2017年09月30日
人馬の「経験」が生きる〜第96回凱旋門賞(G1)
日本のホースマンと競馬ファンの夢を乗せ、今年は世代最強のサトノダイヤモンドと、大ベテランのサトノノブレスの2頭が凱旋門賞にチャレンジする。どちらもディープインパクト産駒で、先代の池江元調教師がアドバイザーに就任して以来馬主人生の大転換に成功した「サトノ」の勢いが、長年苦杯をなめ続けてきた日本の、そしてヨーロッパ以外の世界中の「惨敗の歴史」に終止符を打つか、大注目である。
近年は日本から毎年のように世界最高峰の凱旋門賞にチャレンジするようになり、実際現地の日本馬に対する評価も「いつでも勝てるレベルにある」と、エルコンドルパサーのとき(日本馬に勝てるはずがないという評価だった)にくらべればまったく異なる次元で語られるようになった。
しかし実際にはナカヤマフェスタとオルフェーヴル(2回)のステイゴールド産駒2頭しか勝負になっていないというのは、実は看過できない現実でもある。ステイゴールド産駒ばかりというのは、確かにヨーロッパの馬場を考えれば納得できなくもないが、近年チャレンジが増えたディープインパクト産駒が相手にしてもらえていないのは、これはたぶん「偶然」に近いと解釈するほうが正しいと個人的には考えている。
要は、キズナにしてもハープスターにしてもマカヒキにしても、その着順や内容が示すとおり、全然力が足りていなかっただけだと個人的には解釈している。ディープ産駒がどうとか馬場がどうとかはいえるレベルには、残念ながらこれまではなかった。
それでは今年チャレンジするサトノダイヤモンドは果たしてどうかというと、相手があることだから絶対ではないが、過去3頭のディープ産駒にくらべればはるかに可能性が高いと感じている。まあさすがにエルコンドルパサーやディープインパクト、オルフェーヴルほどの期待感ではないけれど。まずは相手が問題になる。
凱旋門賞である。だいたいどの年も「とてつもないバケモノ」という高い評価を得た馬が数頭エントリーしてくる。エルコンドルパサーのときは勝ったモンジューがそうだったし、ディープインパクトのときはなんとディープ自身がそういう評価で臨んだ凱旋門賞であった。今年はどうかというと、今年もいますねぇ・・・すごそうなのが。
ナサニエル産駒の3歳牝馬エネイブル(ん、イネイブル?まさかエナブレじゃねえだろうな)である。サドラーズウェルズの3×2という、正直凱旋門賞タイプではないとてつもないクロスがこの馬の血統的特徴。サドラーズウェルズ系(ガリレオ系)ばかりの凱旋門賞だが、その標本のような血統背景にあるのがエネイブルイネイブルエナブレである。
まあ例年強い強いといわれながら走ってみたらぜーんぜんダメじゃんということが起こるのも凱旋門賞の特徴で、まあどうせエネイブルだかイネイブルだかエナブレだかも大したことねえんじゃねえの?と思いつつ、割と安心しながら映像を見てみたのだが、この馬はやっぱり、
つええええええ!
と思ってしまった・・・なんというか、サドラーズウェルズの強烈なクロスが最も理想的な形で体現された強さというか、古風なヨーロッパのサラブレッドというか、そんなイメージである。
日本馬の強さというと、エルコンドルパサーのような絶対的なスピードやディープインパクトのような絶対的なキレ味、そしてオルフェーヴルのような絶対的な爆発力に表現されるが、このエネイブル、もしくはイネイブル、あるいはエナブレはちょっと違う。
先行してゴール直前かのように激しく追い出され、ジリジリジリジリジリジリ・・・と長い直線で差を広げ、後続の体力を削ぎ落すような、そんなタイプである。追えば追うほど手応えがラクになっていくという、日本にはまずいないタイプ。
あ、いた・・・そう、オルフェーヴルの祖父メジロマックイーンがまさにこのタイプだった。ただ、マックイーンはもっと早くスパートして強引にスタミナ勝負に持ち込むのに対し、エネイブルだかイネイブルだかは、ほんとうに底力勝負というか、総合力で勝負できるタイプである。まあ個人的にもすごく好きなタイプの競走馬である。
で、問題はこんなバケモノみたいな馬に、どこかひ弱いところがあるディープ産駒のサトノダイヤモンドが勝つことが可能なのか、という点である。実は、今回私の本命はサトノダイヤモンドである。サトノノブレスはちょっとごめんなさいなのだが、まあこれは仕方のないところだろう。
前回のフォワ賞の惨敗は、正直ショックだったが、中途半端に勝つよりは、盛大に負けたほうが本番に向かうにあたっては絶対に有利である。この点はプラスにとらえることができる。
そして多くの意見のように、ディープ産駒だから馬場が合わなくて・・・と考える人であれば、やっぱりどう転んだってサトノダイヤモンドに勝ち目はない。しかし個人的には、フォワ賞のサトノダイヤモンドの直接の敗因は馬場ではないと踏んでいる。
