7.特殊部位の石張り
10.7.1 適用範囲
組積造に見られるアーチでは、石材には圧縮力しか作用しないようになっているが、現在、わが国で施工されるアーチ、上げ裏の石材は板材を吊る形式のため、石材に自重が長期荷重として作用するので、長期の曲げ及び引張り耐力が必要である。 石材の耐力も含め、いかに安全策を講ずるかが重要である。
屋外の笠木等では真夏には石材表面が 60℃以上にもなる。 石材の熱伸縮を吸収するため、伸縮調整目地を適当な間隔に設ける。花こう岩の場合、線膨張率は 6〜9 x 10 -6 /℃程度である。外壁等の部位が乾式工法であっても笠木、窓台等平場部分は湿式工法とすることが多い。白華の発生防止のため、笠木類を乾式工法で取り付ける時は金物が勾配なりに取り付けられるので、金物形状に注意する。
10.7.2 アーチ、上げ裏等の石張り
(a) 材料
(1)石材の厚み
石材の厚さは長期の耐力を見込み、十分な寸法を確保する。 溝加工や切欠きは避ける。
乾式工法同様石材の耐力が重要であるので、密度や吸水率等の一般物性のほか、曲げ、仕口部強炭を十分に把握しておく。
(2)石材の加工
(?@)見上げ面
見上げ面は原則として、目地合端にだぼ・引金物用の穴を設ける。石材の幅又は長さが、350mmを超える場合は、吊りボルト用の穴を石材 1 枚当たり2 箇所設ける。
(ii) 下がり壁 ・カ石
下がり墜部分等は原則 として、縦目地合端にだぽ ・引金物用の穴を設け、引金物で保持する。
受金物用の力石は、斜めだぼ 2 本と接着剤併用で石材裏面に1枚当たり2箇所設ける。
なお、力石に代えて、アングル材をストー ンアンカーで固定する方式も用いられる。
(3)石材裏面の処理
アーチ、上げ裏の石材が万が一にも破損すると、すぐさま落下の危険が生じるため、ガラス繊維メッシュ等による裏打ち処理は有効である。
また、躯体コンクリートを伝わる雨水によるぬれ色や白華を防ぐために石裏面処理が有効である。
いずれの適用も特記されなければならない。
(b)取付け代
(1)湿式工法・空積工法
湿式工法及び空積工法の場合の取付け代(下地と石裏面の間隔)は,40mmを標準とする。
(2)乾式工法
乾式工法及び吊りボルトを用いる場合の取付け代は,70mmを標準とされている。
(c)下地ごしらえ
(1)見上げ面
湿式工法の場合は、流し筋工法を採用するが、上向きの溶接作業となるので防錆処理も含めて施工管理が重要となる。
乾式工法の場合は、壁面の場合とは異なり、先付けアンカーの適用を原則としている。
やむを得ずあと施工アンカーを採用する場合には、上向きに削孔して取り付けなければならいため、品質のばらつきや常時の下向き荷重に対して十分な安全率を見込んで計画する。 吊りボルトの取付けも同様に考える。
(2)下がり壁部分
荷重受金物を石材 1 枚当たり 2 箇所設骰する。
役物で L型にする場合は工場で一体化してくる。 当て石を接着し、合端にはかすがいを取り付ける。
(d)石材の取付け
(1)見上げ面
見上げ部分の石材の固定は、湿式工法では堅固な仮支持枠等で仮支えし、あいだぼ入れとし、引金物、受金物、吊金物を用いて,堅固に取り付ける。
吊りボルトは化粧ボルトを用いるが、意匠上吊りボルトを見せたくない場合は、厚めの石材とし、象眼する方法もある(図10.7.1 参照)。
乾式工法では石材自重による長期荷重が曲げや引張りとして作用するので、十分な安全率を見込む必要がある。
石材寸法を必要以上に大きくしないとか、金物個数を増やすなどである。
金物、治具の工夫により、仮支持枠類を省略できる。
図 10.7.1 上げ裏の施工
( 2) 下がり壁部分
湿式工法では荷重受けとなる力石又は金物を下地に取り付けた受金物に乗せ掛け、引金物、あいだぼにより下地に緊結する。
乾式工法では石材側面のだぼを介しファスナーで面外と鉛直方向の支持を兼用する例もあるが、施工性を考慮して自重受けとなる力石や金物を用いる場合が多い。
湿式工法、乾式工法とも上げ裏部の石材を工場で一体化したL型部材を用いる場合、上げ裏部の石材合端にもだぼを設け、引金物、ファスナーを設置する。
壁目地にシーリング材が施工されても裏面への雨水の浸入は長期的には防ぎようがなく、その雨水が下がり壁下部より滴下したり、上げ裏石内部に水がたまる故障例があるので、雨水排出機構を確保する必要がある(図 10.7. 2 参照)。
図10.7.2 上げ裏部 フラッシングの例
(e)裏込めモルタルの充填
湿式工法を採用した場合には裏込めモルタルを充填するが、その方法は外壁湿式工法に準じる。
( f )目 地
特殊部位では形状納まりが複雑となり、また、施工性も決して良くはない。加工や施工の誤差を吸収するためにも十分な目地幅を確保する。 したがって、他部位との取合い部は誤差の吸収に加え、石張り面の挙動を考慮した十分な幅の伸縮調整目地とする。
10.7.3 笠木、甲板等の石張り
(a) 材料
(1)石材の厚み
笠木、甲板の石材は使用状況に応じた厚さとし、特に屋外に使用する場合は十分な厚さのものを使用する。
笠木では石厚 4Omm以上を採用することが 望 ましい。
(2)石材の加工
(i)湿式工法
