4.内壁空積工法(からづみこうほう)
10.4.1 適用範囲
内壁の石張り工法には 従来湿式工法や帯とろ工法が採用されてきた。 前者は、外壁工法で述べたように 裏込めモルタルに起因する石材のぬれ色や白華現象, そして施工に長時間を要することなどの理由から、内装の石張りには使用されなくなった。後者は帯とろの施工が現実には適切に行えないこと、また、一部には腰掛だぼの使用に起因するはく離事故が生じたことなどの欠陥が露呈した。これらのことを背景にして、図10.4.1に示す空積工法が登場し、内壁石張りの主流になった。
図10.4.1 内壁空積候補う壁縦断面図(JASS9より)
10.4.2 材 料
( a )石材の厚み
内装用の石材の厚みは、経済的理由によりますます薄くなる傾向にある。石厚が簿いと小さい衝撃でも破損し、はく落の危険性があるため「標仕」では20mmを最小有効厚さと規定し、薄い石材の使用への歯止めをかけている。
( b )石材の加工
石材の加工は 外壁湿式工法に準じる。内壁の石張りで石材の裏面処理が必要となる例は、風除室や浴室のように床面からら水分が取付け用モルタルを介して幅木石や根石に浸入し、 石材を破損する場合等である。
10.4.3 施 工
( a )取付け代
石材裏面から躯体面までの取付け代は、外壁湿式工法と同様に40mmとする。
よって、最低石厚さ 20mm以上を考慮すると設計上の仕上げ厚さは 60mm以上となる。
( b )下地ごしらえ
(1)工法
下地ごしらえは、外壁湿式工法に準ずる。あと施エアンカーエ法の例を図10.4.2に示す。
(2) 受金物の設置
受金物の設置は、外壁湿式工法に準ずる。しかし、石材の積上げ高さが3m以下、すなわち、一般的には天井高さが 3mに満たない室内の内壁では、下部の石材に伝達させる上部の荷重が小さいことから受金物を使用しなくてもよいこととしている。
(3)防錆処理
防錯処理については、外壁湿式工法に準ずる。
図10.4.2 あと施工アンカー工法の例(JASS9より)
( c )石材の取付け
(1)最下部の石材
最下部の石材の取付けは外壁湿式工法に準ずる。
(2)一般部の石材
一般部の石材は、下段の石材の横目地合端にだぼをセットし、目違いのないように据え付け、上端を引金物で緊結していく。内壁石張り特有のねむり目地の場合には糸面をとり、ビニルテープを下段石の上端に2箇所、両端より125mm程度の位置に張り付け、石材どうしの直接的な接触を避ける。これは、小口付近の石材表面の はま欠けを防止するための策である。
はま欠け:
エッジに強い力が加わることでエッジを基点に貝殻状に表面が欠けた状態。
深さが浅ければ強度的にさほど問題にはならない。
標準的な取付け工法の詳細を図10.4.3に示す。
図10.4.3 標準的な取付けの詳細(断面図)(JASS9より)
(3)金物の固定
( i )引金物
空積工法の場合は、下地と石材とは引金物により緊結し、その回りを取付け用モルタルによって固めるが、この取付け用モルタルは、引金物の固定及び圧縮材として重要であり、石張り後に破損、脱落してはならない。したがって、単に引金物回りの被覆とするのではなく、躯体と石材との間に所定の寸法となるよう団子状に充槙する必要がある。このため、取付け用モルタルの充填に先立ち、引金物取合い部にポリエチレンフォームのような適切なバックアップ材を挿入し、これを型枠代わりとして充填する。
(?A)かすがい
かすがいは、出隅部の隣り合う石材の相互の位置を固定するために使用する。
(?B)だぼ穴充填材
だぽ穴の充填材としては、一般にセメントペト又は樹脂を使用するが、ねむり目地の場合には、だぽ穴に樹脂を使用すると樹脂のはみ出しにより石材相互が接着され、石材の動きを拘束することになるため避ける。
(4)補強
空積工法の場合は、石材の裏面が空洞となっているため、衝撃等による割れのおそれがある。 このため、衝撃の可能性の高い床上 1.8m間の石材で、特に石材1枚当たりの寸法が大きい場合は、図10.4.4に示す引金物と取付けモルタルによる補強を行うこともある。この補強を あてとろという。
図10.4.4 あてとろの配置例
( d )裏込めモルタルの充填範囲
幅木に相当する壁面部分は、荷物台車、清掃用具及び靴先等による衝撃を受ける可能性がある。 これらの予期しない衝撃による石材の破損を防ぐために、幅木の裏面には裏込めモルタルを充填する。 幅木のない場合の最下部の石材裏面には、高さ 100mm程度まで裏込めモルタルを充填する。 その際、ぬれ色や白華の発生防止に留意する。
( e )目地
(1)一般目地
従来は、内装石張りの場合、意匠性を重視してねむり目地が採用されることが多かった。 しかし、兵庫県南部地震の被害状況調査によれば、構造体の変形により石材同士が目地部分で競い合うことによる被害が見られた。 これを避けるためには、内壁にあっても必要な目地幅を確保することが望ましい。
(2)伸縮調整目地
最下部の石材(根石)と床仕上げ材とは縁を切るため、伸縮調整目地を設ける。また、壁の出隅、入隅及び平面的に長い大壁は、通常の柱スパンごと( 6m程度 )に伸縮調整目地を設ける。 特に大理石仕上げで、ねむり目地とした場合は必須である。 窓枠等他の材料と取り合う部分にも伸縮調整目地を設ける。 地震による水平力を考慮した場合, 天井との取合い部の納まりとしては、壁面の石材を天井にのみ込ませるのではなく、図10.4.5に示すように天井をのみ込ませる方が天井材の衝突による石材の破壊を回避できる。
図10.4.5 天井との取合い部(JASS9より)