05節「標仕」以外の工法
11.5.1 陶磁器質タイル先付けPC部材
作業の流れを図11.5.1に示す。
図11.5.1 陶磁器質タイル先付けPC部材製作の作業の流れ
(b) タイル先付けPC部材の種類
タイル先付けPC部材は、型枠ベッドにタイル又はタイルユニットを取り付ける方法によって、図11.5.2 〜4の3種類に大別される。
図11.5.2 タイルシート法
図11.5.3 目地桝法
図11.5.4 タイル単体法
(c) 材 料
(1) タイルは「標仕」11.4.2による。
(2) タイルユニットは「標仕」11.4.2(e)によるほかに、60℃程度の蒸気養生で著しい変形・変質のない材料としなければならない。
(3) タイルユニットには次のような性能が要求される。
(i) 型枠への配列固定が容易にできる。
(ii) セメントペーストが漏れない。
(iii) 裏打ちシート・目地桝がはがしやすい。
(iv) シート、目地桝の加工が容易にできる。
(v) 目地及びジョイント部の仕上りが良い。
(vi) 寸法精度が良い。
(?F) 廃材が少ない。
(4) タイルシートによるタイルユニットの割付け寸法、ユニットの寸法及び許容差、対角線長の差、目地深さの標準は、表11.5.1による。
表11.5.1 ユニットの寸法、許容差等の標準(タイルシート)
(5) 目地桝によるタイルユニットの目地枠の形状、タイルの割付け寸法、ユニットの寸法及び寸法許容差、対角線長の差、桝目の内法寸法の許容差、ベースの厚さ、目地深さの標準を表11.5.2に示す。
表11.5.2 ユニットの寸法、許容差等の標準(目地桝)
(d) タイル先付けPC部材の製作
タイル先付けPC部材の製作は「標仕」17章3節及び20章3節によるが、タイル先付けPC部材の場合には次の点に注意する必要がある。
(i) 型枠の組立
?@ タイルを敷き並べる面は、コンクリート等の付着物が残っていると、タイルの配列固定上の障害となるので丁寧に取り除く。
?A タイルを敷き並べる面にははく離剤を塗り付けない。また、タイルを先付けしない型枠面は、タイルを敷き並べる前にはく離剤を塗り付ける。タイル裏面にはく離剤が付着すると接着強度の低下につながるので注意する必要がある。
(ii) タイル及びタイルユニットの敷並べ
?@ タイルシート法
タイルユニットは、コンクリートの打込みの際に移動しないように、両面粘着テープ、所定の接着剤等を用いて型枠に固定する。
?A 目地桝法
1) 目地桝の固定は、平部では必要ないが、立上り部分は両面粘着テープ等で固定する。
2) タイルの固定は,所定の接着剤等で行う。
?B タイル単体法
1) タイル単体法では、タイル割付け図に従って型枠面に基準線を引き、600 mm間隔程度にタイルの位置決めの定規となる目地(決め目地)を固定したうえでタイルを敷き並べるとよい。
2) 目地材は幅の異なる数種類を用意し、タイルの寸法のばらつきを目地幅で調整しながら敷き並べるとよい。
(iii) 鉄筋溶接金網の取付け
タイル裏面に接してスペーサーを置くと、タイルとコンクリートの接着面積が減少するので、鉄筋・溶接金網は、水平に吊り下げて、所定のかぶり厚さを確保するのがよい。鉄筋のかぶり厚さが不足していると、コンクリートの中性化及び塩害により鉄筋が錆びやすくなり、錆によって表面のコンクリートとタイルが押し出されてはく落に至ることがあるため、注意が必要である。
溶接金網で垂れやすいものについてはスペーサーを使用することとなるが、タイルと面で接するものは避ける。
(iv) コンクリートの打込み
コンクリートの締固めに際して、棒形振動機を使用する場合は、その先端でタイルに衝撃を与えないように注意する。また、テープルバイプレーターを併用する場合は、前もって試験打ちを行い、タイルの移動やセメントペーストの漏れ出しがないか確認しておくことが望ましい。
(v) コンクリートの養生
