10節 内装材料から発生する室内空気汚染物質への対策
19.10.1 一般事項
(b) ホルムアルデヒドの発散と放散
建築基準法等では「ホルムアルデヒド発散建築材料」、「ホルムアルデヒド発散速度」等と記しており、JISやJASでは「ホルムアルデヒド放散量」、「ホルムアルデヒド放散速度」等と記している。いずれも、告示等に関連して呼称が定められているが同じ意味と考えてよい。本指針においても、「発散」と「放散」を同じ意味で、適宜使用している。
19.10.2 厚生労慟省が定めた室内濃度の指針値
厚生労働省は1997年6月にホルムアルデヒドについての室内濃度の指針値を定めた。その後、表19.10.1に示すような化学物質について室内濃度の指針値を定めている。この濃度指針値は、現時点で入手可能な毒性にかかわる科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したものである。国土交通省ではシックハウス対策を盛り込んだ改正建築基準法を平成15年7月に施行した。その改正建築基準法では、居室のホルムアルデヒド濃度を厚生労働省が定めた濃度指針値(100μg/m 2 )以下に抑制するために、通常必要な、建築材料、換気設備等に関する構造基準を定めている。
表19.10.1 厚生労働省が定めた室内濃度指針値
19.10.3 建築基準法におけるシックハウス対策
(a) 対策の概要
平成15年7月1日にシックハウス対策を盛り込んだ「建築基準法等の一部を改正する法律」(以下、この節では「法」)が施行された。その概要は次のとおりである。
(i) 防蟻剤として用いられていたクロルピリホスの使用禁止
(ii) 「第一種、第二種及び第三種ホルムアルデヒド発散建築材料」を告示で指定し、これらのホルムアルデヒド発散建築材料については居室の種類及び換気回数に応じて、内装仕上材としての使用制限を行う。
(iii) 居室には一定の条件を満たす機械換気設備等の設置を義務付ける。
(iv) 天井裏等については、次のいずれかの対応を行う。
?@ 下地材、断熱材等への第一種及び第二種ホルムアルデヒド発散建築材料の使用禁止
?A 気密層又は通気止めにより、居室内へのホルムアルデヒド流入の抑制
?B ?@又は?Aの対策を講じていない天井裏等の部分について、居室の空気圧が当該天井裏等の部分の空気圧以上となるよう機械換気設備等により措置を講ずる。
(b) ホルムアルデヒド発散建築材料
(1) ホルムアルデヒド発散建築材料は、平成14年の国土交通省告示(以下「告示」)第1113〜1115号により指定されている(以下「指定建築材料」)。指定建築材料の一覧を表19.10.2に示す。
表19.10.2 指定建築材料の一覧
(2) 法でホルムアルデヒド発散建築材料として規制を受けるのは、表19.10.2に示された材料が居室の仕上材や下地材に使用された場合である。
表19.10.2から分かるように、指定建築材料に該当しないものには、塗料で「合成樹脂エマルションペイント」、「つや有合成樹脂エマルションペイント」、「合成樹脂エマルション模様塗料」等、また、仕上塗材で「内装セメント系薄付け仕上塗材」、「内装消石灰・ドロマイトプラスター系薄付け仕上塗材」、「内装水溶性樹脂系薄付け仕上塗材」、「内装消石灰・ドロマイトプラスター系厚付け仕上塗材」、「内装せっこう系厚付け仕上塗材」等、更に、接着剤では「ポリ酢酸ビニルエマルション系接着剤」、「エポキシ樹脂系接着剤」等がある。
(3) 指定建築材料であっても、法の規制対象とならない場合がある。それは、面的に用いない柱等の軸材や回り縁、窓台、幅木、手すり、かもい、敷居、なげし等の造作部分、建具枠、部分的に用いる塗料や接着剤等は対象外である。ただし、これらの露出面積が室内に面する面積の1/10を超える場合は、面的な部分と見なして規制対象となる。
(c) ホルムアルデヒドの発散速度による指定建築材料の種別
(1) 指定建築材料は、ホルムアルデヒドの発散速度により表19.10.3のように、第一種ホルムアルデヒド発散建築材料(表示なし。ただし、一部のJASではF☆)、第二種ホルムアルデヒド発散建築材料(F☆☆)、第三種ホルムアルデヒド発散建築材料(F☆☆☆)に分類される。また、ホルムアルデヒドの発散速度が極めて低い(0.005mg /m 2 h以下)材料は、最上位規格の材料(F☆☆☆☆)として位置付けられ、ホルムアルデヒド発散建築材料としての規制を受けない。
