08節 建具用金物
16.8.1 適用範囲
(b) 「標仕」では、金物の材質、形状、寸法、個数等が規定されている。しかし、既製建其にこれらの金物を取り付けるためには、改良を要するものもあり、「標仕」 16.8.1では、既製建具は、製作所の仕様で建具に見合った金物が取り付けてあればよいとしている。ただし、機能及び美観上疑問のある場合(腐食、損傷等)は、協議をして取り換えられるようにしている。
なお、金物の指定がない場合でも、建具の機能上必要なものは当然取り付けなければならない。
16.8.2 材質、形状及び寸法
(a) 金物の材質
金物に使用する主要な材料としては、表16.8.1に示すものがある。
なお、ステンレスとして使用されている材料には、SUS304やSUS430系でJIS規格品のSUS430J1Lのほか、SUS304と同等の耐食性を有するJIS規格品のSUS443J1もある。
「標仕」表16.8.1では、特記がない場合の金物の材質として、見え掛り部等の材質を金物の種類に応じて細かく規定している。
なお、見え掛り部の材質の指定は、防錆又は強度上必要なもの以外は、化粧として表面に現れる部分についてのみ適用される。例えば、ピボットヒンジの本体が鉄製でも、カバーがステンレスであれば、ステンレスの指定に合うことになる。
表16.8.1 金物に使用される主要な材料と製法(JASS 16より)
(b) 金物への名称又は略号の表示の目的は、メンテナンスや交換等の際の識別を容易にするためである。したがって、金物製造所又は建具製作所のいずれかの名称又は略号が表記されたものを使用する。
(c) アルミニウム製建具に使用する金物で、黄銅製のものにクロムめっきを行うのは、アルミニウムとの接触腐食を防止するためである。また、亜鉛合金製のものにクロムめっきを施すのは美観上の必要からである。
(d) 便所、洗面所、浴室、厨房等に使用するステンレス以外の金物にクロムめっき又はJIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)による協極酸化塗装複合皮膜(種類B)処理を行うのは、水分による腐食を防止するためである。陽極酸化旅装複合皮膜処理はアルミニウム合金の場合の表面処理である。
(e) 金物の種類
「標仕」表16.8.1では、金物が過度にならないように建具の形式に応じた金物の種類を規定している。
表中の*印の付いた金物の適用は、特記によって指定することとしている。
なお、表に示された金物は、建具に付属するすべての金物を網羅しているものではなく、この表以外で建具の機能上必要な金物は補足して付けなければならない。
また、表中でピボットヒンジの使用を屋内に限定しているのは、ガラス戸等で、ピボットヒンジをフロアヒンジと組み合わせて使用する場合の防犯性を考慮したものである。
(i) 開き戸の主な金物を図16.8.1に示す。
図16.8.1 開き戸の主な金物
(ii) 引戸の主な金物を図16.8.2に示す。
図16.8.2 引戸の主な金物
(iii) 「標仕」には規定されていないが、近年、鋼製建具や木製建具でよく使われるようになってきた折り戸の金物を次に示す。
?@ 防火戸に使われる折り戸の主な金物を図16.8.3に示す。 .