加熱養生を行う場合は、温度の上昇・下降の勾配及び最高温度についてタイルの接着強度の低下の原因とならないように注意しなければならない。また、タイルを敷き並べた型枠ベッド面に蒸気が直接当たり、型枠ベッド面の温度がコンクリート温度より極端に上がると、タイルの接着強度に悪影響を及ぼすこととなるため、蒸気の配管及び噴出口の設定にも注意する必要がある。
(vi) 脱 型
脱型・移動・反転等では、コーナ一部のタイルに大きな力が加わり、タイルの欠け、はく落等が生じないように注意する必要がある。
(?F) タイル面の清掃
タイル面の清掃は、11.2.8(b)による。
(?G) タイルの補修
タイルの欠落、浮き、埋没、著しい破損及び割れがあるものは、タイルの張替えを行う。張替えの方法ば11.4.4 (h)(3)による。
(ix) 養 生
PC部材の保管中に雨水による汚れがタイル表面に強固に付着する場合があるので、汚れが付着しないように養生方法を工夫する必要がある。
(e) タイルの接着性の検査
(1) 打診による確認
タイル面は全面にわたり、打診用ハンマーを用いて打診を行う。打診の方法は、「標仕」11.1.5(b)による。
(2) 接着力試験
タイルは、必要に応じて試験体を作製して接着力試験を行うとよい。接着力試験を実際に建物に取り付けられるPC部材で行うと、その補修箇所が欠陥につながることが考えられるため、試験体で行うことが望ましい。接着強度は陶磁器質タイル先付け工法に準じ、0.6N/mm 2 以上とするのが適切である。接着力試験の方法は、「標仕」11.1.5(c)による。
11.5.2 タイル張り外壁のはく落防止の工法
タイル張り外壁のはく落事故を防止するための技術開発が活発に行われている。既往の報告によればタイル張り外壁のはく落事故の多くは、コンクリート躯体と下地モルタルの界面はく離によるもの、あるいは下地モルタルと張付けモルタルの界面はく離によるものである。これらの界面はく離を防止する目的で(1)から(6)までに示すような工法が開発され、普及しはじめている。
これらの工法は営繕工事では今までの実績が少なく、現段階で「標仕」に採り上げられていない。しかし、タイル張り外壁のはく落防止に対する要求が高まっており、特記による採用も考えられることから、次に工法の概要を述べる。
(1) 下地吹付け工法
吹付け用に調合したモルタルをモルタルポンプを用いて圧送し、高圧空気と一緒に吹き付けて、モルタル下地を作る工法である。こて塗りによらず機械で吹き付けることにより、コンクリートとモルタルとの接着強度のばらつきが少なくなる。また、施工性が向上し、省力化を図ることができる。
この工法で使用する吹付け機械の例を図11.5.5に示す。吹き厚に応じてノズルの径(φ 4,6,9mm)を選択する。
吹付け工法のモルタルは、軽量骨材が混入された既製調合モルタルが使用される場合が多い。軽量骨材が混入されている理由は、こて押えを容易にするためとモルタルのだれと飛散を少なくするためである。このようなモルタルを使用する場合は、必ず翌日に散水を行う。現場調合モルタルの場合は、けい砂等を骨材に使用し、セメント混和用ポリマーデイスパージョンを混和する。吹付け工法の場合には、モルタル軟度の管理が重要であるが、適切なモルタルの軟度は調合、施工時の環境条件、下地の吸水の程度等によっても異なるため、実施工前に試験施工を行って吹付け状態を確認する必要がある。
吹付けの手順は、15 mmを超える厚さに吹き付ける場合は、下吹き・中吹き・上吹きの3回吹きとし、15mm以下の場合は中吹きを省略した2回吹き、7mm程度の場合は上吹きのみを上付け・下付けに分け、追いかけ吹きとするのが一般的である。
図11.5.5 吹付け機械の例
(2) 立体繊維材料張り工法
(i) 立体繊維材料の種類
立体繊維材料は、タイル張り仕上げのはく落防止を目的として開発されたもので、表11.5.3に示すものが代表的である。素材繊維としてポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、炭素繊維が使用されている。利用形態は、立体網目不織布及び立体織布の2種類がある。