表19.10.3 ホルムアルテヒドの発散速度による指定建築材科の種別等
(2) 指定建築材料の種別による使用制限は、次のとおりである。
(i) 第一種ホルムアルデヒド発散建築材料は居室の内装仕上げに使用できない。
(ii) 第二種及び第三種ホルムアルデヒド発散建築材料を居室の仕上材に使用する場合は、換気回数に応じて、居室の床面積に対する内装材の露出面積が規制される。
19.10.4 「標仕」におけるホルムアルデヒドを放散する材料の扱い
(a) 「標仕」においては現場における工事管理上の簡明化等を図るため、法による規制にかかわらず、適用する材料規格でホルムアルデヒドに関する品質基準が定められているものについては、特記がなければホルムアルデヒド放散量F☆☆☆☆のものを使用することとしている。
(b) この要求は、法に基づくものではないため、材料の市場性、部位、使用環境等を考慮して特記によりF☆☆☆☆以外のものを使用する場合もある。この場合は特記されている内容を十分確認して工事監理をする必要がある。
なお、特記された内容に適合するものが入手困難な場合等は、「標仕」1.1.8[疑義に対する協議等]を適用して処理することになる。
19.10.5 指定建築材料及びその他の材料のホルムアルデヒド放散等級等の表示と確認
(a) ホルムアルデヒド放散等級の表示システム
建築材料のホルムアルデヒド放散等級の表示にかかわるシステムは、その対象製品数が多いこともあって複雑である。ここでは、建築材料を次の4つに区分して考えることとする。
(i) 指定建築材料であり、かつ、材料の品質が JISやJAS(以下「JIS等」)に適合するもの
?@ 材料がJIS等のマーク表示品の場合は、JIS等に規定されるホルムアルデヒド放散区分等の表示で確認する。
?A JIS等があっても JIS等のマーク表示対象外の材料やJIS等に適合するものでもJIS等の認証を取得せずに製品を製造している場合がある。この場合は、ホルムアルデヒド発散等級に関して指定性能評価機関で評価を取得して国土交通大臣の認定を受けたものを認定に基づく表示で確認する。
(ii) 指定建築材料であり、その材料に関するJIS等が存在しないもの又はJIS等があってもホルムアルデヒド放散等級に関する品質規定がないもの
?@ ホルムアルデヒド放散等級に関して指定性能評価機関で評価を取得して国土交通大臣の認定を受けたものを認定に基づく表示で確認する。
?A なお、このような材料を工事で使用する場合「標仕」では、ホルムアルデヒド放散量等を含めて材料の品質基準等を特記により指定しなければならない。
(iii) 指定建築材料ではないが、JIS等にホルムアルデヒド放散等級等が規定されているもの
なお、この場合も「標仕」では特記がなければF☆☆☆☆としている。
?@ 建築材料がJIS等のマーク表示品の場合は、JIS等に規定されるホルムアルデヒド放散区分等の表示を確認する。
?A JIS等が存在しても、JIS等のマーク表示を行っていない材料や、JIS等の適合品であってもJIS等の認証を取得せずに製造している場合等は、事業者団体等でホルムアルデヒド放散等級等に関して自主表示制度を実施している場合がある。この場合は、その表示を確認する。
なお、指定建築材料以外のものは国土交通大臣の認定は行っていないが、指定性能評価機関がホルムアルデヒド発散等級を独自に評価する場合もある。この場合は、評価に基づく表示を確認する。
(iv) 指定建築材料以外で、JIS等にホルムアルデヒド放散等級が規定されていないもの
なお、JASS等「標仕」で指定した規格にホルムアルデヒド放散量が規定されている場合は、「標仕」では、特記がなければF☆☆☆☆のものとしている。
?@ 事業者団体等でホルムアルデヒド放散等級等に関して、自主表示制度を実施している場合があるので、その場合は自主表示制度に基づく表示を確認すればよい。
?A (iii)?Aのなお書きと同様に、指定性能評価機関がホルムアルデヒド発散等級を評価する場合は、評価に基づく表示により確認する。
以上のように、ホルムアルデヒド放散等級の表示には
?@ JIS等に基づくもの.