図16.8.3 折り戸の主な金物(防火戸)
?A物入等に使われる折り戸の主な金物を図16.8.4に示す。
図16.8.4 折り戸の主な金物(物入等)
(f) 錠のグレード
平成25年版「標仕」では、「標仕」表16.8.1のシリンダー箱錠及び本締り錠について、JIS A 1541-2(建築金物-錠-第2部:実用性能項目に対するグレード及び表示方法)によるグレード3以上と規定されたが、これは、主に事務庁舎を想定したものであり、鋼製建具、鋼製軽量建具及びステンレス製建具を対象としている。
JIS A 1541-2では、
?@ 使用頻度による性能
?A 外力に対する性能
?B 使用扉の質量による性能
?C かぎ(鍵)違い
?D デッドボルトの出寸法
?E 耐じん性能
の6項目について、それぞれグレードが定められており、「標仕」では、耐じん性能を除く5項目についてグレード3以上としている。耐じん性能は、使用する場所により要求性能が異なるため規定されていないが、ちりやほこりの多い場所では、グレード2の製品を使用するのが望ましい。
また、枠類の厚さが1.5mm以上のものの場合の外力に対する性能のストライクの仕様については、グレード3の規定を適用しないこととされている。
なお、本締り付きモノロック及びモノロックについては、耐じん性能を除く実用性能項目の5項目のすべてでは、グレード3を満足してはいない。
JIS A 1541-2については、16.8.5(b)(2)を参照されたい。
錠前類には、「標仕」で要求する品質を満たすものとして、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4(e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。
(g) 閉鎖金物のストップ装置
「標仕」表16.8.1では、フロアヒンジ、ヒンジクローザー(丁番形・ピボット形)、ドアクローザーについて、防火扉の場合ストップなしとされているが、これは防火区画に用いる防火戸を前提としたものである。
(h) 金物の寸法 個数(枚数)
「標仕」16.8.2(g)、(h)及び(i)では、金属製建具及び樹脂製建具に使用する丁番及び戸車並びに木製建具に使用する丁番、ビボットヒンジ,戸車及びレールについて、寸法、個数を細かく規定している。
なお、「標仕」表16.8.2の丁番の長さ127 (125)、152(150)は、それぞれ 5インチ、6インチをmmに換算した寸法なので、建具金物製造所によりばらつきがある。そのため、127 及び 152 は一般的な呼び寸法を表し、( )内は最小呼び寸法を表している。
16.8.3 取付け施工
(a) 金物の取付け位置は、特記によるが、どこを基準とする寸法なのかを明記する。一般的な寸法は、次のようであり、図16.1.3に開き戸での錠、取っ手、丁番の位置、及び図16.1.4に引戸での引手、クレセントの位個の取り方を示す。
(1) 取っ手類の位置は、床上から高さ1.0m(押板類は1.1m)程度が一般的である。バックセットは「標仕」表16.8.1では、握り玉の場合6 0mm以上、レバーハンドルの場合 50mm以上とされており、前者の場合 60〜70mm、後者の場合50〜60mmが一般的である。
(2)排煙窓に手動開放装置を設ける場合の位置は、16.1.7(b)(3)による。
(b) 金物の取付けは、水平垂直に留意して、建具が円滑に作動するように注意を払いながら、他部材との納まり具合(金物の作動時に他部材と接触しないなど)、戸と枠との適正な隙間、出入りを調整し、支持部材に堅固に取り付ける。
なお、取付けに際しては、戸や枠が正確に施工されていることを前提とするが、現実には、戸や枠に微妙な誤差が生じているため、両者を調整しながら取り付けることになる。
(c) 金物の取付けに使用するねじ類(小ねじ、タッピンねじ、木ねじ)は、所定の数量及び長さのものを使用する。「標仕」では、ねじ山が金属板に3山以上掛かるようにまた、ねじの先端が金属板の外に3山以上出るように規定している。
(d) フロアヒンジ等金物をコンクリートに埋設するものは、主要な構造躯体を損傷しないように配置する。やむを得ず梁等と取り合う場合は、主筋とぶつからないようにあらかじめ梁を下げるなどの処置が必要となる。また、フロアヒンジの内部に水が入らないよう、水掛りでは多少高目に取り付ける必要がある。周囲がカーペット敷きの場合は、鋭いカバープレートの角が靴に当たるので、角がとがらない特殊なカパープレートを用いたり、フロアヒンジを低く取り付け、戸を上げてカーペットに擦らないようにする。ただしその場合は特注品となる。
(e) 金物の取付け後、金物のきしみ、緩み、がたつき、建具の異常な応力、たわみ変形等が生じず、円滑に作動するように調整及び確認を行う。