表11.5.3 立体繊維材料の種類
(ii) 施工法
下地調整されたコンクリート面にポリマーセメントモルタルで立体繊維材料を張り付ける。モルタルと躯体との一体化をより高めるうえでアンカーピンの併用が望ましい。施工手順の一例を図11.5.6に示す。
図11.5.6 施工手顧の一例
(3) 躯体コンクリートに直接タイル張りする工法
モルタルにより下地を作製しないで、コンクリートに直接タイル張りを行う工法で、「直張り」と呼ばれている。下地モルタルがないために接着界面の数が減少する。この工法を採用するためには、コンクリートの精度を高める必要があり、要求される仕上り精度コンクリート型枠の精度等を考慮して判断する必要がある。
コンクリート表面は下地モルタル表面に比べて平滑である。特にせき板に表面処理合板や鋼板を使用した場合には顕著である。この平滑なコンクリート面は、張付けモルタルの付着が悪く、コンクリート界面からのはく離原因の一つに挙げられている。このため、平滑なコンクリート面には必ず目荒しを行う。
タイル張りは、コンクリート下地との付着を良くするために、ポリマーセメントを用いて、こて圧をかけてこすりを行ったのち、同じ調合のポリマーセメントを塗り付けて、タイル張りを行う。
また、タイル張り前にコンクリートの不陸補修を行う場合のモルタルも.ポリマーセメントモルタルを使用する。
(4) 押出成形セメント板へのタイル張り
押出成形セメント板に対してタイル仕上げを行う方法として。は次の3種類がある。
?@ 現場におけるタイル張り
図11.5.7に示すようなタイル張り専用のあり状の溝を設けた押出成形セメント板に、モルタルを用いてタイル張りを行う。押出成形セメント板は、温度変化や乾燥・湿潤によるディファレンシャルムーブメント、外力等による壁面の動きはRC壁に比較して大きい領向があるため専用のものを用いる必要がある。また、張付けモルタルにはポリマーセメントモルタルを用いるのが望ましい。マスク張りの場合は溝にモルタルが充填されるように押出成形セメント板にも張付けモルタルを塗り付け、硬化の状態を見計らってタイルを張り付ける。
図11.5.7 タイル張り用押出成形セメント板表面の断面例
?A タイル工場張りパネル
図11.5.7と同じ専用の押出成形セメント板に、工場でモルタルを用いてタイルを張り付けたパネルであり、工場張りであるためにタイルの接着強度のばらつきが少ない。
?B 乾式工法
図11.5.8に示すように、リブを設けた押出成形セメント板に専用のタイルを引っ掛けていく工法であり、タイルのはく落の危険性が少ない。タイルは一部を接着剤、金具等で固定する。
図11.5.8 押出成形セメント板を下地とした乾式工法の例(最新タイル工事施工マニュアルより)
(5) 先付け特殊繊維シートによるタイル張りモルタル層のはく落防止工法
特殊繊維シートとは、図11.5.9に示すように、スパンボンド基布にビニロン繊維をニードルパンチ加工した繊維シートの片面に、アクリル系ポリマーセメントを含浸コーティングしたシートである。この特殊繊維シートを、タッカー等により合板型枠に取り付けて、建て込み、コンクリートを打ち込む。脱型後は、ビニロン繊維面が繊維シート状のタイル下地層となる。この下地面に対して、張付けモルタルでタイルを直張りする工法である。躯体コンクリートとタイル張付けモルタルの間に、特殊繊維シートによる機械的な連結が付与され、万が一タイル張りモルタル層に浮きが生じても、はく落を防止する。
図11.5.9 特殊繊維シート
(6) コーン状係止部材及び短繊維混入モルタルを併用したタイル張り工法
ループ状突起物を有するコーン状の係止部材と、短繊維を混入したモルタルとを用いることで、躯体コンクリート表面とモルタル層の界面でのはく落を防止するタイル張り工法がある。施工手順の一例を図11.5.10に示す。
図11.5.10 施工手順の一例
参考文献
- no image