?A 国土交通大臣の認定によるもの、
?B 指定性能評価機関の評価によるもの及び
?C 事業者団体の自主表示によるもの
が存在することに留意する。
(b) 各表示システムにおけるホルムアルデヒド放散等級の表示等
(1) 建築材料関連のJIS及びJAS
(i) 法の改正を受けて、シックハウス対策のためのJIS及びJASが整備され、新たに接着剤、壁紙、塗料、断熱材についてもホルムアルデヒド放散量による等級区分が設けられた。
JIS及びJASでは個別材料のホルムアルデヒド放散量による等級区分及びその表示記号として統一的に、
F☆☆☆☆:放散量が小さく使用規制が必要ないもの
F☆☆☆ :放散量が比較的少なく、内装材として用いる場合は使用面積を一定割合にすることで使用でき、天井裏等では制限なく使用できるもの
F☆☆ :放散量はある程度あるが、内装材として用いる場合は使用面積を一定割合にすることで使用でき、天井裏等では換気設備や通気止めを設けることで使用できるもの
F☆ :内装の仕上げとして使用できないもの(一部のJASに設けられた等級)等が用いられる。
なお、JASでは「非ホルムアルデヒド系接着剤使用」等の表示が用いられるが、これらはF☆☆☆☆と同様に建築材料の使用規制対象とならないものである。
(ii) 個別指定建築材料のJAS(法による規制対象品)
?@ 合板、木質系フローリング、構造用パネル、集成材及び単板積層材についてホルムアルデヒド放散量による等級区分が設けられている。ただし、コンクリート型枠用合板についてはF☆☆☆☆のものはない。
?A これらの材料の等級区分は、ホルムアルデヒド放散量によるもの、使用する接着剤及び塗料の規制によるものなど、個別の材料によって詳細に規定されている。
(iii) 個別指定建築材料のJIS(法による規制対象品)
?@ MDF、パーティクルボード、壁紙、接着剤、建築用仕上塗材、塗料等についてホルムアルデヒド放散量による等級区分が設けられている。
?A これらの材料の等級区分は、ホルムアルデヒド放散量又は速度によるもの、材料の主成分によるものなど、個別の材料によって詳細に規定されている。
なお、具体的内容等は、国土交通省住宅局建築指導課他編「建築物のシックハウス対策マニュアル」(以下、この節では「対策マニュアル」という。)を参照されたい。
(2) 国土交通大臣による認定
指定建築材料で、JIS又はJASに基づく等級区分等の表示ができないもの(例えば、二次加工にホルムアルデヒド系接着剤を使用したものなど)は、原則として、国土交通大臣による認定が必要である。大臣認定は、法に基づく指定性能評価機関の評価を受け、その性能評価書を添えて大臣認定の申請をすることにより国土交通大臣の認定書が交付される。
(3) 指定性能評価機関の評価書による表示
国土交通大臣の認定は指定建築材科を対象に実施されるが、指定建築材料に該当しないものについても、一部の指定性能評価機関はホルムアルデヒド発散建築材料に関する評価書を独自に発行している。
(4) 事業者団体等による表示
指定建築材料の一次製品については、JIS若しくはJASによる表示又は大臣認定が行われ、それにより等級を確認できる。しかし、二次加工品等についても、告示に適合することを、分かりやすく表示する必要があり、事業者団体等による表示制度が設けられている。
なお、表示の例は、対策マニュアル、事業者団体等による資料等を参照されたい。
19.10.6 シックハウス問題に対応した建築材料
近年、ホルムアルデヒド等を材料の表面から吸着したり、分解したりして「室内化学物質濃度の低減が可能」とする材料がかなり見られるようになってきたが、その評価基準等については試験方法等が統一されておらず、供給者が独自の試験結果等を提示しているのが現状である。
十分な効果があるかどうか、また、その効果の持続性がどの程度あるのか、有害物質の副次的な放散はないか、などについてはまだ不明の部分も多いので、採用に当たっては製造所等のデータや試験条件等をよく検討する必要がある。
これらの材料について、現状では次のようなものがある。
(1) 多孔質塗壁材:珪藻土、ゼオライト、ホタテ貝殻粉末、シラス等を原料とする壁材。光触媒を加えたものもある。
(2) 壁材:多孔質セラミックタイル、天然ゼオライトボード、珪藻頁岩セラミックボード、化学薬剤含有せっこうボード等
(3) 天井材:化学薬剤含有ロックウール天井板等
(4) 床材:備長炭入り畳、化学薬剤含有カーペット等
