・・


そうだ、と思った。
ホクトスルタンは永遠に競走馬なのだ。
私の中で、永遠に競走馬であり続けるのだ。

だから、さよならなんて、言わない。
絶対に言うものか!

そのかわり、これから先もずっと競走馬であり続けるホクトスルタンに贈る言葉は——

走れ!ホクトスルタン!

サンプル12

競馬には、どうにもできない悲しい側面もあります。


「頑張れホクトスルタン」

シゲルスダチが無事にレースを終え、その応援掲示板に行ってみた。
この掲示板は、メイショウベルーガが故障を発症した昨年、あの悪夢の天皇賞・秋で知った。

当時、そして、今もなお、新しい命を宿したメイショウベルーガの大ファンである私は、温かいベルーガのファンの方々が懸命に応援しているその掲示板を見てどれだけ救われたことか、正直想像がつかない。
そしてまた、今回も同じような思いでホクトスルタンの掲示板を繰り返し確認している。

オルフェーヴルの凱旋門賞のことがずっと気になって仕事があまり手に付かないという、まあ大人としては少なからず社会的適応力を欠いている私は、今度はオルフェーヴルの凱旋門賞のことも2割引で応援しなければならない。

オルフェーヴルやゴールドシップと同じ、メジロマックイーンの血を引く、そして、事実上マックイーンの本当の意味でのラストクロップであるホクトスルタンが、今日ゴール前ほんの7〜80m手前で故障を発症し、脚を引きずりながらゴールインする事故があった。

ケガは深刻である。脱臼だという。
競走馬にとって、競走能力云々を置いても絶望的といえる、最悪な診断が下された。
普通でいえば、即安楽死の選択がとられるところだとは思うし、その覚悟ももう私にはできている。

ところが、これは正直どういう事情なのかはわからないが、ホクトスルタンは安楽死という選択を今現在では免れているのだ。

基本的に有馬記念や宝塚記念のファン投票などには一切参加しなかった私だが、しかし、産駒が走らないと散々陰口を叩かれたメジロマックイーンの子供たちの中で、唯一「天皇賞父子四代制覇」という、マックイーンファンならば誰もが抱かないではいられない夢を、私もホクトスルタンの大きな背中に描き続け、グランプリのたびにホクトスルタンの名前を投票フォームに記入していた。

基本的には絶望であることは変わりない。
だからまず競走馬としてターフに戻ってくることもないし、BMSがサンデーサイレンスであるホクトスルタンに種牡馬としての需要があるはずもなく、ということは、事実上ヘロドから糸のように続いてきた直系の血は、ここで絶えることになるのだろう。
パーソロン系が全盛であった時代を知る私にとって、これはあまりにも大きな喪失感である。

しかし、そんなことはどうでもいい。
おそらく1%もない「生きる道」をホクトスルタンにかかわる人々は選択し、これからは現役時代などとは比べられないくらいのつらく厳しい闘いが、ホクトスルタンには待っているのだ。

おそらくスルタンにとってこれが最後の闘いになるはずである。
そして闘う以上、勝つのが競走馬の定めだ。

負けるな、ホクトスルタン。
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