ペースが問題だったように思う。競馬センスのかたまりのようなサトノダイヤモンドが道中何度も頭を上げ、ルメールにゴーサインを再三促すシーンがあった(サトノノブレス川田がペースメーカーとして機能しなかった?)。ペースのちがいに戸惑っていたというほうがおそらく大きいと思う。
サトノダイヤモンドは、オルフェーヴルのような「何でもオッケー」の天才肌ではない。しかし頭の良さは抜群。オルフェーヴルのようなズル賢さではなく、人間の指示を正確に理解し、人間の意図通りに実行できる際立った頭の良さがある・・・前回の敗戦が、サトノダイヤモンドにとっては非常に大きな経験になる。
もう1つ。私は天皇賞春の、あの想像を絶する厳しい競馬を経験したことも、サトノダイヤモンドにとっては非常に大きなプラスになるとにらんでいる。もうこれ以上走れない・・・というくらいバテにバテたサトノダイヤモンドであったが、あれでつぶれてしまえばもうそれまでである。
前回の負け方を見て、おそらくサトノダイヤモンドは大丈夫なのではないかと直観した。その不安が完全に拭われたわけではないが・・・いずれにしても、新馬を見たときから、今までのディープ産駒とは全然違う!と感じていた私の感覚がやっぱり正しかったのだと証明されるときが、いよいよ近づいていると信じる。
ルメールはもう10回目の凱旋門賞挑戦であるという。おそらくルメールにとっても10回目にして最大のチャンスを実感しているはずである。正直、昨年のマカヒキよりははるかに可能性は大きい。今年は大本命の3歳牝馬だけでなく、英愛のセントレジャーをそれぞれ制したスタミナ自慢たちも出走してくる。エネイブル/イネイブルをめぐり前は熾烈になる・・・13番枠は意外と有利か?おそらくルメールの勝利へのシミュレーションも完成しているだろう。
そして、先代の時代にディープインパクトで、そしてオルフェーヴルで2度凱旋門賞にチャレンジした池江厩舎の経験値は、前回の負けでゆるぐほど脆弱な自信ではない。私も人馬の経験を信じ、今年はサトノダイヤモンドを心情的にも馬券的にも応援しようと思う。
◎ サトノダイヤモンド
〇 エネイブル(イネイブル、エナブレ)
▲ ウィンター
△ ザラック、クロスオブスターズ、カプリ、ブラムト、セブンスヘブン
近年は日本から毎年のように世界最高峰の凱旋門賞にチャレンジするようになり、実際現地の日本馬に対する評価も「いつでも勝てるレベルにある」と、エルコンドルパサーのとき(日本馬に勝てるはずがないという評価だった)にくらべればまったく異なる次元で語られるようになった。
しかし実際にはナカヤマフェスタとオルフェーヴル(2回)のステイゴールド産駒2頭しか勝負になっていないというのは、実は看過できない現実でもある。ステイゴールド産駒ばかりというのは、確かにヨーロッパの馬場を考えれば納得できなくもないが、近年チャレンジが増えたディープインパクト産駒が相手にしてもらえていないのは、これはたぶん「偶然」に近いと解釈するほうが正しいと個人的には考えている。
要は、キズナにしてもハープスターにしてもマカヒキにしても、その着順や内容が示すとおり、全然力が足りていなかっただけだと個人的には解釈している。ディープ産駒がどうとか馬場がどうとかはいえるレベルには、残念ながらこれまではなかった。
それでは今年チャレンジするサトノダイヤモンドは果たしてどうかというと、相手があることだから絶対ではないが、過去3頭のディープ産駒にくらべればはるかに可能性が高いと感じている。まあさすがにエルコンドルパサーやディープインパクト、オルフェーヴルほどの期待感ではないけれど。まずは相手が問題になる。
凱旋門賞である。だいたいどの年も「とてつもないバケモノ」という高い評価を得た馬が数頭エントリーしてくる。エルコンドルパサーのときは勝ったモンジューがそうだったし、ディープインパクトのときはなんとディープ自身がそういう評価で臨んだ凱旋門賞であった。今年はどうかというと、今年もいますねぇ・・・すごそうなのが。
ナサニエル産駒の3歳牝馬エネイブル(ん、イネイブル?まさかエナブレじゃねえだろうな)である。サドラーズウェルズの3×2という、正直凱旋門賞タイプではないとてつもないクロスがこの馬の血統的特徴。サドラーズウェルズ系(ガリレオ系)ばかりの凱旋門賞だが、その標本のような血統背景にあるのがエネイブルイネイブルエナブレである。
まあ例年強い強いといわれながら走ってみたらぜーんぜんダメじゃんということが起こるのも凱旋門賞の特徴で、まあどうせエネイブルだかイネイブルだかエナブレだかも大したことねえんじゃねえの?と思いつつ、割と安心しながら映像を見てみたのだが、この馬はやっぱり、
つええええええ!