16.8.4 鍵
(a) マスターキー
鍵(キー)は、各錠ごとに異なっているが、建物管理上は多くの鍵を持ち歩くことになり、極めて不便である。そのため多数の錠を一つの鍵で操作できる鍵(マスターキー)を作ることになる。「標仕」では、マスターキーの扱いについては、特記によるとしている。錠と鍵の関係を組織的に管理する方式をキーシステムといい、表16.8.2に示すような方式がある。
なお、一つの建物に2以上の製作所の錠を使用する場合や施錠システムが異なる錠を混用する場合は、マスターキーを1つにすることは難しい。
表16.8.2 キーシステムの種類
(b) 製作者、施工者及び監督職員、場合によっては施設管理担当者の立会いのうえ、錠と鍵を照合し、確認する。特に操作が複雑と思われる金物は、操作取扱説明書を提出させ、必要に応じ施設管理担当者立会いのもとで操作実習を行う。
(c) 鍵は、整理し、鍵箱に収納して提出させる。「標仕」では、鍵箱は、鍵の個数に応じた鋼製の既製品としている。また、フック棒等の金物の付属部品もそろえて引き取る。
なお、コンストラクションキーシステムを用いた場合は、工事用シリンダーから本設シリンダーに切り替えたのち、不用になった工事用の鍵を提出させて、その確認を行う。
(d) 「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」(平成15年法律第65号)に基づき、「指定建物錠の防犯性能の表示に関する基準」が平成16年4月より施行されている。
(-社)日本サッシ協会、(-社)日本シャッター・ドア協会及び (-社)カーテンウォール・防火開口部協会では、 日本ロック工業会の協力を得て、子鍵の袋の中に同法第7条に規定された表示カードを入れることで正確な情報が建物の発注者、使用者に間違いなく届くように指導している。
16.8.5 JIS、資料他
(a) 錠を構成する部品の名称等を表16.8.3及び図16.8.5に示す。
表16.8.3 錠を構成する部品の名称及び機能
図16.8.5 錠を鋼製する部品の形状例及び名称
(b) 建具用金物関係のJIS
(1) JIS A 1541-1(建築金物一錠ー第1部:試験方法)
JIS A 1510-1は廃止となり、2006年にJIS A 1541-1が制定されている。この規格では、錠に対する試験条件、試験装置及び試験方法が規定されている。試験項目としては、耐久性試験、強度試験、耐食性試験、安定性試験、電気的試験、シリンダの耐じん性試験、表面仕上げ試験が規定されている。
(2) JIS A 1541-2(建築金物 - 錠 - 第2部:実用性能項目に対するグレード及び表示方法)
この規格では、建築物の開口部の戸に用いる錠の実用性能項目、
?@ 使用頻度による性能
?A 外力に対する性能
?B 使用扉の質量による性能
?C かぎ(鍵)違い.
?D デッドボルトの出寸法
?E 耐じん性能
の6項目について、それぞれのグレード及び表示方法について規定されている。
JIS A 1541-2で規定されている6項目の性能について、表16.8.4から表 16.8.9に示す。
表16.8.4 使用頻度による性能(JIS A 1541-2 : 2006)
表16.8.5 外力に対する性能(JIS A 1541-2 : 2006)
表16.8.6 使用扉の質量に対する性能(JIS A 1541-2: 2006)
表16.8.7 かぎ(鍵)違い(JIS A 1541-2 : 2006)
表16.8.8 デッドボルトの出寸法(JIS A 1541-2 : 2006)
表16.8.9 耐じん性能(JIS A 1541-2: 2006)
(3) JIS A 1510-2(建築用ドア金物の試験方法ー第2部:ドア用金物)
建築物の開口部の戸に使用する金物のうち、丁番、グラビティヒンジ(トイレブース等に使用するせり上り丁番をいい、閉戸は戸の自重によって行われるもの)、戸当り、上げ落し、用心鎖及びガードアーム(鎖の代わりに棒状ループ状又は板状の部品を用いて開戸を制限するドア用金物)の試験方法について規定されている。
(4) JIS A 1510-3(建築用ドア金物の試験方法ー第3部:フロアヒンジ、ドアクローザ及びヒンジクローザ)
(5) JIS A 5545(サッシ用金物)
JIS A 4706(サッシ)に規定するスライデイングサッシに使用する金物のうち、戸車及びクレセントについて規定されている。
(c) 錠及び吊り金物類の用語の解説を表16.8.10及び表16.8.11に示す。
表16.8.10 錠(その1)
表16.8.10 錠(その2)
表16.8.11 吊り金物類(その1)
表16.8.11 吊り金物類(その2)