(5) 設備系:空気清掃機能付き換気扇、空気清浄機能付きエアコン等
なお、(-財)日本建築センターでは「新建築技術認定事業」を設け、これらの材料に対して認定している。その一つに「室内空気中の揮発性有機化合物汚染低減建材」があり、数種の材料が認定技術を取得している。
19.10.7 ホルムアルデヒド及び他の揮発性有機化合物を対象とした工事上の配慮事項
(a) 一般事項
平成24年4月5日に「官庁営繕部におけるホルムアルデヒド等の室内空気中の化学物質の抑制に関する措置について」(1.5.9(b)参照)が、各地方整備局営繕部長等あてに通知されている。この中では、?@ 建築材料等の適正な選択による対策、?A 施工中の安全管理、?B 施工終了時の測定、?C 施設引渡し時の保全指導等が示されていることに注意する必要がある。
ここでは、工事監理及び施工管理における一般的配慮事項について述べる。
(b) 材料の受入れ検査
ホルムアルデヒド放散区分の表示を有する材料(指定建築材料以外のものを含む。)についてはホルムアルデヒド放散等級の区分を確認する必要がある。
なお、「標仕」では、特記がなければ、最上位の規格であるF☆☆☆☆を使用することとしている。
(c) SDS(安全データシート)の活用
ホルムアルデヒドについては法に基づき、表示システムが整備されたのでそのシステムにより材料のチェックが可能である。しかし、ホルムアルデヒド以外の揮発性有機化合物(トルエン、キシレン、スチレン等)に関しては、JIS等による規格化が検討の途上であり、含有しているか否かや放散速度のデータ等の判定が難しいものも多い。しかし、接着剤、塗料等に関しては少なくとも製造業者等から SDSを入手しておくことが大切である。
なお、SDSとは、化学物質及びそれらを含有する製品の物理化学的性状、危険有害性、取扱い上の注意等についての情報を記載した安全データシート(Safety Data Sheet)のことである。
平成11年7月に公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下「化管法」)のもと、PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)が導入され、化学品の性状や取扱いに関する情報の提供を規定する制度((M) SDS制度)が法制化され.平成13年1月から運用されている。
また、様々な化学品が世界各国で流通している近年、国際標準となる情報伝達方法の整備の必要性が高まっており、平成15年には、化学品の分類・表示方法の国際標準として「化学品の分類およぴ表示に関する世界調和システム(GHS)」が国連において採択された。GHSの導入は、欧米諸国やアジア各国においても進められてきているが、日本でも化管法に基づく情報伝逹等において、その導入が進められており、平成24年6月から、化管法に基づく情報伝達を行う際には、GHSに基づくJISに適合するSDS及びラベルの提供に努めることとなっている。
したがって、材料の購人者等はこのシートの提出を製造者に対して求めることができる。
なお、SDSでの表示が義務づけられない場合は各法律で異なっているため、注意が必要である。例えば、PRTR指定化学物質を含有する製品の場合では、次のような場合は対象とならない。
?@ 指定化学物質の含有率が指定の値より小さいもの
?A 固形物であり、使用時にも同形物以外の形状(粉休や液体)とならないもの(管、板、組立部品等)
?B 密封された状態で使用されるもの(バッテリー、コンデンサー等)
?C 一般消費者用の製品(家庭用l洗剤、殺虫剤等)
?D 再生資源(空き缶、金属くず等)
ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等の化学物質を一定量以上含有する材料は、このデータシートの中で、その種類、量、性状等に関する情報を記述することになっているので、SDSを入手して活用することが望ましい。
(d) 材料の保管
(1) 建築材料間での化学物質の移行を防ぐために、施工前の材料保管については、倉庫、搬送、施工現場それぞれの場所で適正な状態を保つことが重要である。
(2) 具体的には、次のようなことが挙げられる。
(i) こん包を開けたのちに放散等級が異なるものを同じ場所に置かない。
(ii) こん包を開けてむき出しの状態にしたら、放散等級が異なるものを重ねて保管しない。
(iii) 風通しに留意する。
(e) 材料の養生