と思ってしまった・・・なんというか、サドラーズウェルズの強烈なクロスが最も理想的な形で体現された強さというか、古風なヨーロッパのサラブレッドというか、そんなイメージである。
日本馬の強さというと、エルコンドルパサーのような絶対的なスピードやディープインパクトのような絶対的なキレ味、そしてオルフェーヴルのような絶対的な爆発力に表現されるが、このエネイブル、もしくはイネイブル、あるいはエナブレはちょっと違う。
先行してゴール直前かのように激しく追い出され、ジリジリジリジリジリジリ・・・と長い直線で差を広げ、後続の体力を削ぎ落すような、そんなタイプである。追えば追うほど手応えがラクになっていくという、日本にはまずいないタイプ。
あ、いた・・・そう、オルフェーヴルの祖父メジロマックイーンがまさにこのタイプだった。ただ、マックイーンはもっと早くスパートして強引にスタミナ勝負に持ち込むのに対し、エネイブルだかイネイブルだかは、ほんとうに底力勝負というか、総合力で勝負できるタイプである。まあ個人的にもすごく好きなタイプの競走馬である。
で、問題はこんなバケモノみたいな馬に、どこかひ弱いところがあるディープ産駒のサトノダイヤモンドが勝つことが可能なのか、という点である。実は、今回私の本命はサトノダイヤモンドである。サトノノブレスはちょっとごめんなさいなのだが、まあこれは仕方のないところだろう。
前回のフォワ賞の惨敗は、正直ショックだったが、中途半端に勝つよりは、盛大に負けたほうが本番に向かうにあたっては絶対に有利である。この点はプラスにとらえることができる。
そして多くの意見のように、ディープ産駒だから馬場が合わなくて・・・と考える人であれば、やっぱりどう転んだってサトノダイヤモンドに勝ち目はない。しかし個人的には、フォワ賞のサトノダイヤモンドの直接の敗因は馬場ではないと踏んでいる。
ペースが問題だったように思う。競馬センスのかたまりのようなサトノダイヤモンドが道中何度も頭を上げ、ルメールにゴーサインを再三促すシーンがあった(サトノノブレス川田がペースメーカーとして機能しなかった?)。ペースのちがいに戸惑っていたというほうがおそらく大きいと思う。
サトノダイヤモンドは、オルフェーヴルのような「何でもオッケー」の天才肌ではない。しかし頭の良さは抜群。オルフェーヴルのようなズル賢さではなく、人間の指示を正確に理解し、人間の意図通りに実行できる際立った頭の良さがある・・・前回の敗戦が、サトノダイヤモンドにとっては非常に大きな経験になる。
もう1つ。私は天皇賞春の、あの想像を絶する厳しい競馬を経験したことも、サトノダイヤモンドにとっては非常に大きなプラスになるとにらんでいる。もうこれ以上走れない・・・というくらいバテにバテたサトノダイヤモンドであったが、あれでつぶれてしまえばもうそれまでである。
前回の負け方を見て、おそらくサトノダイヤモンドは大丈夫なのではないかと直観した。その不安が完全に拭われたわけではないが・・・いずれにしても、新馬を見たときから、今までのディープ産駒とは全然違う!と感じていた私の感覚がやっぱり正しかったのだと証明されるときが、いよいよ近づいていると信じる。
ルメールはもう10回目の凱旋門賞挑戦であるという。おそらくルメールにとっても10回目にして最大のチャンスを実感しているはずである。正直、昨年のマカヒキよりははるかに可能性は大きい。今年は大本命の3歳牝馬だけでなく、英愛のセントレジャーをそれぞれ制したスタミナ自慢たちも出走してくる。エネイブル/イネイブルをめぐり前は熾烈になる・・・13番枠は意外と有利か?おそらくルメールの勝利へのシミュレーションも完成しているだろう。
そして、先代の時代にディープインパクトで、そしてオルフェーヴルで2度凱旋門賞にチャレンジした池江厩舎の経験値は、前回の負けでゆるぐほど脆弱な自信ではない。私も人馬の経験を信じ、今年はサトノダイヤモンドを心情的にも馬券的にも応援しようと思う。
◎ サトノダイヤモンド
〇 エネイブル(イネイブル、エナブレ)
▲ ウィンター
△ ザラック、クロスオブスターズ、カプリ、ブラムト、セブンスヘブン