湿式工法では、石材の幅が、300mmを超える場合は、目地合端の片側、両端部より50mrn程度の位置に引金物用の穴あけ、目地合端両側、両端部より85mm程度の位置にだぼ用穴あけを行う。 石材の幅が、300mm以下の場合は、目地合端の片側、中央1箇所に引金物用の穴あけ、目地合端両側の両端部2箇所にだぼ用穴あけを行う。
幅の小さい石材ではだぽに引金物を取り付け、引金物用の穴あけをなくし、加工に伴う欠陥を少なくする工夫もある。
(ii) 乾式工法
乾式工法では目地合端両側に,2箇所だぼ用穴あけを行う(図 10.7.3 参照)。
図10.7.3 乾式工法による笠木の取付け例(JASS 9(一部修正)より)
(3)石材裏面の処理
モルタルが比較的多く使用される部位であること、また、笠木は雨水を直接受けるので、白華防止のための石裏面処理は積極的に行うべきである。
外整にゴンドラを降ろすときの養生不備による損傷や、無理な加力もあり、笠木には不具合が発生しやすいが、
人目に付かず軽微なうちの故障が発見されにくいので、破損時に備えた裏打ち処理も検討する。
(b)取付け代
「標仕」では、湿式工法の場合は 40mmを標準とし、乾式工法の場合は特記によるとしている。笠木下地となるパラペット天端は躯体に屋上側への水勾配を設け、雨水の滞留、流出による白華の発生等の不具合防止を固る。
(c)下地ごしらえ
(1)湿式工法
石材の幅が、300mmを超える場合は、径 9mmのアンカーを下地天端で2 列に、間隔 400mm程度に設けておき、これに引金物緊結用鉄筋を添え溶接する。
石材の幅が 300mm以下の場合は、下地天端中央に引金物を設けて石材を取り付ける。
(2) 乾式工法
所定の位置にアンカーを設け、笠木、窓台の天端で水勾配を設ける。
(d)石材の取付け
(1)湿式工法
笠木の長さは、900mm程度とし、下地清掃と十分な水湿しののち、目地合端の片側にだぼを取り付けておき、
他端は、引金物を下地鉄筋に留め付け、通りよく目違い等のないように, 裏込めモルタルを隙間なく充填して固定する。
(2)乾式工法
(?@)石材の輻が 300mm以下の場合は、両端部及び目地合端中央に1箇所ずつファスナーを設ける。
(?A)石材の幅が 300mmを超える場合は、両端部及び目地合端に2箇所ずつファスナーを設ける。
いずれもファスナーは外れ止めで、鉛直荷重の支持は裏込めモルタルによる。全充填を基本とするが団子状に設置する場合もある。
(e)目 地
外部の目地は 8〜10mmを標準とし、シーリング材を充填する。これは、止水及び変位吸収を目的としたもので、2成分形ポリサルファイド系シーリング材の使用が多い。 内部目地ではモルタル目地としてもよい。ただし、他部材との取合い部や、変位の予想される部分では伸縮調整目地とし、シーリング材を充填する。
(f ) 面台、棚板の据付け
笠木と同じく水平部材である屋内の面台や棚板の取付けは、床の石張りと同様に行う 。
10.7.4 隔て板
(a)材料
(1)石材の厚み
隔て板は一般的に自立壁となるので.薄い石材では思わぬ衝撃が加わった際に破損につながるため、厚さが特記される。 特記のない場合には40mmを標準とされている。
便所、浴室等に用いられるり隔て板の石質はテラゾが一般的であったが、近年は意匠上花こう岩や大理石の使用例が多い。
ただし、水回りでの大理石の使用には光沢の低下等の不具合が生じやすいので、その特質を踏まえて使用すべきである。
特に床にのみ込ませた石材の下部は、清掃時に汚れた水を吸い上げ、内部に染み込んだ汚れとなるので注意する。
(2) 石材の加工
石材の加工は、目地の合端にだぼ用の穴あけ、上端の端部にはかすがい用の穴あけを行う。
(b)工 法
隔て板と前板の固定方法は、一般的には石板上端を径 6mmのステンレス製かすがいを用い、併せて、縦方向に 2〜3 箇所程度径5mmのだぼを用いて固定する。
自立する隔て板は、床仕上げ内に 20mm以上のみ込ませ、モルタルにより固定する。適宜補強金物を用いる。
隔て板と前板の固定は縦方向に 2 箇所以上のだぼを用いて固定する(図 10.7.4参照)。
図 10.7.4 隔て板の例
10.8.1 石先付けプレキャストコンクリート工法
「標仕」に示された湿式工法、空積工法、乾式工法以外に、よく用いられるエ法として「石先付けプレキャストコンクリートエ法」がある。 石先付けプレキャストコンクリート工法は、石材をあらかじめ工場でプレキャストコンクリートに先付けすることによって仕上げとし、カーテンウォールのような部材として取り扱う工法である。
したがって、仕上げ工程の高所での危険な作業が減り、資材運搬の効率化や労働カ・輸送の削減、工期短縮、地震力や風荷重に対する安全性向上等の長所があり、湿式工法や乾式工法では対応できない高層の建物や柔構造の建物等に多く採用されている。また、特殊な部位や特別な性能(電波吸収等)をもたせる外壁で張り石仕上げとする場合は、ほとんどがこの工法である。
石先付けプレキャストコンクリート工法では,石材裏面の処理が十分に行えるので、ぬれ色や白華の発生を防ぐことができる。また、プレキャ ストコンクリートに先付けされている石材は、建物の動きによる変形が直接影響しないため、割れ等を生じることがほとんどない。
詳しくは 17章 3節 日本建築学会 「JASS 9 張り石工事」、同「JASS14 カーテンウォール工事」等を参照