(1) 化学物質を使用したものは、工場で生産されてから含有化学物質を放散し始める。その放散量は、時間の経過とともに減少するのが一般的である。
(2) したがって、搬入された材料で、可能なものは開封して風通しの良い場所に置き、化学物質の放散に努めるなどしてから使用することが望ましい。また、養生シートで覆う場合には、通気性のあるものを使用するとよい。
(f) 工事中の配慮事項
(1) (d)及び(e)に留意し、施工中の換気はもとより建築物が完成するまでの積極的な通風換気により放散を促し、少しでも室内濃度の低減に努めることが重要である。
(2) 施工段階や資材によって、室内環境は様々な影響を受けるが、一般的には、壁パネルやフローリングのような大きな面積の作業や最後の仕上げ工事・クリーニングを行うときに、室内の化学物質の濃度が上昇すると考えられる。
(3) 具体的には、戸や窓の開放による換気・通風のほか、家具やキッチンセットの扉もできる限り開放して内部に発生した化学物質を放散させることなどがある。
(4) 工程的には、工事完成から供用開始までに放散のための養生期間をできるだけ長く設けるように努める。
(5) 個別材料に対する配慮事項
(i)壁紙の場合
?@ 壁紙の施工は、一般的に下地材(せっこうボード等)にシーラー(水性アクリル系エマルション)を塗布し、でん粉系接着剤を使用して行われるため、ホルムアルデヒド等の放散は壁紙だけではなく、下地等からの影響もある。
?A 壁紙には、紙や繊維製のように通気性が高いもの、塩化ビニル樹脂やプラスチック製のように通気性が低いものなどがある。また、汚れ防止を目的として表面にガスバリア性の高いフィルムを使用したものは極めて通気性が低い。
?B 通気性の高い壁紙を使用した場合、下地材や接着剤の影響が直接出てくるため注意が必要である。
?C 過去にはでん粉系接着剤の防腐剤としてホルマリンが使用されていたことがあるが、現在はノンホルマリンタイプと称する壁紙用接着剤が一般的になっている。
でん粉系接着剤及び樹脂系接着剤についてはJISでホルムアルデヒド放散量が規定されているので、設計図書で指定された放散等級のものを使用する。
なお、「標仕」では特記がなければF☆☆☆☆としている。
?D 下地調整に壁紙用のシーラーやパテが、また、端部の仕上げにコーキング材が一般的に用いられる。これらは水性のものが主流であるが、下地の状態等から有機溶剤を含むものを使用する場合がある。その場合は十分な乾燥期間をとり、換気を十分に行う必要がある。
?E 壁紙は、シーラーやパテが十分に乾燥したのちに施工する。施工に際しては壁紙だけではなく、下地に使用する材科についても十分に注意する必要がある。
壁紙の張替えでは、施工後すぐ供用開始する場合があるため、特に注意が必要である。また、供用開始直後の十分な換気に留意する。
(ii) 塗装の場合
?@ 工場塗装と現場塗装の違い
工場で塗装され、塗膜が十分硬化していれば、現場での化学物質の放散は非常に少ないと考えられる。しかし、塗料、下地、塗装条件、塗装工程.設備条件等により化学物質の放散が残る場合がある。例えば、アミノアルキド樹脂塗料では焼付け乾燥が不十分だったりすると、ホルムアルデヒドが放散する場合がある。
現場塗装の場合は、化学物質の放散が現場で起こるので、塗装後の換気に十分留意する。
?A 新築工事と改修工事の迩い
新築の場合、現場施工の塗装工事は以前に比べ少なくなっている。また、工事完成から供用開始までに多少時間の余裕があることから、問題は比較的生じにくいと考えられる。
しかし、改修工事では、多くの場合建物を利用しながら塗装が行われるため問題が生じやすいので、施工及び養生時の換気に十分留意するとともに、工事完成後、施設の管理者に換気に対する留意事項等について十分な保全指導を行うことが重要である。
?B 塗料及び塗装工法の選択について
塗装は、その目的や下地の材質、使用環境等によって、塗料の組合せや工法等が変わる。従来は、品質やコスト等が材料や工法決定の要点であり、室内環境への配慮は少なかったが、現在は比較的低い濃度の化学物質による健康障害への防止が社会的な要請であることを十分に認識して、塗料を選定し施工を行うことが重要である。
?C 内装用塗料及び仕上塗材の場合
工程ごとの塗付け量又は所要量について施工要領書(工種別施工計画書)に明記し、施工工程の各段階及び施工完了後の換気を積極的に行い、化学物質の放散を促進させるように努める。
(iii) 接着剤の場合
?@ どのような接着剤を使用しても換気は必要であり、特に溶剤を含む場合は施工後も十分な換気を行うことが重要である。
?A 冬期の施工では、気温が低いことから、接着剤中の成分が揮発しにくくなるので、注意を要する。特に居住系の部屋のように気密性の高い場合は、施工中の換気が重要である。雨期の工事でも同様の注意が必要である。
?B 溶剤形接着剤を使用する場合は、施工要領書等を十分周知させて、特にオープンタイム(工程間隔時間)は十分にとる必要がある。
?C 2液形の接着剤を使用する場合は、混合不良により、あとで接着剤が湿気等で溶け出し、思わぬトラプルを起こすことがあるので、混合比を正確に計量して、十分に混合する必要がある。
?D 水性形接着剤(特に合成ゴム系ラテックス形等)でも、少量の溶剤を含むものもあるので、施工中も換気を行うことが望ましい。
?E ビニル床シートやフローリングの重ね張りは、先に施工したものと下地との接着が不安定になるとともに溶剤等が残りやすく、数か月残存することもあるので、こうした重ね張りは避けるほうがよい。
?F 換気の方法については、施工時に使用した溶剤が隣接する建築物や部屋に流れてトラブルになる場合もあるので、十分注意する必要がある。改修の場合には、ビニルシートや板等で施工部と供用部分とを区分けする。
?G 粘着テープやフィルムを用いる場合でも、粘着剤の成分や溶剤のトルエンが残存している場合があるので、十分換気する必要がある。
?H 日本接着剤工業会では、接着剤の施工上の基準として、接着剤の種類に応じた換気の目安等の区分を表19.10.4に、また、区分ごとの有機溶剤含有量、換気の目安等を表19.10.5のようにまとめているので参考にするとよい。
表19.10.4 接着剤の種類による施工上の注意事項
表19.10.5 有機溶剤含有量に応じた換気の目安等
(iv) 木材保存剤(現場施工用)の場合
木材の保存処理に使用する薬剤の成分は、一般に揮発性は極めて低いとされているが、現場で保存処理を行う場合には、薬剤の飛散による影響や子供の進入防止等に注意する必要がある。
なお、保存処理には、薬剤の取扱いについて専門的な知識・技能をもつ信頼できる者を選定することが重要である。
(v) 防蟻剤等の場合
?@ 法では、クロルビリホスに関する建築材料の規制として、居室を有する建築物にはクロルピリホスを添加した材料の使用が禁止された(建築物の部分として5年以上使用したものは除外)。
?A しろあり防除の土穣処理等の施工に当たっては、信頼のおける者を選定することが重要である。
?B 床下の防蟻施工を行う場合は、施工部分の床下空気が室内に流入することのないよう、十分に遮断されている床構造であることを確認する。また、防蟻処理後に床下空気が開口部を通して室内に流入しないことを確認することも重要である。
?C 薬剤の種類、成分、人体への影響、完成後の管理方法等について.「保全に関する資料」(1.7.3参照)に記載し、「施設引渡し時の保全指導」の一環として施設管理者等に十分な情報を伝えることが重要である。
19.10.8 工事完成後の配慮事項
(a) 施設引渡しの配慮事項
(1) 施工直後は、材料の表面や塗装面から化学物質が大量に放散され、室内のホルムアルデヒドや揮発性有機化合物の濃度が,極めて高い状態になることも珍しくない。化学物質の濃度低減のためには通風・換気の時間を長くとることが有効であり、供用開始までに施設全体を養生させるために、できるだけ余裕のある工程管理を行うようにする。できれば換気システムを作動させ、昼間は窓を開けるなどして、3週間程度養生してから使用することが望ましい。
(2) また、引渡し前の最終クリーニングにおいても、使用するワックス剤、洗剤、薬剤等の成分を調査し、安全性を確認することが重要である。
(3) 供用開始前に化学物質の濃度測定を行う場合には、対象物質、測定箇所、測定方法、測定データの取扱いその他について、施設管理者等と十分な打合せを行い測定することが望ましい。
(b) 保全に関する資料
(1) 「標仕」1.7.3では、施工者は保全に関する資料を作成し、提出時に監督職員にその内容の説明を行うこととしているので、必要に応じて、この説明時に施設管理者等の出席を求めるとよい。
(2) 室内空気汚染物質への対策に関する資料には、次のような内容について記載するとよい。
(i) 換気に関する注意事項
(ii) 換気設備の維持管理に関する注意事項
(iii) 家具等の配置
(iv) その他.19.10.7(f)(5)(?D)?Cの事項等
参考文献